新型コロナウイルスのパンデミックが始まってから丸一年が過ぎ、続くロックダウンによるインパクトやシステミック・チェンジの必要性はいまだかつてないほどに顕著となっている。食品農業分野においてもこれは例外ではない。地球と人類の健康のためには、世界にまたがる食料システムはかつてないほど抜本的な見直しを必要としている。食料不安と肥満の問題が世界的に増加する一方で、私たちの農業の仕組みは再生するどころか破壊し、数多くの環境問題の原因となってしまっている。一体、私たちはどこで間違ってしまったのだろうかーーー。
※この記事は、オランダのCircle Economyが3月16日に同社ブログに掲載した記事を、執筆者のNoah Baars氏、Laxmi Adrianna Haigh氏に許諾を得て筆者が翻訳しています。
Circle Economyは、現状から地球の食料システムを再構築するための課題とチャンスを見出しており、注視している。最新のサーキュラリティ・ギャップ・レポートによると、植物性の食品を中心とした食生活に移行することで二酸化炭素排出量を13.2億トン削減できることが明らかになった。食料システムを作り変えていくためにサーキュラーエコノミーに投資するとき、避けては通れない問いは、こうではないだろうか。「適度な食肉の消費は、繁栄し循環する食料システムへのカギになるのか?それとも、サーキュラーエコノミーにおいて肉食はありえないのか?」
本記事は、この問いについて考察するものである。
「より良い復興」を遂げるためにも、世界の食料システムの変革が求められる。
今日のリニア型畜産農業は取り巻く環境に貢献しない
肉食なしの食生活が環境に大きな恩恵をもたらすことは、産業のインパクトを測る幅広い研究によって明らかになっている。肉を食べることは根本的に非効率だ。飼育される家畜のため(飼育用と飼料用作物栽培用)に地球上の農地の80%以上が利用されているのにも関わらず、私たちの摂取カロリーの15%しか供給しないためだ。家畜は多くを消費するため、本来であれば人が食べることができる食料の多くをこれらの家畜飼育のために費やさなければならなくなってしまう。例えば7700万トンの植物性タンパク質は、家畜に食べさせると5800万トンの動物性タンパク質にしかならない。さらに、世界で栽培される穀物のうち半分、そして大豆の大部分が家畜を飼育するためのエサとして栽培されるが、これはアマゾンの熱帯雨林伐採に大きく関わっている。そして、人の口に入るのはたったの6%に過ぎない。実際、世界の森林伐採のうち3分の2が、家畜に食べさせるための飼料を育てるために起こるのだ。
現在のシナリオを逆に読み、仮に肉の消費をゼロにすることができたと仮定すれば、2050年の予測人口97億人を養えるだけの量を、現在使っている土地よりも狭い面積で生産できる食料システムが実現するだろう。Forum for the Futureのレズリー・ミッシェル氏はCircle Economyの取材に対し、(現在の仕組みによって)失われてしまうのは土地と飼料だけでなく、動物たちも同様だと話す。例えば、鶏卵産業においてヒヨコのオスは生き物ではなく不要な「副産物」として捉えられ、そのまま「廃棄」されてしまうため、人生が始まる前にその幕を閉じられてしまっている。
現在の畜産は、気候変動、大気汚染、水質汚染などの多くの影響をもたらし、さらには生物多様性や人間の健康をも損なう。家畜生産は、野生動植物生息域破壊の最大の要因であるといわれている。これまでに隔離され蓄えられてきた炭素を植物から放出し、生物多様性を壊滅状態に追い込み、さらに最もタイムリーな話としては、危険な病気が人類に蔓延する引き金を引いてしまうことだ。硝酸性窒素汚染は、その4分の3が家畜の排泄物に起因するもので、人間の健康に悪影響を及ぼす微小な粒子状物質を形成する。最近の研究では、農業による硝酸性窒素汚染を半減させることで、年間20万人以上の死亡を防ぎ、世界の医療システムにおいて数十億ドルのコストを削減できることがわかっている。
アメリカでは、このような汚染からくる健康被害の多くは低所得者層や有色人種に偏っている。こういった人々の方が工業的畜産地帯の近くに住んでいる可能性が高いためだ。
世界の森林伐採のほとんどが畜産業拡大に起因している。
サーキュラーエコノミーのなかで、現在の畜産による弊害を取り払うことはできるのか?
