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環境問題への取り組みの一環として、ブロックチェーンを活用したサービスが国内外で増えてきた。2022年1月、廃棄物管理サービスを手掛けるJEMSは「ITで環境問題に挑む」というスローガンのもと、「Circular Navi」というブロックチェーンを活用したトレーサビリティシステムを導入した。

JEMSの環境DX戦略部の松崎飛鳥氏は、資源循環型経済の実現には動脈と静脈の連携が欠かせないと指摘している。本記事では「Circular Navi」の詳細を解説する。

①「ITで環境問題に挑む」JEMSとは

約30年の歴史を持つJEMSは、ITを活用して環境問題に取り組むことをスローガンに掲げる。排出企業向けのクラウドサービスや廃棄物リスク管理のサポート(約650社)、資源循環企業向けの基幹システムの提供(約1100社)など、多岐にわたるサービスを手掛けている。自治体の廃棄物プラントの運営や、東日本大震災関連の災害廃棄物管理も実施。2020年8月には、豊田通商と資本および業務提携を結んだ。

2021年11月、JEMSはブロックチェーンを用いた循環型サプライチェーンのための「Circular Navi」を発表した。その開発を指揮した松﨑氏は、各業界からの高い関心を受け驚いているとのことだ。

②「Circular Navi」を開発した背景

SDGsが提唱されて以来、企業は脱炭素だけでなく、大量生産・大量廃棄の方法から資源循環型への移行が求められている。EUを中心に、サーキュラーエコノミーに取り組む動きが増え、プラスチック製品のリサイクル率の目標設定などが検討されている。

資源循環に適したサプライチェーンの再構築の必要性が高まるなか、現状では動脈産業と静脈産業の間で連携が取れていないと、山崎氏は指摘している。動脈側のメーカーや流通業者は廃棄物の分別を試みているが、静脈側の要求に応える形での分別は進んでいない。そのため、両者のコミュニケーションが必要となる。これが実現しなければ、廃棄物を価値ある資源として再利用する循環は難しいと、山崎氏は述べている。

③ブロックチェーンを使って資源循環を実現する

「Circular Navi」という資源循環トレーサビリティシステムは、ブロックチェーン技術を取り入れることで、商品の品質だけでなく、その商品の由来や背景という新しい価値を顧客や消費者に提示する。

3-1.コンソーシアム型チェーンを使用

「Circular Navi」で使用されているブロックチェーンは、ビットコインのような公開型のパブリックチェーンとは異なり、参加するサプライチェーンの関係者のみが利用できるコンソーシアム型チェーンを想定している。

例として、廃プラスチックのリサイクル分野での利用を考えると、小売店から販売までの各工程での情報がロット情報(QRコードやIoTデバイス)を介して正確に記録される。各関係者はデバイスを使って情報を登録・確認でき、商品の履歴や由来を簡単に把握できる。

3-2.ブロックチェーン真偽確認が可能


「Circular Navi」によるリサイクル商品の透明性は、企業が資源循環への貢献を明示しつつ、リスク管理の面でも効果を発揮する。たとえば、リコールが必要となった製品があった場合でも、問題の原因となるロットを迅速に特定できる。ブロックチェーンでの記録は改ざんが難しく、製品の真偽を検証する際の信頼性の高いデータ源として役立つ。

今後、リサイクル材の含有率30%を必須要件とした場合、リサイクル材含有率の真偽を担保することが課題となる。そうした時にこのサービスを有効活用でき、規制や制度に対応し、報告書や伝票の提出が義務付けられた場合にも、書類作成の手間を省ける。

④温室効果ガス量を推量集計可能

「Circular Navi」は製品のトレーサビリティを提供するだけでなく、製造ロットごとの温室効果ガスの排出量も登録可能で、集計作業が効率化される。

現代の企業は、製品の生産から廃棄に至るまでの過程で排出される温室効果ガス(Scope3)の開示が求められている。ブロックチェーンによる記録管理は、これらのデータの整理と集計を支援する。

顧客3社との約1年間の実証実験を経て、2022年末にサービスを本格的に提供開始した。資源循環を社会的な価値として位置づけ、省エネ効果に加え、新しい経済的価値を生むビジネスモデルも提案している。

