総合リサイクル業の株式会社ナカダイは、グループ会社の株式会社モノファクトリーとともに同グループの取り組みを紹介するイベント「産廃サミット」を例年実施している。同サミットは、廃棄物処理工場や中古品リユースのオークション市場の見学、全国の廃棄物の一元管理を行うリマーケティングセンター、トークショーなど、現場を回りながらサーキュラーエコノミーについて考える法人向けの体験型イベントである。

通常は4月に開催されるが、2020年は新型コロナウイルス感染症拡大による影響で、10月に延期。今回は人数を絞って開催された。第9回の今回は約80社・団体、200名が参加。毎年すぐに予約枠が埋まってしまうほどの人気ぶりだという。

それもそのはず。ナカダイはリサイクル率99%を誇るが、それでも本当にリサイクルするだけでいいのかという課題を持ち続けてきた。その解を考え抜いた結果、2013年に「廃棄物を活かし、繋いで、再度循環させる」(同社ハンドブック『NAKADAI & MONOFACTORY Handbook 2020』より)という「リマーケティングビジネス」の展開を開始。リサイクルだけではなく、リデュース・リユース・リファービッシュを通じて、サーキュラーエコノミーに寄与することに挑戦し続けている姿勢に魅了されるファンが多いのだ。

今回の第9回産廃サミットのテーマは、「廃棄物にしないプロジェクト展 ーただ捨てるだけですかー」。廃棄物の量を確保・処理することを生業にする廃棄物処理・総合リサイクル業が、このようなメッセージを掲げること自体、目を見張るものがある。一体どういうことなのか。今回は、同社のエッセンスが体感できる産廃サミットの様子を、サーキュラーエコノミーの視点からレポートする。

液体以外のほぼあらゆるものを受け入れる

多くの中間処分許可品目を保有しているナカダイ。特に、創業以来の基盤となってきた金属スクラップやプラスチックの処理・リサイクルを得意とする。金属は、鉄やアルミなどに選別し、プラスチックは、PP/PS/PE/PETなどを判別・選別している。マテリアルリサイクルが難しい木材や古紙はRPF(Refuse derived paper and plastics densified Fuel)などにして燃料にする。これらを分別してマテリアル化、リサイクルすることがビジネスの大きな柱となっている。

同社公表値によると、リユース・リサイクル率は99%。内訳は、リユース3%、マテリアルリサイクル60%、サーマルリサイクル30%、焼却後リサイクル6%、埋立1%。手作業で細かく分類してリサイクル率を上げてきた。

中古品のオークション市場、MRC(Material Reverse Center/マテリアルリバースセンター)

MRC(マテリアルリバースセンター)(ナカダイ提供)

使えるものはリユースするという目的で運営される中古品リユースのオークション市場「MRC(マテリアルリバースセンター)」。オフィス家具・一般家具・家電・OA機器・電子機器などのまだ使える「商品」は、リサイクルショップなどの古物商免許を持つ会員にオークションを通じて販売される。これらの使える中古品類は利用価値が高い。同センターは、環境負荷の低い手段である「再利用」拡大を図るためのプラットフォームとして機能し、東日本で最大規模の中古品オークション市場にまで成長した。昨今は、コロナ禍によるオフィスの入れ替わりの変化が需給に影響を及ぼしているという。

ナカダイ 駒形工場(ナカダイ 提供)

優先順位を決めて使い道を決める、リマーケティングビジネスという新業態

モノファクトリーの取り組み(出典:モノファクトリー公式ウェブサイトより)

ナカダイのグループ会社であるモノファクトリーは、「循環を前提とした社会の構築」をビジョンに掲げる。モノを生み出す時と捨てる時をつなぎ、リサイクルに行き着くまでの道筋を考える「リマーケティングビジネス」を展開。

上図が、モノファクトリーのビジネスをそのまま物語っている。まず、持ち込まれる廃棄物は、先述のMRCなどを通じてリユースへの使い道を考える。リユースとしての用途が難しい場合は、修理・リファービッシュと順番に考えていく。それらが難しい場合は、ナカダイが単一素材にまで分別して、マテリアルリサイクルへ。さらにマテリアルリサイクルもできない場合は燃料にする。優先順位を決めてあらゆる手段が講じられるが、それもナカダイというリサイクル業としての盤石な基盤があるからだ。

株式会社モノファクトリー コンサルティング事業部 リマーケティング課 課長 中台 明夫 氏は、「モノを捨てられない時がすぐそこまで来ています。そのため、さまざまな手段を使って、循環を前提としたアプローチをしています」と話す。この言葉に同社のビジネスの本質が表れている。

