北米で進むサーキュラーエコノミー移行に向けた取り組みは、ヨーロッパや世界の他の地域と比べ、どのように異なっているのだろうか。

サーキュラーエコノミーは、新型コロナ危機からの社会的・経済的回復の道筋を示すとともに、イノベーションを加速させ、将来的にその地域の繁栄をもたらす。フィンランド、ヘルシンキにてThe Finnish Innovation Fund Sitraが開催したウェブフォーラム「WCEFOnline(World Circular Economy Forum Online)」(世界循環経済フォーラムオンライン)のプログラムの一つ「The journey to a circular economy in the Canada-US Region(カナダ・アメリカ地域でのサーキュラーエコノミーへの道のり)」では、北米のビジネス・政治のリーダーが一同に集まり、サーキュラーエコノミーへの移行のなかでのエネルギー・資源・製造における課題を共有し、常に変化し続ける世界の消費や雇用の流れから、今後サーキュラーエコノミーへの移行を推し進める中での新たな原動力となる分野について議論を交わした。

本記事は、このイベントでのレポートを通して、北米のサーキュラーエコノミー移行への現状と課題を理解し、チャンスを探るものである。

UNEP:北米がサーキュラーエコノミーに移行するには3つの危機と3つのチャンスがある

セッションオープニングは、国連環境計画(UNEP)で事務局長を務めるInger Andersen氏の基調講演から始まった。

国連環境計画(UNEP)事務局長 Inger Andersen氏 (Image from WCEFonline, hosted by Sitra)

「今、世界じゅうで多くの人たちがサーキュラーエコノミーへの移行の必要性を感じています。特に新型コロナ危機は、その解決策としてのサーキュラーエコノミーの必要性をこれまでにないレベルで私たちに訴えかけるものとなりました。私たちは現在、3つの危機に瀕しています。1つ目が気候の危機、2つ目が自然・生物多様性の危機、そして3つ目が汚染・廃棄の危機です。これらの危機は、私たち人類の生産と消費の仕組みによって引き起こされたものなのです。だからこそ、私たちはSDGsの目標12(「つくる責任つかう責任」)達成に向けこれまで以上に取り組みを進め、経済復興のための予算を、これらの危機に立ち向かい、グリーンに変えていくために使わなければならないのです。

私たちは、北米地域の持つ影響力を認識し、正しい方向へと導いていく責任があります。

アメリカとカナダ両国の経済を合わせると、世界経済の4分の1もの規模になります。また、IMF(国際通貨基金)によると、カナダの保有する自然資源の価値は世界第3位、アメリカは世界7位を誇り、ITや金融などにおいても世界の中枢の機能を担います。

カナダでは、一人あたり年間700キロを超える量の廃棄物を生み出しています。アメリカは、固形廃棄物だけでも年間2億トン以上を排出しており、このうちの4分の3はリサイクルや再利用が可能な資源です。しかし、実際にリサイクル・再利用されるのは3割にとどまり、再製造に回される資源は全体の生産量の2%にしか届きません。

一方で、これを機会と捉えることもできます。北米で現在積極的に進められている取り組みは大きくわけて3つあります。

都市主導の「サーキュラーシティ」戦略

都市行政主導の戦略は、サーキュラーエコノミーを前進させるために重要なものとなります。一例を挙げましょう。アメリカ・アリゾナ州のフェニックス市は、2020年までに廃棄物のリサイクル率を40%まで上げると公約を発表しました。2015年には20%だったリサイクル率を2019年には36%まで向上し、2020年に目標の40%を達成することでしょう。同市は2050年までに廃棄物ゼロを達成することを目指しています。

テック・ジャイアントの存在

アメリカは非常に素晴らしい、数々のテック・ジャイアント企業を生み出してきました。彼らの社会に対する影響力とイノベーションは目覚ましいものですが、同時に、年間570億ドル(日本円約6兆円)相当もの電子廃棄物を生み出しています。これらのデバイスが修理・リサイクル可能な設計につくりかえられるだけでも大きなインパクトにつながります。さらに、彼らの提供するビッグデータ・AI・ブロックチェーンの技術を用いることで、社会に存在している資源は透明化し、追跡可能になります。つまり、サーキュラーエコノミーへの移行において非常に重要な役割を担っていくことになるでしょう。