⑤Circular Naviのサービス概要

このサービスは、製品の再生工程を担う事業者や消費者に、サプライチェーンの証明確認用のプラットフォームを提供。ブロックチェーンを利用して相互の取扱量を承認し、高い信頼性を持つトレーサビリティを実現する。

  • 「トレースフォワード」機能により、企業が排出した廃棄物や有価物のリサイクル過程を追跡
  • 「トレースバック」機能を通じて、仕入れた再生材の原点を特定
  • CO2排出量を算出し、「迅速な追跡」と「サプライチェーンでのCO2排出の可視化」を提供

5-1.サービス活用事例

  • 漁網リサイクル


帝人株式会社主導の漁網リサイクルプロジェクト「TEAM Re:ism」は、漁網由来の再生ポリエステル樹脂を用いた食品トレーの製造に「Circular Navi」を活用している。

日本では、年間約1300トンのポリエステル製漁網が廃棄され、その一部が海洋環境に悪影響を及ぼしている。この問題に対処するため、帝人・居酒屋「はなの舞」・チムニー・JEMSは、トレーサビリティ対応の再生ポリエステル樹脂製トレーを共同で開発した。

このトレーは、JEMSのブロックチェーンベースのトレーサビリティシステムを使用しており、トレーの2次元コードをスマートフォンでスキャンすることで、原材料としての漁網の出所や、トレー製造時のCO2排出量などの情報を簡単に確認できる。

  • 繊維製品リサイクル

「BIOLOGIC LOOP」という繊維製品の回収・循環プラットフォームを運営する株式会社BPLabが、繊維製品のトレーサビリティシステムとして「Circular Navi」を採用した。この提携により、2022年9月1日より新しいサービス提供が開始された。

「Circular Navi」は、繊維業界の多岐にわたる事業者との連携をスムーズにすることを目的とし、オンラインでの情報共有やコミュニケーションを実現する。品番ごとの利用料には、サブスクリプション型の課金を採用。このようなプラットフォームの導入により、繊維業界が持続可能な産業に移行する手助けをしている。

⑥「Circular Navi」に新機能

2023年6月8日、JEMSは「Circular Navi」に「プラ新法対応機能」と「マスバランス認証対応機能」を追加したことを発表した。2022年に施行されたプラスチック資源循環促進法(プラ新法)を踏まえ、JEMSはプラスチック製品のリサイクル推進の支援を強化している。

6-1.プラ新法対応機能

  1. 回収拠点でのデータ登録:運用が難しい回収拠点のデータについて、ロケーションのシーンや廃棄品の性状によって最適な登録が可能
  2. 運搬/積替施設/リサイクルのデータを登録:各プレイヤーが実績を登録することで、プラ新法の要件をみたすことが可能
  3. 取引実績データ管理と報告:製造・販売事業者は出荷からリサイクルまでの実績データを確認し、報告書としてダウンロードすることが可能

6-2.マスバランス認証対応機能

  1. 材料の残量管理:入荷した再生材の重量に対して、認証対象品の重量が設定から超えないための管理が可能
  2. 使用期限の管理:マスバランス計算において、原則3カ月内に使用することという基準がある。3カ月以内に利用できるようなタイマー機能やアラートを使用した管理が可能
  3. 物質の入出力管理と追跡:原材料や製品製造の情報の管理が可能。サプライチェーン間でデータ授受できるため、各工程で発生する中間生成物の量の管理も可能
  4. 損失品の管理:サプライチェーンにおいて発生した損失品の管理が可能
  5. 報告書作成:マスバランス会計によって得られたデータをもとに生産工程に関する報告書の作成が可能

⑦まとめ

企業が持続可能な環境を目指すなか、資源の循環や炭素排出の削減が重要となっている。「Circular Navi」は、循環型サプライチェーンや再利用率の可視化を支援するクラウドサービスとして、その役割を果たしている。

ブロックチェーン技術のトレーサビリティは、金融や物流だけでなく、環境保護活動にも適用され、注目を浴びている。こうした技術の活用により、企業活動の透明性が向上し、持続可能性の証明が可能となる。興味を持った方は、JEMSの「Circular Navi」をぜひチェックしてみてはいかがだろうか。

*記事中の画像の出典:Circular Navi

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する金融投資メディア「HEDGE GUIDE」の「JEMSがブロックチェーンを活用した資源循環の価値証明サービス「Circular Navi」とは」の転載記事です(一部表現を改変しています)。