棄てられたものは、本当に使えない?THROWBACKプロジェクト

THROWBACKの商品(出典:THROWBACK公式ウェブサイトより)

最近の取り組みの例を一つ挙げたい。いわゆるアップサイクルの範疇に入るであろうTHROWBACKという取り組み。「棄てられたモノを、再び社会に投げ返す」というコンセプトのもと、新たな発想とデザインを加えて、再製品化するプロジェクトである。リノベーションやデザインを手がける株式会社オープン・エーと協働。下の写真にあるような跳び箱をおしゃれなテーブルに生まれ変わらせたり、高速道路で使われてきた照明をインテリアランプにアップサイクルしたりと、数々の廃棄物に新たな息を吹き込む。

通常であればリサイクルか焼却・埋め立てしていた廃棄物に、「デザイン性」という付加価値をつけて再販するという点がポイントだ。これにより、資源としての製品の延命化が図れる。

モノファクトリーに運び込まれた跳び箱

THROWBACKの製品の一例(跳び箱をアップサイクルしたテーブル)出典:THROWBACK 公式ウェブサイト

廃棄情報から設計にアプローチ。ループを閉じるための重要な情報

モノファクトリーには、倉庫としての役割や廃棄物を処分するために「リマーケティングセンター」が設置されている。先述した、リユース・リペア・リファービッシュ、そしてリサイクルが一括して行われるセンターである。

このセンターには、サーキュラーエコノミーの観点でもう一つの重要な役割がある。それは、廃棄情報を顧客に伝え、コンサルティングをするサービスである。顧客の廃棄物を回収しリサイクルした後に分析した廃棄情報を伝えることで、顧客はリサイクルをしやすい設計や素材開発につなげることができるというものである。

例えば、同社の顧客である日本コパック株式会社が取り扱うマネキン。従来のFRP(ガラス繊維強化プラスチック)はリサイクル性に課題があることで知られるが、モノファクトリーが回収・分析をした廃棄情報を同社に伝えることで、同社はよりリサイクルしやすい新素材を開発。その結果、リサイクル率は53%から90%に向上した。廃棄情報を使って、設計段階にまでアプローチし、ループを閉じようとする取り組みといえよう。

「環境ビジネスは未然に防ぐビジネス」。情報が命運を握る

上記のコンサルティング事例で廃棄情報に触れたが、情報の重要性は同社が認識する最たるものだ。同社代表取締役の中台 澄之 氏は、産廃サミットで「環境ビジネスは未然に防ぐビジネス」と言及している。「捨てる情報」と「次に生かすための情報」を還流させることで、製品や素材の使い道の幅を広げるということである。例えば、廃棄物が排出されるタイミングやその量といった情報を同社が把握するのが2日前という直前の場合、環境負荷が高い方法しか選択肢がなくなる。「量から質へ」転換する同社だが、情報はその核になると捉え、情報が還流するプラットフォームの構築も進めている。

産廃サミットでは、ナカダイと取引のある企業によるセミナーもセットで開催された

サーキュラーエコノミーの視点から

ナカダイやモノファクトリーの挑戦を、サーキュラーエコノミーの視点から3つの点を挙げて考えていきたい。

1. 廃棄物処理業者からリソーシング産業への転換

2020年5月に経済産業省から発表された「循環経済ビジョン」において、廃棄物処理業界は「リサイクル業からリソーシング産業」への移行が求められているとした。以下、同ビジョンP36の一部を抜粋する。

「循環経済の実現に向け、静脈産業が果たす役割は極めて大きい。すなわち、廃棄物減容化や有価資源の回収を目的としたリサイクルを行うのではなく、動脈産業がグローバルな市場・社会からの環境配慮要請に応えていけるように、あらゆる使用済製品を可能な限り高度な素材として再生し、動脈産業に供給する『リソーシング産業』としての役割が期待されている」(循環経済ビジョン P36より)

上記内容は、再生材供給拡大の観点で記載された側面が強いが、動静脈両産業間のコミュニケーションを生み出し、動脈企業が環境配慮要請に応えられるようにするという点において、ナカダイは同ビジョンが示すリソーシング産業に完全に移行しようとしている。この最たる例は、同社の優先順位を意識した廃棄物処理や、廃棄情報を利用して顧客の循環型設計を促すというものであろう。

2. リサイクルは最終手段。リデュース・リユース・リファービッシュ・リサイクルに意図的にアプローチ

ナカダイは、1937年に創業。鉄スクラップ業処理業から許可品目を着々と増やし、2000年には総合リサイクル業に。その後は着々と経営基盤を固めてきた。(この変遷については、同社代表取締役中台 澄之 氏 著『「想い」と「アイデア」で世界を変える ゴミを宝に変えるすごい仕組み 株式会社ナカダイの挑戦』を参照)このリサイクル業としての強固な土台があるからこそ、リデュース・リユース・リファービッシュにも取り組めるのだ。

