気候変動や資源制約などに直面するなか、衣類から自動車、建造物にいたるまであらゆる分野でサーキュラーエコノミーへの移行が進んでいるが、当然ながらその移行難易度は製品群によって大きく変わる。中でも、特に循環モデルの構築が難しい製品の一つが、私たちの生活に欠かせないシューズ(靴)だ。

現在世界では約240億足のシューズが製造され、その9割以上は使用後に埋め立てか焼却処分されているというデータもある。耐久性や安全性、履き心地などの機能性を確保するために複合素材を活用した製品設計が一般的であり、かつ使用時の汚れや摩耗も激しいシューズは、リサイクル難易度が高く、循環型モデルへの移行において多くの課題を抱えている。

そのような業界の課題に対して一筋の光を差し示したのが、株式会社アシックス(以下、アシックス)が2024年4月に発売した、リサイクル可能な循環型のランニングシューズ「NIMBUS MIRAI™(以下、ニンバスミライ)」だ。

NIMBUS MIRAI™(提供:株式会社アシックス)

ニンバスミライは、アシックスを代表するクッション性を重視した高機能モデルの一つで、素材から製品設計、回収・リサイクルにいたるまで一貫してサーキュラーデザインを実装したランニングシューズだ。

アッパー(甲被)部分は本体をはじめ補強部やハトメ(靴ひもの通し孔)などもすべて単一素材でできており、うち75%以上に再生ポリエステル素材を使用している。アッパーを単一素材にすることでパーツごとに分解作業などを削減でき、高い精度でリサイクル可能となる。すでに試験段階ではリサイクル工程へ投入したアッパーのうち、87.3%がPET原料として再利用できることが確認できているという。

また、ミッドソール(甲被と靴底の間の中間クッション材)とアウトソール(外底)は、粉砕処理後にマットやパネルなどの素材の一部にリサイクルされる予定だ。さらに、アッパーとミッドソールを接合する接着剤も独自開発のものを採用。従来と同等の強度を保ちながらも加熱することで簡単にはがすことができるため、リサイクルしにくい原因の一つだったシューズの分解が容易になった。

そして、使用後のシューズはテラサイクル社との連携により回収・リサイクルする取り組みも同時に行う。回収方法は特設サイトで公開しており、国内はオンラインで受け付けている。回収プログラムに参加したOneASICS(アシックスが提供する会員プログラム)会員は2,000円分のOneASICSポイントが付与されるほか、1足あたり約20ポイント(1ポイント=1円)のテラサイクルポイントも付与され、慈善団体への寄付、テラサイクル製品・書籍などへ交換できるなど、回収協力のインセンティブも用意されている。

アシックスは脱炭素化にコミットしており、2023年9月、温室効果ガス排出量(カーボンフットプリント)を抑えたスニーカー「GEL-LYTE III CM 1.95(ゲルライトスリーシーエム1.95)」を発売。これに続く新しい重要なステップとして、ニンバスミライのリリースを位置付けている。

今回編集部では、同社のフットウエア生産統括部マテリアル部⻑・ニンバスミライ開発責任者を務める上福元史隆氏と、サステナビリティ部⻑を務める井上聖子氏に、ニンバスミライ開発の背景、シューズのサーキュラーデザインにおける課題、同社が目指すサーキュラーエコノミー移行に向けた取り組みなどについてお話を伺った。

左:株式会社アシックス サステナビリティ部⻑・井上聖子氏、右:株式会社アシックス フットウエア生産統括部マテリアル部⻑・ニンバスミライ開発責任者・上福元史隆氏(提供:株式会社アシックス)

品質に妥協しない。アシックスが考えるサーキュラーデザイン

アシックスは1949年の創業以来、”Sound Mind in a Sound Body(健全な身体に健全な精神があれかし)” の企業哲学に基づき、製品づくりに取り組んできた。現在では2030年までの戦略長期ビジョン「VISION2030」を掲げ、バリューチェーン全体におけるサステナビリティを追求しているが、その中でサーキュラーエコノミーへの移行はどのように位置付けられているのだろうか?

