欧州飲料協会(UNESDA)は4月22日、欧州委員会より3月に公表された循環型経済行動計画(Circular Economy Action Plan)に対するポジョションペーパー(公式見解)を公表した。このポジションペーパーからみえる今後のPETボトル動向を日本の動きも加えてレポートする。
ポジションペーパーが提起する業界の課題
同協会は、循環型経済行動計画(Circular Economy Hubで取り上げた記事詳細はこちら)が目指す完全な循環型経済に移行するための施策を支持するとしたうえで、飲料業界として下記の課題を挙げた。
- 完全循環型に転換することやリサイクル技術のイノベーションを促進するための回収制度の構築
- サーキュラーエコノミーの原則を守ることや長期的な投資を奨励する政策の必要性
- グリーンラベルの科学的根拠に基づいたアプローチの必要性
- パッケージを循環型にするためのマルチステークホルダー(多様な利害関係者)との協働
欧州飲料協会の目標
2018年5月にEU理事会が採択した使い捨てプラスチック指令(Single Use Plastic Directive)は、分別回収目標として2025年までに77%、2029年までに90%を設定。ボトルから離れないキャップの設計や、処分方法などの表示を義務化したほか、再生プラスチックの使用比率をPETボトルで2025年以降25%、すべてのプラスチックボトルで2030年以降30%という目標を定めた。
これを受けて、欧州飲料協会は、2018年9月に下記の飲料業界全体としての目標を制定している。
- 2025年までに、ボトル・キャップ・ラベルを100%再生可能なものとする
- 2025年までに、PETボトルの製造に再生プラスチックを25%以上使用する
- 包装に関わる他業界との協働を通じて、EU域内の回収率をあげる
- 詰め替えボトルも含めたプラスチックの一次包装の再利用
ポジションペーパーの詳細
ポジションペーパーの要点は下記の通りだ。
政策の方向性
飲料業界は、回収・リサイクル・再生プラスチックの活用についての法的安定性と長期的なビジョンが必要だと言及。そのため、政策立案者にはバリューチェーン内の循環性を確保するため長期的な投資を促す政策が望まれるとしている。
「持続可能な製品」の定義づけ
持続可能な製品の立法イニシアチブ(Sustainable Product Policy Framework)では、「持続可能な製品」のみがEU市場に出回るようにすると示している。この「持続可能な製品」についての法的な定義づけが急がれる。同協会としては、100%リサイクル可能で、高い回収率(ペットボトルに関しては90%以上)・高い再生プラスチック利用率(ペットボトルは少なくとも25%以上)を「持続可能な製品」と定義するべきであると主張する。
包装抑制の定義の明確化
同行動計画が言及する「reducing (over)packaging and packaging waste((過剰な)包装や包装廃棄物の抑制)」の定義を明確にするよう要求する。業界全体が共通して理解する「不必要な包装の抑制」という意味か、あるいは包装を全体的に減らすとしているのかをはっきりさせる必要があると主張。後者だとすると、包装業界だけでなく、食品ロス・賞味期限・食品安全・各バリューチェーンなどの課題も同時に考慮されなければならないとしている。
グリーン・ラベルによる情報のアクセス性
消費者の権利を拡大するためには、情報のアクセス性を高める必要がある。現時点ではさまざまなラベルが存在しているため、消費者に混乱を起こしてしまうおそれがある。リサイクル率を高めるためには科学に基づいた共通のラベルづくりが求められるとしている。
DRS(デポジット・リファンド・スキーム)
多くの国で有効な仕組みとして機能しているDRS(デポジット・リファンド・スキームのことでデポジット制度のことを指す)のさらなる拡大が望まれる。
多様なステークホルダーとの協働
循環型経済に移行するためには多様なステークホルダーとの協働が必要になる。Circular Plastics Alliance やEuropean Circular Economy Stakeholder Platform のようなプラットフォームを通じて各施策に取り組むとしている。
日本のPETボトル動向
同ポジションペーパーに関連して、日本のPETボトルの動向についても触れておきたい。
日本のPETボトルの回収率・リサイクル率
PETボトルリサイクル推進協議会が発行したPETボトルリサイクル年次報告書2019によると、2018年度の日本のPETボトル回収率(市町村別収集量と事業系ボトル回収量(分子)を指定ペットボトル販売量(分母)で割った率)は、91.5%(626千トンの販売量のうち572千トンの回収量)。残りの8.5%(54千トン)のほとんどが資源回収ルート外の可燃ごみや不燃ごみに混入されたと考えられている。この可燃ごみ・不燃ごみルートに混入されるとその多くが熱回収(焼却によるエネルギー利用)となる。
2018年度は529千トンが再生PET樹脂となり、その後シートや繊維・成形品に生まれ変わる。回収量に対してのリサイクル率は84.6%。この数字は、欧米でもリサイクル率にカウントされていない熱・エネルギー回収(サーマルリサイクル)は含まれていない。そのため、PETボトルのリサイクル率(サーマルリサイクルを除く)は、すべてのプラスチックのリサイクル率(28%、こちらもサーマルリサイクルを除く)と比べて高い。また、このうちボトルtoボトルによる指定PETボトル利用量は72.7千トン(回収量に対して11.6%)で、前年に比べて11.4千トン増となっている。
ただ、具体的数字になっていないが、可燃ごみや不燃ごみルートにすら入らない、ポイ捨て・災害による河川や海への流出も少なからず発生している。例えば、東京湾へ注ぐ荒川でのペットボトル回収量は、2017年に10年前と比べて約2万本から約3.7万本と約1.9倍になったという留意すべき報告もある。まずは3R(リデュース・リユース・リサイクル)を前提として、回収すること、そのなかでも可燃ごみや不燃ごみへの混入ではなく、資源回収ルートでの回収率を上げることが重要だ。さらには、シートや繊維・成形品に再商品化され、利用後に廃棄されるよりも、循環性の高いボトルtoボトルのより一層の拡大が望まれる。
