本連載では、2021年2月28日から3月3日にかけて、サーキュラーエコノミーをテーマに地域のあるべき姿を提示し、実装につなげるリゾートカンファレンス「GREEN WORK HAKUBA Vol.2」の様子をお届けする。中編では前編で学んだサーキュラーエコノミーの概念をさらに理解すべく、「ローカル」でのサーキュラーエコノミーの実践をテーマに、海外や国内の先進事例について触れていく。

 

1. 欧州におけるサーキュラーエコノミーとローカルのあり方 サーキュラーエコノミー研究家 安居 昭博氏 

まずは、欧州におけるサーキュラーエコノミーとローカルのあり方と題して、サーキュラーエコノミー研究家の安居昭博氏から複数の事例が紹介された。

安居昭博氏
安居昭博氏(提供:GREEN WORK HAKUBA プロジェクト事務局)

第1回に行われた GREEN WORK HAKUBA でのおさらいとして、安居氏は環境への負荷を削減しながら、ビジネスの利益、雇用創出、再エネ利用の促進をすること、そして三方よしの関係が生まれていることがサーキュラーエコノミーを実践する上でのポイントだと話した。
(前回の内容はこちらの記事から)

今回は先進的な事例のなかでも、よりローカルな視点を加えて紹介された。ここでは概要のみレポートする。

Impact Hub Amsterdam

SDGsを推進するプロジェクトに携わる団体や個人だけが入居できるシェアオフィス・コワーキングスペース。入居前にSDGsのゴール達成に向けてどのようなアプローチをしているか、そしてビジネスステージを審査され、似た目的を持つ人々が交わる場所となっている。

入居者である安居氏曰く、この場にいる皆が同じ方向性の事業を運営しているため、ネットワーキングランチやイベントで隣に座った人とも話しかけやすいそうだ。お互いに人と人をつなぎ、あらゆる企業やプロジェクトが連携するハブとしての機能を果たす場所だ。

Fashion for Good

世界初のエシカルファッションミュージアムで、体験型教育を提供している施設。果物からできた皮、生分解性のラメなど技術的に確立された製品が展示されている。ここではアディダスやステラマッカートニー、オールバーズなどと連携するなど、技術開発をしているスタートアップとグローバル企業をつなげるプラットフォームになり、新たなイノベーションを創出している。

DE HALLEN

元路面電車の工場をフードコートやデザイナーズストアが集まるショッピングモールに変貌させた場所。行政が公募をし、民間主導で進められたプロジェクトだ。全体コンセプトに「サステナビリティ」が掲げられ、廃材を用いた建物を建造し、ローカルなショップも入居しやすい工夫が施された。「サステナブル」とはなにかを知らない地域住民にも、「おいしい食事」や「おしゃれなデザイン」などの魅力から興味を持ってもらい、あとからサステナビリティに関連したストーリーを伝えることで地域に愛される場所へと発展した。

DGTL

世界初のCircular Music Festival(循環型の音楽フェス)を目指し、毎年改革に取り組むフェスティバル。再生可能エネルギーの導入や、廃棄食材を活用したメニューやミートフリーメニューの提供、そして輸入食材に頼らない調理など、提供するコンテンツの細部にまで循環型を意識した設計が施されている。さらに会場では食器の返却システムが導入されている。参加者には独自のエココインがインセンティブとして配布され、コインを貯めると参加者はシークレットブースへの立ち入りが可能になる。エンターテイメント要素を取り入れると同時に環境に配慮した工夫が凝らされている。

SDG Networking Dinner

アムステルダム東地区の自宅で安居氏が開催している少人数のネットワーキングディナー。地域住民が一人一品持ち寄って集まり、新たな出会いを創出している。同じ地区に住む共通点を持ちながらも、多様な文化的背景を持つ人々が住んでいるため、持ってくる食事も国際色豊かで、会話は深夜まで尽きないという。

2. 国内外の地域におけるサーキュラーエコノミーの先進事例

①  株式会社BIG EYE COMPANY 大塚 桃奈氏

株式会社BIG EYE COMPANYのChief Environmental Officerとしてゼロウェイストを推進する大塚氏から徳島県上勝町にて運営している「ゼロ・ウェイストセンター」について紹介された。

徳島県上勝町 BIG EYE COMPANY 大塚桃奈氏
大塚桃奈氏(提供:GREEN WORK HAKUBA プロジェクト事務局)

2003年、国内の自治体で初めてゼロウェイスト宣言を発表した上勝町。ごみ収集車が走っていない町内では、町民が自ら「WHY」と呼ばれるゼロ・ウェイストセンターへ全てのごみを持参する。

そこでは、リサイクル可否の基準で13種類45分別がされており、リサイクル率は80%、そしてごみ処理費用も分別前とくらべて3分の2も削減できている。町民にもわかりやすいよう、分別する種目ごとにそのごみをリサイクル(または処理)するときにかかる費用や加工方法、行先が明記されている。