結果、エレン・マッカーサー財団のバタフライダイアグラムでいうところの、小さなサイクルから取り組む(資源の価値が高く維持される取り扱い方法が優先的に採用されるべきであるという意味。詳細はこちら)というサーキュラーエコノミーへの有効なアプローチが可能となる。そして、『ひとつのモノがこの世界に存在する時間が確実に長く』*なる。

*(中台 澄之氏『「想い」と「アイデア」で世界を変える ゴミを宝に変えるすごい仕組み 株式会社ナカダイの挑戦』SBクリエイティブより抜粋)

エレン・マッカーサー財団「システムダイアグラム(通称 バタフライダイアグラム )」を筆者が和訳

この項の見出しにもある「リサイクルは最終手段」。本来、廃棄物処理を増やし、リサイクルをすることがビジネスの拡大につながるという観点から見れば、逆説的な言葉である。これについて中台氏は、廃棄物処理量の増大=ビジネスの拡大という持続不可能な図式への違和感から、「量から質へ転換する」業態への移行を来る日も来る日も考えていたそうだ。その結果として、これまで紹介してきたような新しい事業がある。

3. 女性が4割、採用率は時には600倍

雇用の観点も忘れてはならない。オランダのサーキュラーエコノミー推進機関Circle Economyのレポート「Jobs and Skills in the Circular Economy」によれば、サーキュラーエコノミーへの移行に際して、需要が高まる仕事が3つあるという。直接的に原材料に影響を与える「サーキュラーエコノミーの核となる仕事」「サーキュラーエコノミーの実現を後押しする仕事」「間接的にサーキュラーエコノミーの後押しをする仕事」である。ナカダイグループのリソーシング産業への移行により、同グループの業務が上記3つの全てに当てはまるようになったといえるだろう。

ナカダイ公式Facebookページに12月9日に投稿された、同社採用に関する投稿がまさにこれを物語っている。(以下抜粋)

「私たちの業務はなかなかこれ!と特定するのが難しく、工場勤務と言っても、機械のオペレーターから99%のリサイクル率を維持する業務工程のマネジメント、そのノウハウを活かした捨て方の提案、さらには多くの企業と新しい使い方でのコラボレーション、循環ビジネス構築など、ナカダイ、モノファクトリー両社を横断すると本当に幅広いです。群馬の現場を知ることで可能性が広がります。私たちと循環を前提とした社会をつくりたい方、是非、応募ください。」同社公式Facebookページ2020年12月9日の投稿より)

現在、同社社員の4割は女性。採用率は時に600倍を超えたこともあったという。人手不足といわれる廃棄物処理業界では異例のことだろう。ますます多様になる社内の人員構成が、これからの同社のイノベーションを後押しするに違いない。

これには、先ほど述べたサーキュラーエコノミーへの移行に伴う業態変化が大きく貢献していると推測される。サーキュラーエコノミーが雇用にもアプローチできるという好事例といえる。

編集後記

枠にとらわれず、数々の新事業を生み出してきたナカダイとモノファクトリー。今回は詳しく触れられなかったが、廃棄物から選別された素材が厳選されたMaterial Library™️、顧客企業での社員の常駐、体験型ワークショップの開催、隈研吾都市建築設計事務所とのコラボ「ハモニカ横丁ミタカ」など、新しい取り組みを次々と打ち出している。同社の廃棄物処理・リサイクル業からあらゆる手段を講じて素材を生み出すリソーシング産業への転換へ着々と歩み続けている姿は、同業・異業種双方に大きなインパクトを与え続けるに違いない。

【参照】株式会社ナカダイ公式ウェブサイト
【参照】株式会社モノファクトリー公式ウェブサイト
【参照】THROWBACK
【参考書籍】『「想い」と「アイデア」で世界を変える ゴミを宝に変えるすごい仕組み 株式会社ナカダイの挑戦』 中台澄之, 2016, SBクリエイティブ
【参考書籍】『捨て方をデザインする循環ビジネス サーキュラービジネス実現へ三つの提言』中台 澄之, 2020, 誠文堂新光社
【参考】循環経済ビジョン 経済産業省
【関連記事】Circular Economy Hub Learning #3 (動画「Dame Ellen MacArthur: food, health and the circular economy」よりバタフライダイアグラムの解説)
【関連記事】サーキュラーエコノミーは労働市場をどう変えるか?Circle Economyレポート