多くの研究が今起きている問題の主な原因は肉食だと結論づけている一方で、肉の消費を大幅に減らし、利益と生産性を過剰に追求してきたこれまでの畜産のあり方を見直すことができれば、肉食自体もサーキュラーエコノミーの一部になり得るとする研究もある。
これは、廃棄のでない畜産を取り巻く仕組みを設計することで実現できるはずだ。廃棄を高付加価値化し、有用なインプットに変えるのである。家畜は野菜などの作物とともに育てることで、刈り取った後の残りや雑草などの売れない植物を食べ、そのふん尿は作物を育てるための(無料の!)肥料として利用できる。これは農家にとって経済的なメリットになり、さらには化学肥料製造のために引き起こされる伐採や環境負荷を減らすことができる。2001年に発生した口蹄疫が理由で、EUとイギリスでは食品廃棄物を家畜の飼料にすることは禁止されているが、今後循環する食の仕組みをつくっていくためには大きな成功要因となるはずだ。日本や韓国では、残飯を安全に処理するシステムが整備されており、農家では食品廃棄物の約半分がリサイクルされ、飼料コストが最大で60%削減されている。環境へのメリットも大きい。消費されなかった食品やきちんとした処理がされていない食品廃棄物は、大きな環境負荷を引き起こしており、もし食品廃棄物を国に例えると、世界第3位の温室効果ガス排出国になると言われている。ヨーロッパでもアジア諸国と同じように食品廃棄物を「リサイクル」すれば、豚の飼料を栽培するために使われている土地のうち20%を削減できるという調査結果もある。
サーキュラーモデルの有畜農業は実際ビジネスとしての存在感を増している。例えば、家畜用飼料を生産するAliaは、スペインにおけるパイロットプロジェクトを始動し、農業から出る副産物と家畜のふん尿などから有機肥料をつくる。南アフリカを拠点に活動するAgriProteinはユニークな取り組みを行う。AgriProteinはアメリカミズアブという昆虫の旺盛な食欲に着目し、一週間で体重が200倍に膨れ上がる程に食べるという特徴を活かす。捨てるしかなかった有機資源を幼虫に食べさせ、その幼虫を乾燥させ、水産養殖や養鶏・養豚用の飼料に加工するのだ。現在天然の魚に対する需要のうち70%がこれらの飼料用となっており、結果海洋資源が激減し問題となっている。一方、Agriproteinの向上が目一杯稼働すればそれだけで1500万もの天然の魚を救うことができる。
有機性廃棄物を飼料にする工程を説明した図。Photo from AgriProtein Website
「何事もほどほどに」循環型農業における肉の役割はまだまだ限定的
小規模なサーキュラーモデルの農業の仕組みは、上記で述べた通り、畜産を同時に行うことで恩恵を受けるばかりか、仕組みとして成り立つために畜産を必要とすることも多い。しかし規模を拡大すると途端に、肥料のように本来「良い」はずのものでも、悪い作用をもたらすことがある。家畜の液状ふん尿は本来土壌の表面や地中に撒くことで肥料となるが、やりすぎてしまうと二酸化炭素を発生させ、農作物を損傷し、望ましくない害虫の大量発生を引き起こすこともある。化学肥料は害をもたらすが、サーキュラーモデルの農業は他の「廃棄」を代わりに用いることができる。植物由来の廃棄食材や廃棄物だ。農作物の刈り取りや残ったものを家畜に食べさせ、肥料に変えてもらわなくても、農作物は自分自身の力で栄養をつくりだし育つことができる。
家畜の飼育について(イングランド・ウェールズ全国農業組合連合のミネット・バターズ会長もこのように発言している)、家畜の放牧と草の栽培にしか適していない土地もある、とよく言われる。しかし過去を振り返ってみると異なる全容が見えてくる。この地域で農業を始めた人々は、牛を放牧したり作物を栽培するために天然の森林を伐採したはずなのだ。結果、開けた土地を好む種が繁栄し、深い森林を好む種は淘汰されていった。実際にイギリスで近年絶滅した種の大半は森林に生息する動植物だ。
それでは、畜産を減らしたり、完全に廃止するとどのようなことが起きるのだろうか。理論上は、土地が自然の状態に戻り、森林の種が再び繁栄し、生物多様性が高まり、植生や樹木の数が増えて、結果、炭素吸収源として機能するようになる。牧草地だけでも自然な状態に戻すことができれば(飼料作物栽培は変わらなかったとしても)、80億トンという驚異的な量の二酸化炭素を大気中から取り除くことができ、これは2019年の排出量を基準にすると約13.5%の削減になる。また、大豆やトウモロコシの大量栽培を批判することで、肉食の影響を過小評価するような議論もある。しかしこういった意見の多くは、大豆やトウモロコシなどの作物が大量栽培されるに至っている理由が「家畜の飼料にするため」であるという目的を認識していない。
結局のところ、現実的な仕組みをつくり上げるためには、肉食のための消費も生産も大幅に縮小するしかないのだ。循環する食料システムで現在のように310億頭にも上る家畜を生産・飼育するには、地球だけでは土地が足りない。また、植物性タンパク質に基づく食生活に移行することで世界は持続可能になるという根拠が数多く示されており、健康メリットも大きいとされるが、実際に地球上の全人類の食生活をそこまで大幅に変えることは一筋縄ではいかない。
栄養価の高い食料がなかなか手に入らない多くの国では、家畜は貴重な栄養源であり、畜産業を主な収入源とする人の数は20億人にも上る。Forum for the FutureのLesley Mitchell氏は、小さな家族経営の農家の多くはすでに「非常にサーキュラー」だと指摘する。廃棄を出さず、家畜は多様で相互に作用する農業の仕組みのなかで育てられているとした。さらには、肉なしで生きられないのであれば、動物性タンパク質を取るべきかという問い自体が無意味なのだから。欧米での大量消費は、現在私たちが克服しなければならない課題の根源のひとつだ。例えばアメリカ人は世界人口の4.5%だが、世界中の食肉の15%を消費しており、国民一人あたり一日330グラムを食べている計算になる。一方低所得国では一日あたり80グラム程度に留まっており、これがEAT-Lancet Reportが人と地球の健康上望ましいと推奨する水準だ。
地域ごとの一人あたりの食肉供給量を示したグラフ。Photo from Our World in Data
「私たちは何を大切にするのだろう?」
Circle Economyとの対話の中で、Lesley Mitchell氏は次のように語っている。