そして上勝町の子どもたちが発案した「くるくるショップ」では、ゼロウェイストの活動をすると貯まる「ちりつもポイントカード」が発行され、地域の飲食店や環境に優しい製品と交換できる仕組みになっている。まさに地域に根差した創意工夫が施されている。

② Space&Matter共同創業者/CrowdBuilding.nl共同創業者 Marthijn Pool氏

建築と空間設計は社会文化的な課題に対する解決策を生み出し、人々を繋ぐデザインを創造できるという信念のもと、建築事務所でありながら都市開発戦略の立案をも行うSpace&Matterと、都市設計における市民のエンゲージメントを最大化するプラットフォームCrowdBuilding.nlの両社を共同設立したPool氏からの取り組みの紹介。

De Ceuvel

元造船上の汚染区域を再生するリジェネラティブな仕掛けを持つ、アムステルダムを代表するコミュニティスペース。土壌が汚染されていたために長期間活用されていなかった地域に対して、行政がサーキュラーエコノミーをコンセプトに、民間のアイデアを募り始まったプロジェクトだ。
プロジェクトは、ボランティア集団を募集した上で、廃材を集めてゼロからDIYするイベントを開催した。耐久性の高い船の土台の上にオフィスやレストランを建てて賃貸ビジネスを展開し、長期間活用すればするほど土壌を含む自然環境が再生される、リジェネラティブな仕組みを導入している。
行政や一企業が手掛けたものでは、ここまでコミュニティに愛されるような場所にならないが、しかしこのプロジェクトでは、自分たちのコミュニティという意識を持たせるためにDIYを促進したり、1000人も集まるフェスティバルも開催したりすることで、De Ceuvelは地域住民が愛着をもつ居場所のひとつになった。
建築やコミュニティデザインを作るときは、利用する人々の幸せを考え、設計やデータを公開し多くの人と共創していくことで、コミュニティが出来上がったときには一人一人が主役としてコミュニティに関わる。そのため、分野横断的に関与できる仕組みが重要だと強調された。

SCHOONSHIP

世界的課題のひとつである海面上昇問題へアプローチした、欧州委員会・オランダ政府・アムステルダム市から支援を受けて始動したプロジェクト。住む場所やコミュニティが水の上に浮いていれば気候変動の対策になると期待されている 。

ここは、水の上に浮かぶ農場(フローティング・ファーム)や電動モビリティを共有する「共生コミュニティ」の実証実験が開始されており、ここに共存するすべての人がコミュニティの一員としてエネルギーや農作物の自給自足をしている。スマートグリッドが導入され、コミュニティ内で余剰電力を分け合うなどといったテクノロジーが活用され、自律分散型のコミュニティの仕組みが構築されている。

Space&Matter共同創業者のPool氏は、あらゆるものをオープン(公開型)にして多種多様な人と資産を共有する重要性を説明した。持っている資産を共有することで新たなイノベーションが生まれ、社会全体が繁栄する仕組みが出来上がると語った。

③ VUILD株式会社 田中 翔貴氏

田中翔貴氏
田中翔貴氏(提供:GREEN WORK HAKUBA プロジェクト事務局)

「生きるとつくるがつながる社会へ」をミッションに掲げるVUILD(ビルド)株式会社。人は皆、暮らしや人生をつくる力を持っているはずと信じ、「つくる」のあり方を変え、すべての人を設計者にしたいという信念で取り組まれている。

同社は木材を加工するハードウェア(Shopbot)販売の他、建築デザインソフトウェア(EMARF)開発を手掛けており、建築の民主化を目指す。モノづくりを主軸にしたオープンコミュニティ構想し、単なる製品づくりだけではなく、製品を通じて林業と協働し、林業ツアーなども開催している。

EMARFというクラウドプレカットサービスは、設計・制作(CAD)のデータをもとに設計図を作成ができる。データはどこからでも作成でき、調達や加工場の距離を近くにすることで輸送のコストや環境負荷の低減に貢献できる取り組みだ。今後はこれらのハードウェアやソフトウェアを活用し、あらゆる企業や大学、団体と手を組み「つくる」の在り方を変えていくと意気込む。

④ 株式会社チャレナジー 海津 太郎氏

チャレナジー海津氏
海津太郎氏(提供:GREEN WORK HAKUBA プロジェクト事務局)

風力発電にイノベーションを起こし、全人類に安心安全なエネルギーを提供したいという想いを胸に取り組んでいる株式会社チャレナジーの海津氏。自然界に存在するエネルギーのなかでも枯渇せず永続的に利用可能な再生可能エネルギーだが、同社は、そのなかでも日本国内では主力になっていない風力発電事業に注力している。