第1次産業における大規模な移行

現在、特に石油などの資源採掘を行ってきた第1次産業は大きな変化の局面を迎えています。直近ではカナダで鉱業に大規模な投資が行われましたが、このセクターではグリーン・クリーンテクノロジーの導入が進んでいます。今後行政に求められるのは、この過程のなかで適切なリスキリング(再教育)や人員配置を行うことで、失業したり経済的に取り残されたりする人が出ないよう注意深く政策を進めることです。

北米のさまざまな産業・機関のステークホルダーたちの間で絶え間ない対話が続けられ、新しい経済への移行が推し進められることを望みます」

カナダ:新型コロナ危機をより良い未来をつくるきっかけにする

カナダ環境・気候変動大臣Jonathan Wilkinson氏は、カナダの国としてのサーキュラーエコノミー移行へ向けた取り組みについて次のように話す。

カナダ環境・気候変動大臣 Jonathan Wilkinson氏(Image from WCEFonline, hosted by Sitra)

「カナダは気候変動の問題について、非常に強固な基盤のもとに活動を積み重ねています。たとえば、森林を取り巻くバイオ経済にはすでにサーキュラーエコノミーの原則を適応し、資源がカスケードして循環する仕組みができています。ここで発生する利益によってさらなるバイオプラスチックやバイオ燃料、グリーンケミカルなどの高付加価値製品を開発・製造しています。

カナダでは2030年までにプラスチック廃棄ゼロを達成するという目標を掲げており、近く(2021年末までに)いくつかの有害な使い捨てプラスチックは禁止されます。また、プラスチックのさらなるリサイクルを促すため、生産者責任の拡大を図ります。また、こういった取り組みの要となるイノベーションや技術開発を行う中小企業などに政府として投資をしています。さらに、この秋、カナダはエレン・マッカーサー財団とともにPlastics Pactに加盟し、国を挙げてプラスチック廃棄物についての対策を強化していきます。

新型コロナ危機は、私たちの子どもたちにとってより良い未来をつくっていくために、私たちが今すべきことを示し、その機会を与えてくれています。政府・民間企業・地域社会・研究者たちは今後さらなる連携を強め、サーキュラーエコノミーに向けて歩みを進めていきましょう」

パネルディスカッション:カナダ・アメリカのサーキュラーエコノミー移行に向けて

アメリカ・Closed Loop Partners 業務執行取締役のKate Daly氏がモデレーターを務めるパネルディスカッションでは、John Coyne氏(カナダ・ユニリーバカナダ 社外交渉&サステナビリティ統括)のピッチから始まり、Emily Yates氏(アメリカ・フィラデルフィア市 スマートシティディレクター)、Stephanie Potter氏(アメリカ・アメリカ商工会議所財団 サステナビリティ・サーキュラーエコノミープログラム事務局長)、Sephanie Cairns氏(カナダ・Smart Prosperity Institute Circular Economy ディレクター)が続き、議論を交わした。

写真左上・Kate Daly氏、左下・John Coyne氏、中央上・Emily Yates氏、右上・Stephanie Potter氏、右下・Sephanie Cairns氏 (Image from WCEFonline, hosted by Sitra)

地域全体を束ねる指針が必要

ユニリーバカナダで社外交渉&サステナビリティ統括を務めるJohn Coyne氏は、サーキュラーエコノミーへの取り組みにおいて、北米地域全体を束ねる指針が必要だと指摘。

「ユニリーバ・カナダとして、私たちはできる限りのことをしてきました。完璧ではないものの、環境負荷や気候変動リスクを緩和し、社会に貢献し、サーキュラーエコノミーへの移行を現実のものにするため、会社として一歩一歩歩みを進め、今日までに大きく前進してきました。だからこそ言えることは、サーキュラーエコノミーは1社の努力だけでは絶対に達成し得ないものだということです。政策立案者・民間企業・その他すべての関係者が同じ方向を向いて協力するためには、地域全体を束ねる指針とリーダーシップの存在が必要不可欠なのです」

フィラデルフィア市:サーキュラーエコノミーの持つ社会的側面に期待

アメリカ・フィラデルフィア市のスマートシティディレクターEmily Yates氏は、サーキュラーエコノミーのもつ社会的側面について、シャーロット市の事例を挙げて、次のように期待を寄せる。