井上氏「当社は企業の目標として、人々の心と体を健康にしていくことを目指しています。運動やスポーツを続けていくためには健やかな地球環境が必要と考え、2050年までに温室効果ガス排出量ゼロを目指すという目標を掲げています。それらの達成には、循環型のビジネスに転換していくことが必要不可欠です。当社の製品を循環型に変えていくことで持続可能な調達を実現していくことを目指しています」

アシックスでは、バリューチェーン全体におけるサーキュラーデザイン指針として、LESS・CLEANER・LONGER という3つの軸で製品デザイン・開発、素材加工・生産、ダイレクト・オペレーション(オフィス・店舗・DC)、物流、販売・使用、エンド・オブ・ライフという循環型バリューチェーンのフェーズごとにとるべきアクションを定めたサーキュラー・アプローチを掲げている。この独自のサーキュラーデザイン指針はどのように生まれ、運用されているのだろうか?

井上氏「この指針については、英国エレン・マッカーサー財団のサーキュラーエコノミーの定義も参考にしながら検討しました。デザインフィロソフィーの一部にサステナビリティを組み込み、CO2排出量削減を目指しています。グローバル規模で、定期的にこの理念を関係者に共有しています」

アシックスは自社のデザインフィロソフィー(デザイン哲学)として「ユーザーテスト」「サイエンス」「イノベーション」「サステナビリティ」の4つを掲げている。デザイン哲学の中にサステナビリティが含まれていることで、同社のデザイナーは製品開発の際に必然的にサステナビリティ要求を満たすことが求められる。また、サステナビリティと並行して、常にユーザーからの声を大事にし(ユーザーテスト)、人間中心の科学にこだわり(サイエンス)、イノベーションを追求するという姿勢が重視されている点も同社らしい。

上福元氏「製品開発においては、機能性、品質を妥協しないでサステナビリティを両立させるべく突き詰めていくことが、新しいアプローチ、解決策につながると考えており、そこを重要視しています。当社のデザインフィロソフィーの中にサステナビリティという要素が入ったことで、サステナビリティという考え方を入れてモノづくり、デザインをするだけでもアウトプットが変わってくるだろうと考えています。ただし、お客様に選択して頂くために、サステナビリティの押し付けにならないようにする、ひとりよがりなサステナビリティにならないようにすることも大切です」

アシックスが製品のデザインにおいて重要視しているのは、何よりも品質や機能性であり、ユーザーを中心にしたモノづくりだ。それらに妥協することなく、サステナビリティや循環性も同時に追求することで新たなイノベーションの創出につなげるというのがアシックスならではのサーキュラーデザイン姿勢だと言える。

NIMBUS MIRAI™(提供:株式会社アシックス)

徳島・上勝町で体感した、シューズが抱える課題

ニンバスミライの開発にあたり、上福元氏らはごみの45分別によりリサイクル率80%以上を実現しており、「ゼロウェイストのまち」として知られる徳島県・上勝町のゼロ・ウェイストセンターを訪問し、プロジェクトの意義を認識したという。現地では、どのようなことを感じたのだろうか。

上福元氏「ニンバスミライの企画は発売より3年7カ月前に始まったのですが、当初は製品のコンセプトが定まっておらず、『サステナブルなシューズとは何だろう?』という問いかけから始まりました。その問いに対する回答を模索する中で、ボストンにあるグローバルの企画部門から、上勝町がサステナビリティに関して面白い取り組みをしているから訪問してみよう、という誘いを受けて、上勝町への訪問が実現したのです」

「住民から出された資源を細かく分類してリサイクルを試みている現地において、リサイクルできないものとして、使用済みの紙おむつやティッシュペーパー、使い捨てカイロ、シューズなどが代表例として挙げられました」

「なぜシューズがリサイクルできないのか?という問いに対して3つの課題(アッパーとソールを分離できない、アッパー部分が複合素材でできている、シューズを回収・リサイクルする環境が整っていない)を共有してもらい、これらを解決するべく製品開発の方針が決まりました。後日、製品の開発プロセスを進めていく段階で上勝町を再度訪問し、当社のアイデアが正しいか、製品がリサイクルしやすい状態になっているか、ということも確認していただきました」

