インフォバーングループが運営するイノベーターハブ「Unchained」とベルリン発のテクノロジー・カンファレンス「Tech Open Air(TOA)」は2021年2月15日(月)・16日(火)の2日間にわたって、オンラインイベント「TOAワールド・ショーケース2021」を開催した。今回の全体テーマは「Re-Inventing Everyday 〜日常を”再発明”する〜。」テクノロジーが社会をどう変容させ、社会のあり方を変えていくのか。学際的視点からさまざまな意見が交わされた。

ハイライトの一つが、小泉進次郎環境大臣による「次のムーンショットは再生型社会の実現。サーキュラー・エコノミーの転換により、ビジネスの前提が変わる」と題したキーノート。環境省は、経済社会のリデザイン(再設計)として、3つの移行「脱炭素社会への移行」「循環経済への移行」「分散型社会への移行」を統合的に進めている。今回のキーノートは、株式会社インフォバーン代表取締役CVO小林氏弘人氏が聞き手となり、上記3つの移行のうち「循環経済への移行」について小泉大臣より語られた。

小林氏

今、産官学が連携して、リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへの転換が図られている最中です。イノベーションとサーキュラエコノミーの相性は良いといわれています。つまり、サーキュラーエコノミーがイノベーションにつながっていくと思うのですが、この点についてどうお考えですか?

小泉氏

脱炭素を進めていくうえで、サーキュラーエコノミーを取り入れることは不可欠です。エネルギーの転換だけではなく、経済社会のリデザイン(再設計)が必要です。例えば、私たちのライフスタイルと脱炭素の関係でいえば、食・移動・住宅から排出されている温室効果ガスは消費ベースだと6割近くになります。これらの分野の環境負荷を低くすることが、カーボンニュートラル実現の鍵を握ると言っても過言ではありません。

ビジネス(イノベーション)の観点からも、これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄によるリニア型(直線的経済)だとビジネスの土俵にすら上がれません。ビジネスがサーキュラーであることが前提だという世界に変わってきています。今後はサーキュラーエコノミーを軸として事業展開されているかどうかが、投資家や消費者から選ばれる分かれ道になるでしょう。

小林氏

ESG投資が拡大する一方で、「ソーシャルグッド」な取り組みは利益につながらないという意識は根強いと感じています。大臣は経団連の方々とも意見交換をされていますが、日本企業のサーキュラーエコノミーへの展開をどう捉えていますか。

小泉氏

経団連内で、サーキュラーエコノミーというキーワードが軸に据えられたこと、「経団連と環境省」というこれまでにないパートナーシップを発表できたことは大きな成果です。これは従来の「面倒で我慢を強いられる」と考えられがちな環境政策から、環境政策は、経済政策・成長戦略・産業政策として位置付けられることを意味します。経済と環境は2つの別領域ではなく、1つの同軸の世界に入りました。

21年11月に英グラスゴーで開催されるCOP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)は、交渉に加えて、各国は自国の環境への取り組みを示すPR合戦の場ともなるでしょう。その際、日本の海外に対する国際広報とコミュニケーション戦略のうえでも、3Rで語ってはいけません。サーキュラーエコノミーで語らないと土俵に立てません。既にサーキュラーな取り組みを行っている国内の大手企業の事例は、世界に誇れるものだと思います。環境大臣としては(国内企業の取り組みを)世界に届ける後押しをしていきます。

小林氏

日本が世界に発信できる分野や事例について、大臣の認識をお聞かせください。

小泉氏

食とファッションをまず挙げます。食や服は身近でライフスタイルに直結し、カーボンニュートラルを自分ごとにできるという側面もあります。そのため環境省でも、食とファッションの具体的な政策を展開し始めました。

例えばファッション業界では、商社と繊維メーカーなどの関係企業とタスクフォースを立ち上げ、サステナブルなファッション業界のあり方を模索して、わかりやすく国民に伝えていく予定です。

食においても、食品ロスが少なくなればCO2排出も削減できるというわかりやすい関係にあります。井上内閣府特命担当大臣と連携しながら、食品ロス対策を一歩踏み込んで進めていきます。表示義務も含め、一つひとつ取り組みを進めていけば、日本のサーキュラーエコノミーの柱に食とファッションが位置付けられると考えています。

小林氏

素材とサーキュラーエコノミーの関係についてどう捉えていますか?

小泉氏

(素材という観点で特に重要なプラスチックについて、)今国会で提出するプラスチックに対する新しい法律について少し触れておきたいと思います。これまで、家電や自動車など製品を対象とした法律はありましたが、プラスチックという物質を対象とした法律は日本では初めてです。この法案のポイントは、ペットボトルだけではないプラスチック製品に環境配慮設計が当たり前に組み込まれるように促すことです。認定などにより、環境配慮設計が導入された製品が消費者から容易に選択される環境をつくっていきます。今回の新法により、プラスチック素材をより再生しやすい環境を作り、さらに再生された素材を消費者が選びやすくなる。これは、サーキュラーな国へ転換するスタートを切ったということです。またエネルギーに関して言えば、2050年までのカーボンニュートラルの実現を目指し、再生可能エネルギーを増やしていきます。日本がエネルギー源として依存する化石燃料の輸入に年間17兆円という巨額のお金を費やしているものを、再生可能エネルギーを増やすことで、エネルギーの地産地消を進め、その分のお金が地域や国内で回るように出来ると考えています。

小林氏

ミレニアルやZ世代などの若い世代に対して、後押しをすることは考えていますか?