「シャーロット市はサーキュラーエコノミーへの移行にあたり重要だった都市のウェイストストリームの可視化と5つの事業戦略の策定を行いましたが、実はこの戦略は、もともと環境へのインパクトに重点を置いたものではありませんでした。当時、市では子どもの貧困の連鎖の問題に取り組んでおり、そのなかでスキルが高くない人にも新しい経済機会と雇用機会を生み出すことを目指していました。こういった背景から策定したサーキュラー戦略でしたが、サーキュラーエコノミーの社会的側面についての議論もさらに進めていくべきだと思っています」

地域に合わせた北米型サーキュラーエコノミーをつくっていくことが重要

アメリカ商工会議所財団サステナビリティ・サーキュラーエコノミープログラム事務局長のStephanie Potter氏は、サーキュラーエコノミーの側面として、経済合理性の重要性を挙げる。

「商工会議所としては、サーキュラーエコノミーへの移行は環境面で非常に強力な作用をもつだけでなく、強固な経済合理性を生み出すことに注目しています。実際に企業らにこの点を強く働きかけているところです」

北米で重要となる3つのアプローチ

カナダのCircular Economy, Smart Prosperity Instituteでディレクターを務めるSephanie Cairns氏は、北米でのサーキュラーエコノミーへの取り組みについて、地域的な特徴と重要となる3つのアプローチを投げかけた。

1. 北米ではイニシアチブやコミュニティが重要な役割を果たす

「ヨーロッパは北米に比べ、環境課題への取り組みの緊急性と重要度について広く認識されており、関係各所とのコンセンサスが取れた状況だといえます。北米では、政権が変わるごとに大きく政策が方向転換するのでは企業側も対応に頭を悩ませてしまいます。よって、イニシアチブやコミュニティ・地域が行政に働きかけるという意味でも重要な役割を果たします。この点からも、今回のカナダがPlastics Pactに加盟するというニュースは非常に大きな一歩と言えるでしょう。

また、ヨーロッパと比較したときに、北米でサーキュラーエコノミーを推し進めていくためには、初期の段階で経済的な側面とビジネスチャンスに重きをおいたストーリーテリングを展開していくことが絶対的に重要になります。よって、この点に重きを置いて政治的なイニシアチブを示すように働きかけることがサーキュラーエコノミーというアジェンダを強化することにつながるのです。

2. 「サーキュラーエコノミーモデル」を北米のレンズでみること

これまで、サーキュラーエコノミーのモデルは、製造業を中心とした経済からなる、資源輸入国としてのヨーロッパのレンズを通して開発されてきました。カナダは資源産出国であり、一次資源部門がGDPの11%を占め、輸出する商品の価値の半分以上を占めています。つまり、ヨーロッパとは経済基盤や前提が大きく異なっており、北米型のサーキュラーエコノミーモデルを描いていく必要があるのです。資源生産国のレンズを通してモデルを解釈・再考し、描き直す必要があるでしょう。

3. 豊かな土地と資源がある大陸だからこその訴求が求められる

アジアやヨーロッパと歴史的にも地理的にも決定的に違うことは、北米大陸には豊かすぎるほどの土地と資源があることです。気候変動や資源枯渇、汚染問題について訴求するよりも、経済的メリットを全面に押し出すことで、北米の文脈としてサーキュラーエコノミーを推し進めることにつながると考えています」

編集後記

サーキュラーエコノミーというとヨーロッパからの先進的な事例が多いが、北米でサーキュラーエコノミーに取り組むには、北米ならではの地域や経済の特性・構造によって解釈をし、再考した上で進めていくべきだというメッセージは非常に重く響く。また政治やそれ以外の要因によって、ステークホルダーを巻き込むために伝えるべきメッセージもその地域により大きく異なる。世界の潮流やイノベーターたちに学びながら、自分たちの地域社会を見つめた先にのみ、その地域でのサーキュラーエコノミーは存在すると気づかされた。Circular Economy Hubでは、世界のサーキュラーエコノミーへの取り組みに学びながら、世界のなかの日本を考え、日本の文脈でのサーキュラーエコノミーの可能性を模索し続けていきたい。

「世界循環経済フォーラム2020」これまでのレポート

【世界循環経済フォーラムレポート#1】 世界各国の企業トップから学ぶ、コロナ禍における新しいビジネスの形

【参照サイト】The Finnish Innovation Fund Sitra
【参照サイト】The World Circular Economy Forum Online (WCEFonline)