徳島県・上勝町訪問時の様子(提供:株式会社アシックス)

モノづくりに関わるデザイナーの中には、自らデザインした製品が最終的にどのような状態で廃棄されたり再資源化されたりしているかまでは見たことがないという方もいるのではないだろうか。上福元氏らは、実際に現地に足を運び、シューズが抱えるエンド・オブ・ライフの課題を体感するところからインスピレーションを受け、目指すべきサステナブルなシューズの輪郭を固めていった。また、製品の開発プロセスの中でもしっかりと回収・再資源化の現場の意見に耳を傾け、方向性を確認しながら進めていたという点も参考になる。

サーキュラーデザインのジレンマをどのように解いたのか?

サーキュラーデザインには様々な戦略があるが、一つ一つの戦略は正しいとしても、同時に追求しようとすると矛盾やジレンマが発生するケースも少なくない。例えば単一素材によるデザインと耐久性のためのデザインなどがその代表例だ。ニンバスミライでは、製品開発にあたりどのようなジレンマや課題に直面し、どのようにそれらを克服していったのだろうか。

上福元氏「まず作り手に欠けていた視点として、使い終わった後のステップまで考えられておらず、シューズがリサイクルできるような設計になっていなかったという点が挙げられます」

「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会において、日本代表選手団用の表彰台や移動において着用されるウェアとシューズを提供したのですが、その際、アパレル製品からリサイクルされたアパレル製品の生産を実現しました。そこでケミカルリサイクルの手法について学び、アパレル製品からシューズへというリサイクルは実現可能であることを理解していました。ポリエステル素材を使用しているランニングシューズはかなり普及しており、シューズからシューズへのリサイクルも実現出来るはずだと考えました。ただ、実現に際して3つの主な課題がありました」

「一つ目は、パフォーマンスと単一素材の両立という点です。当社では、履きやすいシューズを作るための設計指針として、クッション性、安定性、グリップ性、屈曲性、フィット性、耐久性、通気性、軽量性という8大機能を重要視しており、これらを損なわないように製品を作る必要がありました」

「一例として、ランニングシューズの心臓部とも呼べる足首後ろ部分は、やわらかく、かつクッション性を持たせる必要があります。従来品ではこの部分にウレタン素材を使っていましたが、今回はポリエステルの不織布を縦方向に積み上げることで弾力を出し、弾力を持たせたまま使うことでクッションになるように設計しています。同じポリエステル素材でも柔らかい部分と固い部分がありますが、靴紐の先端のシューレース部分は、樹脂を使わず熱で固めるという手法を採用しています」

NIMBUS MIRAI™(提供:株式会社アシックス)

「二つ目の課題として、ソール部分の素材がありました。既存のNIMBUSシューズと同程度のスペックのソールを使おうとするとポリエステルでは難しく、単一素材ではなくなり、リサイクルの難易度が上がってしまいます。そこで、ソールとアッパーをはがしやすくする工夫が必要になりました。縫うという手法も検討しましたが、安全性を担保するため、剥がしやすい接着剤が必要という判断に至りました」

「社内で2006年に開発し、実用化に至っていなかった糊がありました。一定の熱を加えると粒子が膨らんで剥がれるという性質のもので、これを活用することになりました。糊の成分の配合や、糊を塗る回数など、100パターンにも及ぶ試作品を作り、製品の輸送中や保管中、利用中に剥がれることがなく、かつ回収した後は剝がしやすい状態を実現する糊が完成しました」

「そして三つ目の課題は、回収した後に再度シューズのテキスタイルになるか、という点です。今回はテラサイクルジャパン合同会社と共同で、アッパーとソールを剥がしてペレットにしたものをニットとして再生できるかを試験し、実現にいたりました。社内調べですが、ポリエステルのシューズからテキスタイルに戻したのは初の事例ではないでしょうか」