風力発電だけでも国内の年間消費電力量の3.1倍を賄えるデータも出ていることから、梅津氏は国内における風力発電のポテンシャルを語る。従来の風力発電は、故障・事故リスクが高く(年間40~60%)、騒音問題やバードストライクなどの課題があるが、同社の風力発電機にはプロペラがなく正面がないため、風向きに影響されない構造になっている。そのため、従来の風力発電が発電できる風速の約2倍にあたる風速40メートルの強風でも発電可能だという。しかも、低騒音で稼働、そして視認性が高くゆっくり回るため、バードストライクが発生しづらい設計となっている。落雷の被害を受けにくく、故障や事故にも繋がりにくいなど、従来の発電機の課題が解決する設計となっている。

このような特徴があるため、台風が多い地域や、強風エリアでも設置できることから、白馬のような一見発電しにくい地域でも設置は可能だという。そうして地域で発電した電気を域内で使うことで地域活性化に繋がると、梅津氏は意気込みを語った。

4. パネルディスカッション「地域におけるサーキュラーエコノミーの実装」

最終セッションでは、「地域におけるサーキュラーエコノミーの実装」と題して、 GREEN WORK HAKUBA事務局の山下史哲氏によるファシリテーションのもと、安居昭博氏、福島洋次郎氏、大塚桃奈氏の3人でディスカッションが行われた。

パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子(提供:GREEN WORK HAKUBA プロジェクト事務局)

これからサーキュラーエコノミーを推進しようというときに重要なポイントは何があるのか、山下氏から登壇者へ質問が投げかけられた。

安居氏「サーキュラーエコノミーという難しい言葉を使うのではなく、自然とやっていたことがサーキュラーだったという仕組みづくりが重要です。一般の方に楽しそうと思われる入り口を作り、利用してもらうことで意識せず環境に貢献している仕組みづくりを心掛ける必要があります。」

福島氏「Leaning by doingという、やりながら勉強しましょうという姿勢が大切だと思います。やってみて失敗した体験を含めすべてオープンに公開して、解決策をコミュニティで練っていくことが近道だと考えます。」

我々が直面している昨今の課題は、前例のない課題である。前例にないからこそ、新たな挑戦が欠かせないという考えがヨーロッパで広まっていると安居氏は話した。

安居氏「これまでに取り組んでいなかったアプローチだったとしても、よりよい地域、社会になりそうであれば失敗を許容し、進めていくことが重要だと感じます。自分たちの直面している課題に対して合理的な解決策を見出し、他者を排除せずに全体で関わる姿勢が求められます。」

大塚氏「すでにサーキュラーエコノミーなどを意識して取り組まれている方々は、地域のネガティブな側面や弱さを提示してそれをきっかけに変わろうとしていることが共通点として挙げられるのではないでしょうか。弱さの根幹を共有することで協力者が集い、解決策をともに探しながら取り組めていると感じます。」

 

パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子(提供:GREEN WORK HAKUBA プロジェクト事務局)

最後に、それぞれの立場から一言ずつ伝えられ、ディスカッションは締めくくられた。

安居氏「人間の幸福度の追求という意味を表す『ウェルビーイング』は人間中心主義とは違います。サーキュラーエコノミーを考えるうえでトリプルボトムラインといわれるPeople(人)、Planet(環境)、Profit(経済)の3つのPは相互依存の関係にあります。一方だけを引き延ばそうとすると他方がついていかなくなるため、これらをすべてをバランスよく追求することが大事です。」

大塚氏「ゼロウェイストは、時間・労力・お金の観点からのアプローチが考えられます。先ほどの安居さんのお話しにもあったように3つのなかで一方に偏りすぎると何かが犠牲になってしまうのでバランスが重要です。現在直面している課題は一つの地域だけで解決できる課題ではないので、オープンイノベーションやオープンリソースのように地域同士で連携をとりながら、日本の経済をポジティブに変えられるよう、考えていけたらと思います。」

福島氏「自分自身も上勝町に訪れ、その地域で宿泊しながら勉強し、このような場での出会いを活かし新たな取り組みに繋げたいと思っています。今回は初めて自治体同士で交流を深めることができたので、今後も様々な自治体や事業者が集まり、課題解決ができるコミュニティの場を作りたいという思いがあります。それが GREEN WORK HAKUBAを始めたきっかけでもあるので引き続き進めていきたいと考えています。」

4. 【後編】「白馬でのサーキュラーエコノミー実装ワークショップ」へ

以上、中編では国内外の地方で取り組まれているサーキュラーエコノミーの事例について紹介した。サーキュラーエコノミーの概念を理解し、実践に向けて国内外の先行事例を知ることで、新たなアイデアを創出していくことが重要である。後編では、「白馬でのサーキュラーエコノミー実装ワークショップ」の様子とプログラムの全体のまとめをお届けする。

【後編】「白馬でのサーキュラーエコノミー実装ワークショップ」へ

 

【参照】GREEN WORK HAKUBA