小泉氏

気候変動対策が未来世代の課題という観点からも、若い世代の力は大きいと考えています。若い世代の団体とも定期的に意見交換をし、若者の皆さんの声を聞く場所を正式に立ち上げる予定です。学校教育に気候変動やSDGs教育が組み込まれ始め、社会に出る若者に対して消費者教育も重要となっています。

小林氏

日本には豊かな自然があります。次の世代に何を残していきたいのか、どういう遺産を残していきたいのか、お考えをお聞かせください。

小泉氏

具体的には、日本の砂浜を守りたいと考えています。気候変動対策が効果を上げなかった場合、今世紀中に日本の8割の砂浜はなくなるとも言われています。私の育った横須賀でも砂浜が縮小しています。私の子ども世代や次の世代が、砂浜のない横須賀を見ることになるかもしれませんし、沖縄の珊瑚礁も全て死滅するかもしれません。

今当たり前に享受している自然の恵みを、将来も当たり前のように享受できる環境を残していきたい。今後いかに環境へのダメージを少なくできるかということです。もっと言えば、気候変動によって歴史的な文化も失われかねません。例えば、俳句・和歌・食などは、四季があるからこそ発展してきた日本の素晴らしい文化です。今、日本は四季の国から、春と秋が極端に短い、夏と秋の二季の国になりかけています。季節から感じる情景に対する心のありようや料理の見方など、全てが変わってくるでしょう。気候変動によって、日本の歴史や文化の存立が危ぶまれているとも言えます。

大量生産・大量消費・大量廃棄というリニア型の経済活動で失われたものを再生産できる形に再設計することが求められているのではないでしょうか。これを私が強調する「リデザイン」の考え方で、コロナと気候変動の2つの危機を乗り越えられる、新たな経済社会のあり方をつくっていきたいと考えています。

キーノートの5つのポイント

今回のキーノートで強調された点について、5つのポイントを挙げる。

1. 経済政策としてのサーキュラーエコノミー

欧州では、2010年に公表されたEurope 2020という以降10年間の欧州の成長戦略策定を皮切りに、2015年のサーキュラーエコノミーパッケージ、2019年の欧州グリーンディール、2020年のサーキュラーエコノミー2.0とも位置付けられるサーキュラーエコノミーアクションプランを発表し、「経済戦略としてのサーキュラーエコノミー」としてグリーン経済への移行が進められる。

日本でも、これまで公害対策・環境対策として環境政策が遂行されてきたが、昨今の「循環経済ビジョン」の策定に代表されるように、経済戦略としての環境政策という位置付けに変容してきている。

今回、環境政策を主管する環境大臣より、経済政策としての環境政策、その核として循環経済を位置付ける旨が強調された。経団連とのパートナーシップはまさにそれを象徴する。「我慢を強いられる」と認識されるこれまでのアプローチからの脱却を図ることが求められることになる。

2. 気候変動対策としてのサーキュラーエコノミー

気候変動対策にはサーキュラーエコノミーが不可欠だという認識が大臣より共有された。再生エネルギーへの転換や省エネだけではパリ協定は達成できない。特に食・移動・住宅などの消費や製造を循環型へ転換することの必要性が強調された。

循環型戦略によって、世界の2019年の温室効果ガス排出量の39%にあたる228億トン(CO2換算)を削減できることが示されている。さらに、セメント・アルミニウム・鉄・プラスチック・食の5つに取り組むだけでも、現在の運輸部門からの排出値に相当する93億トン(CO2換算)が削減できるとする試算もある。再生可能エネルギーとサーキュラーエコノミーへの転換は表裏一体ともいえる認識を改めて示した形だ。

3. サーキュラーエコノミーの土俵に立つ

「日本が海外に対する国際広報とコミュニケーション戦略のうえでも、3Rで語ってはいけない」と強調された。3Rは日本の武器であるとの認識が共有されつつも、製品価値を最大限にとどめて経済価値に変えていくサーキュラーエコノミーがすでに世界の共通の土俵になっている。この土俵の上にまず立ち、そのうえで日本型を構築していくことが不可欠ということであろう。

4. プラスチック法案の目玉

新プラスチック法案は、ライフサイクル全般でプラスチックの循環化を図る法案である。使い捨てスプーン削減やペットボトル以外のプラ分別、製造事業者による自主回収などが取り沙汰されているが、「環境配慮設計」が大きな目玉である点が強調された。環境配慮設計には、易リサイクル性の向上・代替素材・モノマテリアル化・リデュース・再利用などさまざまな方法があり、その目的は「再利用」「リサイクル」など循環をしやすくすることにある。設計段階へのアプローチを「環境配慮指針の提示」と「認定」を通じて図る。

5. 次世代に残す

発信力と将来の購買力の観点から、ミレニアムやZ世代など若い世代の力は大きいと話す小泉大臣。若い世代の新しい発想を知るために対話の場を発展させる意向を示した。加えて、現役世代が享受する自然の恵みを次世代に残していくという、環境問題に取り組む本質的意義についても触れた。

経済の仕組みを再設計する

サーキュラーエコノミー移行に向け、今後もますます産官学連携が強化されていく。その原動力は、「砂浜を守りたい」と強調されたように、将来世代に良いバトンを渡したいという想いであろう。そのためには小泉大臣の示す経済社会の「リデザイン」(再設計)を早急に進める必要があるが、世界の共通の「土俵」に関する動向と同時に、今後の国内の政策にも注目したい。

【参照サイト】TOAワールド・ショーケース2021
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