「ニンバスミライの開発において、素材をポリエステルにこだわった理由のひとつに、アパレルの回収スキームに早く乗せたかったことが挙げられます。ポリエステルに関しては、テキスタイルからテキスタイルへのリサイクルがすでに実現できています。アパレル製品では、コットンとポリエステルが多く使われており、ランニングシューズでもポリエステルが多く使われているため親和性が高いと考え目を付けました。今後は、シューズからシューズ、アパレルからシューズ、その逆の循環なども実現していきたいと考えています」

シューズからリサイクルしたペレットと繊維(提供:株式会社アシックス)

パフォーマンスと単一素材によるデザインを両立するためのポリエステル加工技術、使用時の耐久性と使用後のリサイクル可能性(ソールとアッパーの易分解性)を両立させるための、温度により接着強度が変化する糊など、様々な技術的イノベーションの末にニンバスミライは誕生した。また、リサイクルスキームの存在を前提とした素材選定を行なっている点もポイントだ。実現にいたるまでには幾度にわたるプロトタイピングとテストも行われており、まさにアシックスが掲げるデザインフィロソフィーが生み出した産物だと言える。

また、ニンバスミライの循環モデル構築にあたっては、どのような循環のあり方が望ましいのかもしっかりと考え抜かれている。一般的に、サーキュラーデザインにおいてリサイクルは優先順位が低い手法だとされているが、パフォーマンスや安全性が求められるアスリート向けのランニングシューズの場合は、リペアではなく、パフォーマンスが落ちた適切なタイミングで製品を手放す、使い捨てを前提とした循環モデルの構築が必要となる。だからこそ、ニンバスミライではリサイクル可能性の向上に焦点が当てられている。このような製品特性と採用するサーキュラーデザイン戦略との整合性は、サーキュラーエコノミーを実現する上での重要な鍵だと言える。

顧客のペインをゲインに変える、回収プログラム

ニンバスミライでは、素材選定や製品設計だけではなく、回収・再資源化までの仕組みもしっかりと作られている点が特徴だ。一般的にサーキュラーエコノミーの実現においては「回収」が課題に挙げられることが多いが、アシックスではこの点もデジタル施策やマーケティング施策と融合させながら、顧客が回収に参加しやすいだけではなく、参加したくなる仕組みも用意している。

上福元氏「お客様の立場に立ったときに、回収という行為がどのように映るのかを重要視しています。自治体によって異なりますが、使用済みのシューズは燃える、あるいは燃えないゴミとして捨てられるケースが多く、お客様にとっては愛着のあるシューズを捨てる行為にはペイン(痛み)を感じるものと想像できます」

「そのペインをゲイン(利益)に変えようと考え、捨てる代わりに回収に協力してもらうことでポイントを提供することにしました。そのポイントは、次に当社の製品をご購入いただく際に使っていただくという輪になります。ただし、地域によってはシューズを回収した後に木を1本植える取り組みをしている例もあり、地域ごとに販売メンバーがお客様や場所の特性に応じて回収に対するインセンティブを考えています」

「また、回収はオンラインで受け付けるのですが、その際に必要となるQRコードはニンバスミライの箱と、シュータン(シューズのベロの部分)につけています。シューズ購入後に箱を捨ててしまうお客様も多いため、QRを箱につけるのではなくシューズ本体に配置しようと考えたのですが、見えない場所だとお客様に気づかれないため、デザイナーからは反対意見もありましたが、目立つ場所としてシュータン部分に配置することにしました」

回収に参加するインセンティブを用意するだけではなく、回収方法の案内のためのQRコードをどこに配置するかにいたるまで、徹底的に顧客目線に沿って体験をデザインすることで、回収率を高める工夫が施されている。近年ではサーキュラーデザインの分野においても素材や製品のデザインという作り手の視点ではなく、利用者の視点から最適なサービスや顧客体験をデザインするサーキュラー・サービスデザインの重要性が謳われているが、ニンバスミライの取り組みはその意味でも参考になる事例だと言えるだろう。

QRコード付きのシュータン(提供:株式会社アシックス)

また、サステナビリティやサーキュラリティ(循環性)を重視した製品は、本当に顧客に評価されるのか?という点が気になるという方も多いかもしれないが、実際にニンバスミライでは既にユーザーからも高い評価を得ており、新たな顧客開拓にもつながっているという。