欧州との比較
これらの課題はあるものの、日本のPETボトルの回収率・リサイクル率に関しては、サーマルリサイクルを除いた数値で欧州と比較しても高い数値であるといえる。PETボトルリサイクル推進協議会が公表しているデータによると、欧州と比較した場合、2017年の販売量に対する回収率(92.2%)と回収量に対する再資源化量(92.1%)は欧州と比べて高くなっている(それぞれ61.5%、68%)。欧州内にも国によって数値にばらつきはある点に注意が必要だが、これは容器包装リサイクル法(容リ法)が制定された1995年から20年以上にわたる日本の消費者・市町村・事業者など各ステークホルダーの取り組みの結果でもある。
今後の戦略
すでに今後の戦略も定められている。清涼飲料業界の業界団体である一般社団法人全国清涼飲料連合会は2018年11月に「清涼飲料業界のプラスチック資源循環宣言」を発表。2030年までにペットボトルの100%有効利用を目指すとしている。さらなる回収率の向上(自動販売機横の専用ボックスの名称を「自販機専用空容器リサイクルボックス」とし、異物混入の抑制による品質確保などの取り組み)や再生材や代替素材の活用などが含まれている。具体的目標数値は示されていないが、ボトルtoボトル拡大に向けた環境整備などにも取り組むとしている。回収率とリサイクル率は高止まりしているため、このボトルtoボトルや注目を集めるケミカルリサイクルの拡大など構造的な転換につながる取り組みへの期待が高まる。
日本のプラスチック全体の戦略
さらに、PETボトルを含むプラスチック全体をみると、日本政府は2019年5月にプラスチック資源循環戦略を発表。同戦略は、この約1年前の2018年6月にG7シャルルボワ・サミットで採択された海洋プラスチック憲章よりも高い目標を掲げている(G7のなかで日本とアメリカは未署名)。同戦略でも触れている熱回収やバイオマスプラスチックの有用性はよく議論になることが多く、その動向を注視する必要はあるものの、この高い目標をどう実現していくか注目していきたい。
このように、PETボトルに関する先進事例や実績が作られてきたが、日本の分別回収の技術やリサイクルの仕組みが海外でもビジネスチャンスになりうることを示唆している。
EU型発想
今回の欧州飲料協会のポジションペーパーには欧州型発想が読み取れる。例えば、うまく機能しているデポジット制(DRS)の他加盟国への拡大を訴えるなど、リサイクルを市場経済に組み入れる点は欧州的発想といえる。
この市場経済への組み込みという点で忘れてはならないのは、EUの再生プラスチックの市場拡大戦略だろう。欧州飲料協会は、2025年までに再生プラスチックを製品に25%以上使用するという具体的数値目標を設定し、再生プラスチック市場を育成させる意図をもっている(市場の創出は、2018年に公表されたEU全体のプラスチック戦略であるEUプラスチック戦略の方向に沿う)。しかし、再生ペットボトル市場における需要と供給が不均衡な状態がすでに発生しているため、今回のポジションペーパーが主張しているように設備投資やイノベーションを通じた供給拡大が求められている。
各国の知恵を生かして共通の土台作りを
EUは、今回のテーマであるPETボトル戦略を含めたサーキュラーエコノミーへの取り組みを産業政策と位置づけて、ルールメイキングの動きを加速させている。Circular Economy Hubで先日ご紹介したこちらの記事の事例もその一例だ。先述の日本のプラスチック資源循環戦略でも途上国の廃棄物管理システムの構築支援を進めるとしている。今後は、日本やアジア・欧州・アメリカで、ボトルtoボトルやケミカルリサイクルなど革新的な技術が発展していくだろう。そのため、日本の技術も発信しながら、各国の知恵を生かして、共通の土台を作っていくことが望まれる。Circular Economy Hubでもそれぞれのイノベーションを全体戦略とともに取り上げていく。
【参照】CIRCULARITY WORKS, LET’S ALL GIVE IT A CHANCE UNESDA position paper on the new EU Circular Economy Action Plan
【参照】Circular Economy Action Plan
【参照】使い捨てプラスチック指令(Single Use Plastic Directive(DIRECTIVE (EU) 2019/904))
【参照】清涼飲料業界のプラスチック資源循環宣言
【参照】プラスチック資源循環戦略
【参照】OCEAN PLASTIC CHARTER
【参照】A EUROPEAN STRATEGY FOR PLASTICS IN A CIRCULAR ECONOMY
【参照記事】European soft drinks industry sets ambitions to make its plastic packaging more sustainable
【参照記事】Commission launches Circular Plastics Alliance to foster the market of recycled plastics in Europe
【参照記事】European Circular Economy Stakeholder Platform
【参照記事】PETボトルの回収率(従来指標)の推移
【参照記事】日米欧のリサイクル状況比較
【参照レポート】PETボトルリサイクル年次報告書2019
【参照レポート】2018年プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況 マテリアルフロー図
【参照レポート】「全国水辺のごみ調査」について
【参照レポート】Plastics recycling PET and Europe lead the way
【関連記事】欧州委員会が新たな「Circular Economy Action Plan(循環型経済行動計画)」を公表
【関連記事】オランダ発の持続可能な廃棄管理「エコパークス」構想、インドネシアで発足