※本記事は、SCI-Japan(一般社団法人スマートシティ・インスティテュート)の会員向けに配信されたコラムの転載となります。

2023年5月から6月にかけて、フィンランド・ヘルシンキ、英国・ロンドン、フランス・パリ、オランダ・アムステルダムの4都市における循環経済の取り組みについて取材・視察を進めてきた。

本コラムでは全3回に分けて、欧州各都市の循環経済をめぐる議論や事例をご紹介した上で、それらの示唆に基づいて今後日本がどのように循環経済を推進していくべきかについて、日本における実践も踏まえながら考察する。

前回のコラムでは、2023年5月末から6月頭にかけてフィンランド・ヘルシンキで開催された世界循環経済フォーラムの様子から、循環経済の今後を考える上で役立つであろう多元的な眼差しをご紹介した。

フォーラムの終了後、ハーチ株式会社が展開する欧州拠点 Harch Europe(ハーチ欧州)では欧州の3都市ロンドン・パリ・アムステルダムをめぐる循環経済視察ツアー「Beyond Circularity 2023」を開催し、その後にオランダ大使館主催・ハーチ株式会社・株式会社ジャパングレーライン共催のもと、6月19日から22日にかけて循環経済をテーマとする日蘭交流プログラムを実施した。いずれの様子も詳しくレポートにまとめているので、ぜひ読んでいただければ幸いだ。

今回は、これら欧州3都市をめぐる中で私が感じたそれぞれの都市がまとう循環経済の特徴についてご紹介したい。なお、本内容はあくまで短期間の視察を通じて得られた私の主観に基づくものであり、それぞれの都市が持つ多様な側面の一部でしかないため、あくまでいち意見としてお読みいただければ幸いだ。

それでも、まちを体験した一人一人がそれぞれの主観を記述し、それらを重ね合わせることで立ち上がる都市の輪郭や、自分とは異なる主観に触れることで心に湧き上がる感情や新たなひらめき、違和感が、日本各地で循環経済への移行を進める実践者の皆様にとって価値ある栄養となると思い、紹介させていただく。

「Pro」と「Re」と「De」から考える循環経済のナラティブ

3都市についてご紹介する前に、循環経済をめぐるナラティブを眼差す視点として私が大事にしている「Pro(プロ)」「Re(リ)」「De(デ)」という英語の3つの接頭辞について触れておく。

Pro(プロ)とは、元来ラテン語で「前方に、前へ」などを意味しており、例えば「spect(見る)」という言葉とつながることで Prospect(見通し)という単語となる。他にも、ビジネスの世界では Project(プロジェクト)、Produce(生産)、Progress(進歩)、Profit(利益)、Promise(約束)、Promotion(昇進)など、Proがつく言葉が数多く使われており、未来を眼差す印象が強い。

一方の「Re(リ)」という接頭辞はもともと「元に戻る、再び、もう一度」など、後ろや反対方向にバックする意味を持つ。例えば 「Respect(尊敬する)」という言葉は、「Re(再び)+ spect(見る)」、つまり「再び振り返って見てしまうほど価値がある」という意味から派生して「尊敬する」という意味につながっている。「Relation(関係)」は、「Re(後ろ)へ Latus(運ぶ)Ion(こと、もの)」が語源で、「何度も持ち帰る」という意味から派生して「関係」という意味になっている。

循環経済をめぐる言論においては、「3R」や「10R」の概念に代表されるように「Re」という言葉が多用される。例えば 3Rは Produce(生産)ではなくReduce(減少)から始まるし、他にも Reuse(再利用)、Repair(修理)、Refurbish(改修)、Remanufacturing(再製造)、Recycle(リサイクル)など、Reという言葉は循環経済のあり方そのものを象徴する接頭辞とも言える。

前方にある未来を眼差す Pro とは異なり、「再び」という意味を持つ Re の眼差しは後方や既にあるもの、過去や歴史など、これまでの蓄積や延々と続く営みの繰り返しを価値づけする眼差しだ。また、その意味で、Re の視点には、Pro の視点も内包されている。前方に未来を築いていくことなしに、後に「過去」となる資産が増えることはないし、ただ後ろを見つめるだけでは繰り返すこともできない。Produce なくして Reduce はできないし、Progress なくして Regress はできないのだ。

その意味で、Re は Pro を否定することなく、未来に進みながらも過去に価値を置き続ける見方とも言えるし、前進と後退を繰り返しているよう見えながらも螺旋的に連なっていく円環的な感覚とも言える。 「Preservation by Innovation(革新によって伝統は守られる)」という言葉があるが、Respectの語源にあるように「後ろを振り返られる地点まで進む」という点も Re の本質なのかもしれない。

最後の「De」という接頭辞は、元来ラテン語で「下へ、切り離す、取り去る」という意味を持ち、否定や脱却のニュアンスを伴う。Decay(朽ちる)という単語にもあるように、りんごが木の枝から切り離されて落ちていくイメージだ。例えば Design(設計)は、De(下に)Sign(印をつける)、計画を記号に表す、というところから現在のデザインの概念につながっている。Depend(依存)はDe(下へ)Pend(ぶさ下がる)という意味だ。

循環経済の文脈では、資源や生産の「Decrease(減少)」などはもちろん、成長と環境負荷を切り離すという意味で「Decoupling(分離)」という言葉が多用される。また、既存の状況に対する否定の意味を伴うラディカルな視点として「Degrowth(脱成長)」「Decolonization(脱植民地化)」「Dewesternization(脱西洋化)」「Defuturing(脱未来)」といった言葉と交わることも多い。

これら Pro・Re・De という3つの視点から、ロンドン、パリ、アムステルダムの各都市で展開されている取り組みとその根底に流れるコンテクストを考えてみたい。

ロンドン「リノベーション都市は、何を繰り返すのか?」

via Shutterstock

古代ローマ帝国の都市・ロンディニウムの創建に起源を持ち、2,000年の歴史を持つロンドンは、文化やファッション、アートのまちでもあり、同時に欧州最大の金融センターでもある。フィンテック銘柄の上場が欧州で最も多いのもロンドン市場だ。まさに、ロンドンは伝統や歴史、文化を重んじつつも未来に向けて革新をし続ける典型的な「Re」の都市と言えるのではないだろうか。

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