上福元氏「今回、ニンバスミライをグローバルでローンチしたのですが、4地域8カ国で同時に展開したことも含め、高評価を頂いています。Eコマースではお客様が直接コメントを寄せて下さっていますが、シューズを履いてしっかり評価してくれるお客様からは、NIMBUSとして遜色ないという評価を頂いています。また、コンセプトに共感して購入し、履いて高評価をしてくださるお客様が増えている点からは、新規顧客層の開拓につながっていることが分かっています」

品質に妥協しないサーキュラーデザインは、結果として売上向上にも寄与する。サーキュラーデザインに取り組む多くの企業にとって勇気が出る結果だと言えるのではないだろうか。

目指すは地産地消によるシューズの循環

ニンバスミライでは、ポリエステル素材を軸とする製品開発により、シューズとアパレルの境界を超えた循環型バリューチェーンの構築を目指している。サーキュラーエコノミーへの移行においては、今後も既存のリニア型バリューチェーンの組み直しやスケールのリデザインなど様々な変化が起こると予想されるが、アシックス社では循環型のバリューチェーンの将来像をどのように描いているのだろうか?

上福元氏「ニンバスミライでは、シューズからシューズに戻す技術を確立することが最初のポイントでした。その技術がある場所でリサイクルを行うため、まだ地産地消での循環までは実現できておらず、これは次の課題になると思います。地域によって回収の難易度は異なるため、現在は技術的な部分でリサーチを進めている段階です。今回はリサイクルの効率性、品質の安定化を考慮して米国の1か所に集約してリサイクルを行いますが、将来的には地産地消で循環できる状態が理想だと考えています」

ブランドと顧客がともに社会課題解決に向かう

ニンバスミライの開発を通じて、アシックスが掲げるVISION 2030の実現に向けてさらに大きく一歩前進したアシックス。一方で、世界は2024年に過去最高の平均気温を記録するなど気候変動による影響が顕在化しており、このままでは屋外でスポーツやランニングを楽しめる時間はどんどんと減っていく可能性もある。このような現状を前に、アシックス社では今後どのようにサステナビリティの歩みを進めていくのだろうか。最後にお二人に今後の目標を聞いてみた。

上福元氏「2050年ネットゼロという当社の目標達成に向かうなかで、今回のニンバスミライはそのなかのひとつの取り組みという位置づけになり、今後、段階を踏んでCO2排出量削減に向かって進んでいかなければなりません。製品を通じた顧客体験の拡充はしっかり図っていくことが大切ですが、お客様に参加して頂きやすい、サステナブルな楽しい取り組みを創っていきたいと考えています」

井上氏「お客様のブランド体験を、デジタルを活用して醸成していく機会が増えていくと考えています。その中にサステナビリティを盛り込み、社会課題の解決にブランドとお客様が一緒に向かっていけるような体験を提供していく予定です」

サーキュラーエコノミーにおいては、顧客も回収やリサイクルへの協力・参加を通じてサーキュラー・ブランドの一部となる。メーカーと消費者という従来の関係性から、ともに望ましい社会の実現に向けてブランドを作り上げていく共創パートナーの関係性へと変容するのだ。その関係性の変容に向けた体験をどのようにデザインできるかが、循環型ビジネスを実現する上での鍵となるだろう。

取材後記

今回の取材を通じて一貫して感じたのは、アシックス社が顧客価値として追求する「パフォーマンス」や「品質」に対する徹底したこだわりだ。サーキュラーエコノミーやサーキュラーデザインの実践においては、いつの間にか「循環」そのものが目的化してしまい、本来最も重視するべき顧客価値や顧客体験が蔑ろになってしまうこともある。サステナビリティやサーキュラリティ(循環性)は、顧客価値の中に含まれるべき要素であり、決して切り離されるべきものではない。その両立は決して簡単ではないが、だからこそ、そこにイノベーションの可能性がある。同社の事例からは、サーキュラーデザインに取り組む上で大事にしたい多くのヒントをいただいた。

【アシックス NIMBUS MIRAI™ 公式サイト】https://www.asics.com/jp/ja-jp/mk/mirai