「(農業における家畜の問題は)贅沢することを優先したり、自分たちのことだけを考えたりするのでは解決しません。考えなければならないのは、人々の健康と繁栄、そして気候変動危機のなかで、人口が増えることによって生じる課題から様々なコミュニティに暮らすすべての人々をどのように支えられるか、ではないでしょうか。ここで問いが浮かびます。『私たちは何を大切にするのだろう?』」
私たちは何を大切にするのだろうか?問うことが、私たちを前進させるだろう。この問いに対する答えは、願わくばよりクリーンで、より公正で、2倍サーキュラーで、そして少しだけ優しいものとなるだろう。私たちが進む先にある世界では、肉食は限定的になっているはずだ。
This translation has been prepared by an unofficial third-party translator outside of Circle Economy. While considerable efforts have been made to provide an accurate translation, details may be inconsistent with the original text.
【参照記事】DOES EATING MEAT HAVE A PLACE IN THE CIRCULAR ECONOMY?
【関連記事】サーキュラーエコノミー戦略により世界の温室効果ガス排出量約4割削減。Circle Economy最新レポート
【参考】Could Less Meat Mean More Food?
【参考】LIVESTOCK’S LONG SHADOW
【参考】INTERNATIONAL ASSESSMENT OF AGRICULTURAL KNOWLEDGE, SCIENCE, AND TECHNOLOGY FOR DEVELOPMENT INTERNATIONAL ASSESSMENT OF AGRICULTURAL KNOWLEDGE, SCIENCE, AND TECHNOLOGY FOR DEVELOPMENT
【参考】Sacred groves, sacrifice zones and soy production: globalization, intensification and neo-nature in South America
【参考】Reducing food’s environmental impacts through producers and consumers
【参考】Climate benefits of changing diet
【参考】Forum for the Future
【参考】Biodiversity conservation: The key is reducing meat consumption
【参考】IPBES Guest Article: COVID-19 Stimulus Measures Must Save Lives, Protect Livelihoods, and Safeguard Nature to Reduce the Risk of Future Pandemics
【参考】Ammonia Emissions from Agricultural Operations: Livestock
【参考】Estimating health and economic benefits of reductions in air pollution from agriculture
【参考】Stink, Swine, and Nuisance: The North Carolina Hog Industry and its Waste Management Woes
【参考】FOOD FOR THE CIRCULAR ECONOMY
【参考】Ban on food waste as animal feed should be reconsidered – here’s why
【参考】Food wastage footprint & Climate Change
【参考】Reducing the land use of EU pork production: where there’s swill, there’s a way
【参考】Saving our seas, one factory at a time
【参考】WILD FISH IN FEED
【参考】Smart proteins saving our seas: black soldier flies convert waste into high quality food for aquaculture
【参考】AgriProtein
【参考】Negative effects of animal manure on grassland due to surface spreading and injection
【参考】Climate friendly farming: The facts about British meat
【参考】Extinction rates, extinction-prone habitats, and indicator groups in Britain and at larger scales
【参考】A review of natural vegetation openness in north-western Europe
【参考】Emissions Gap Report 2018
【参考】Reducing food’s environmental impacts through producers and consumers
【参考】If you want to save the world, veganism isn’t the answer
【参考】THE GLOBAL FOODSYSTEM: AN ANALYSIS
【参考】Current global food production is sufficient to meet human nutritional needs in 2050 provided there is radical societal adaptation
【参考】EAT-Lancet Commission Brief for Everyone
【参考】Meat and Dairy Production