Circular Economy Hub 編集部では、7月から第一木曜日夜に「Circular Bar」、第三木曜日昼に「Circular Cafe」として、コミュニティ会員限定で参加や視聴ができるオンライントークの場をスタートさせました。(詳細はこちら。)
Circular Cafe & Barでは、話題提供を行うゲストや編集部メンバーがテーマ設定の理由や問いを冒頭に投げかけ、その後参加者同士自由に意見交換を行うという流れで進行しています。
話題提供パート:「サーキュラーエコノミーは信頼されているのか?」
世界でサーキュラーエコノミーがクローズアップされるにつれて、サーキュラーエコノミーを疑問視する声も生まれています。今回話題提供を担当した編集部メンバーは、「サーキュラーエコノミーは本当に実現性があるのか」「環境負荷が減るのか」など、知人に疑問を投げかけられたことをきっかけに、テーマを設定。サーキュラーエコノミーに関してどのような批判や懐疑的な意見があるか、という視点からサーキュラーエコノミーが地球規模で期待されている成果を出すためにどんなことが必要なのか一緒に考えたい、と投げかけました。
また、今回は、参考資料として事前に共有したルンド大学 Hervé Corvellec氏らによる論文 ”Critiques of the circular economy(サーキュラーエコノミーの批評)”について、コミュニティメンバーの峯村昇吾さん(FABRIC TOKYO ビジネスデザイナー)が翻訳・まとめを作成し、Circular Cafeの場で共有いただきました。その一部をご紹介します。
サーキュラーエコノミーをめぐる批評
同論文では、サーキュラーエコノミーは各国で産業政策などに用いられ注目される一方で、前提や実用性、結果についても多方面で広く疑問視されているとして、サーキュラーエコノミーをめぐる批判に焦点を当て以下のような問題点を指摘しています。(以下、コミュニティメンバー峯村さんによるまとめを引用)
定義的な難しさ
- サーキュラーエコノミーは新しい概念ではない。経済と環境の調和については昔から語られているが、その定義は100以上あり曖昧である。
- 実施が優先されたことで定義が曖昧となり、何が倫理的価値を持つかという論点が定まっていない。
- 意味的にも曖昧でコンセンサスが取れていないにもかかわらず、原則として「議論の余地がなく、承認的で批判されにくい状態」にある。
不明瞭な実践の可能性
- サーキュラーエコノミーは広く支持されている一方で今のところ実践は限定的であり、政策・組織・個々の消費それぞれに問題点を抱えている。
政策観点
- 物質の循環にはビジョンがあるが、社会正義や環境保護の問題についてのビジョンは拡散したままである。
- テクノロジーファーストで資本主義的な成長を前提としている。
- リニア経済の問題点を防ぐのではなく、ただ循環を促進する提案になっているのでは。
組織・企業観点
- 現状、企業のサーキュラーエコノミーの活動は限定的で、部分最適にしかなっていない。
- 検証にかかる期間の長さや、社内の能力不足、効果測定の難しさがある。
- 現実的には二次利用の難しさ(品質やレガシー汚染物質)があり、現状のシステムを変えてまで移行するのはリスクが大きすぎるのでは。
個々の消費者観点
- 消費者は消費と廃棄を繰り返す存在から、工夫して長く利用する利用者へ役割を大きく変革する必要がある。
- 一方で、伝統的な所有権を非物質化されたサービスに置き換えるには専門知識や労力がかかるため、消費者が本当にその時間を費やせるかは疑問がある。
- 循環型の新製品が出ると消費への欲望が掻き立てられてしまうというジレンマが起こり、結果的には消費の増加につながるのでは。
環境面・社会面への貢献の不明瞭さ
- 環境面に関して資源の循環や再生をグローバル全体で行う場合には、膨大なエネルギーの消費や大規模で世界的な再編成が必要であるが、問題が過小評価されているのでは。
- 経済的合理性を優先して社会的な利益(人種・ジェンダー・世代間・宗教)を置き去りにしているのでは。
上記のような問題点を指摘し、サーキュラーエコノミーは「万能薬」ではなく「控えめなもの」として扱うべきであり、消費者・企業・政策・市民社会で定義、計画、実施、評価方法に関する概念に一貫性を持つ必要性があるとしています。
【参考資料】
「Critiques of the circular economy」, Hervé Corvellec, Alison F. Stowell, Nils Johansson, 2021
「サーキュラーエコノミーの実現に向けて理解しておきたい10の課題」
意見交換パート
ジャーナルのまとめ共有の後に、主に下記について参加者同士で意見が交わされました。
- サーキュラーエコノミーの定義
- 社会面への配慮
- 循環と消費の関係
- サーキュラーエコノミーのあり方
1. サーキュラーエコノミーの定義
- サーキュラーエコノミーの定義についてはもっと議論されるべき。現在のサーキュラーエコノミーの議論は「循環する(まわす)」ことが前提のように語られる傾向にある。
- サーキュラーエコノミーが消費の誘発にならないためにも、リデュース、リペア、リユースの段階にもっと注目して取り組みを進める、この段階での雇用を増やしていくことで社会的な側面にもつなげていけるのではないか。
2. 社会面への配慮
- ファッションを例に考えると大量生産が適量生産に変わり、低価格商品が世の中からなくなると、ファストファッションだから衣類を買えるという人はどうなっていくのかというジレンマがある。
- 海外のオーガニック商品は、そうでない商品と価格が変わらない品目も増えている一方、商品によっては依然として2倍3倍の価格差がある。値段との釣り合いが消費者を限定してしまい、社会的な格差を生んでしまう。
- 社会的格差を減らすためには、例えば学校給食をオーガニック化するなど政策的な介入やサポートも必要かもしれない。
3. 循環と消費の関係性
- 循環を促すことで結局消費を増やしているのでは、という指摘については私生活でも感じることがある。まだまだ使えるスニーカーがあるのに循環型原材料で作られた新しいスニーカーを買うことや、家が古く断熱効率が悪いので、断熱されていてエネルギー効率の良い家に住み替えることなど。
- 将来のために消費をすることは環境負荷を考えたときに適切なのか、それが社会的な側面に配慮ができているかなど、一消費者として、全てを適切にジャッジすることは難しい。
- 長く使いたい、修理をしたいと思っても手段が少ない、もしくはわからないことが多い。リペアの手段と消費者をいかに結びつけるかが今後はキーになるのではないか。
4. サーキュラーエコノミーのあり方とは
- 国や地域の状況によってもあり方は変わる可能性がある。例えば新興国においてはサーキュラーエコノミーが社会的な包括システムとしての役割が必要な一方で、いわゆる先進国では地球環境にいかに還元できるか、ということがより求められるのではないか。
- サーキュラーエコノミーを一つの手段として考えるとその目的が多様になるため、意味が曖昧になり議論がしにくい状態につながっているのではないか。
- 定義が定まっていないことや目的が違うという問題については、各ステークホルダーが連携を取り、ビジョンを持って全体が同じ方向を目指していくことで解消していく必要がある。
意見交換を通じて、サーキュラーエコノミーの実現には一部脆弱性があることを客観的に捉えることが必要であることを確認しました。同時に、実践の歩みを止めたり、諦めるたりするではないことも共有する回となりました。
編集後記
今回はサーキュラーエコノミーを批判的・懐疑的な面から考えるというテーマでしたが、盲目的にならず俯瞰的な視点を持つことの必要性を改めて感じました。批判的な意見のなかには厳しいものも多いのですが、話し合いの中で、それぞれが課題をどのように捉え、考えているかを知ることで新しい学びにも繋がりました。
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