このシリーズでは、10分以内でサーキュラーエコノミーの学習ができる、比較的短く難易度の低い動画から順番に取り上げます。第3回の今回は、「Dame Ellen MacArthur: food, health and the circular economy」をご紹介する形でバタフライダイアグラムを解説します。

動画タイトル

Dame Ellen MacArthur: food, health and the circular economy

配信元

EAT

所要時間

9分59秒

配信日

2015年6月2日

動画の概要

この動画は、エレン・マッカーサー財団の創設者でもあるエレン・マッカーサー氏がEAT Forumという食料システムの変革について話し合うフォーラムで行ったプレゼンテーションである。エレン・マッカーサー財団が提唱するサーキュラーエコノミーのシステム概念図である通称「バタフライダイアグラム」について時間を割いて説明している。まずは動画の概要を解説していく。

バタフライダイアグラム

(エレン・マッカーサー氏が)サーキュラーエコノミーの道を歩み始めたときに取り扱ったテーマは、「資源フロー」だった。当時、専門家や化学者、経済学者と議論をして気づいたことがある。それは、資源は有限だと私たちは知っているが、それまでこの問題に対する手立ては「より少なく使う(use less)」「効率的に(efficient)」だったことだ。この戦略は資源が枯渇するまで、または環境のティッピングポイント(転換点)まで時間は稼げるかもしれないが、根本的な解決策にはならないと考えた。では、どんなシステムであれば長期的に機能するだろうか。まずは調査を始めるところから活動を開始した。

部品や資源を常に高い価値のまま利用することや、廃棄物が出ないようにあらかじめ設計する。そうすることで、廃棄物という概念自体がなくなる。ごみは資源であるという見方をすることが、これまでの資源節約型システムとは違ったアプローチにつながるのではないだろうかと考えるようになった。

エレン・マッカーサー財団「システムダイアグラム(通称 バタフライダイアグラム )」を筆者が和訳

上記は、2つのサイクルを示している。「技術サイクル」と「生物サイクル」だ。右の技術サイクルは、自動車・プラスチック・化学物質など、そのまま自然界に戻すと環境に悪影響を及ぼす枯渇性資源のサイクルだ。左のサイクルである生物サイクルは、例えば木材・綿・食品など生分解する自然資源のサイクルである。

それぞれのサイクルは小さい円により高い価値がある。技術サイクルでは、製品の価値を維持し再販売できるように設計する必要がある。これは、数年利用したら壊れる製品を販売するモデルからの脱却を図ることを意味する。そして、大きな円として機能するリサイクルは最後の手段として利用される。

生物サイクルでは、バイオケミカル供給原料の抽出・嫌気性消化・カスケード利用によってサイクルを回す。カスケード利用とは、製品ライフサイクルを終えた後、製品や原材料を用途・形状を変えて再利用・リサイクルすることを指す。テーブルを例に取ってみよう。テーブルとしての製品ライフサイクルが終わると、合板として利用され、その後はくずや粒子として活用、次に嫌気性消化や堆肥化などにより、熱・光・肥料として自然に還元される。このように、いかに製品や原材料を高い価値のまま保持し活用し続けるかがポイントである。

サーキュラーエコノミーの経済的価値

さて、循環することにどれほどの経済的価値があるだろうか。その価値を理解するためにマッキンゼー・アンド・カンパニー社と議論を交わした。中程度の複雑性をもった製品1年以内の製品サイクルをもつ食品包装などの日用消費財グローバルサプライチェーンにおける循環化(世界経済フォーラムと共同)について調査し、レポートにまとめた。サーキュラーエコノミーへの移行は、1兆ドルを余剰に生み出す経済効果があることがわかり、経済的価値との関係が見え始めた。

さらに、生物サイクルにおいて、農業廃棄物・食品廃棄物・人為的廃棄物を回収し、サイクルにのせ、現在の化学肥料消費量を1年で置き換えることは可能かとマッキンゼー社に質問したところ、可能だという答えが返ってきた。しかも、化学肥料に含まれる栄養素の2.7倍もの窒素・リン・カリウムの原料がこれらの廃棄物から抽出できるという。そこで都市の役割が重要になってくる。人口の半数以上は都市部に住んでいるため、都市部に生物資源が集まる。そのため、都市は「栄養」の倉庫だ。新たにバージン資源を投入する必要がなくなり、経済的価値をもつだろう。

具体的事例:「再生」がキーワードのサーキュラーエコノミー

3つの具体的事例を見ていこう。1つ目は発泡スチール製の原料にキノコ化合物を使い、生分解されるように設計された箱だ。デル社など大手企業の顧客ももつ。この箱は、生分解されるためごみにはならない。しかも、発泡スチール製の箱と同等の費用で販売する。2つ目は、繊維のカスケード利用の事例だ。この繊維の原料やその染色過程において、有害物質を混入させずに製造し、使用後に農家に販売するモデルもある。農家は発芽しやすくするためにこの繊維を土壌に覆う。使用後は、土に還る。3つ目は、砂漠の太陽光果樹園なるものだ。砂漠に太陽光パネルを設置し、影を作り、土に雨水を浸透させ、砂漠を再生させる。これらが実現しようとする「自然システムの再生」は、サーキュラーエコノミーそのものである。

*上記は、動画の概要であり、一部筆者が解釈・補足した部分あり

エディターの視点:バタフライダイアグラムのポイント

動画では、エレン・マッカーサー財団の創始者であるエレン・マッカーサー氏が「EAT Forum」でサーキュラーエコノミーの概要について語っている。プレゼンテーションは大きく4つのテーマに分かれる。「サーキュラーエコノミーとは」「バタフライダイアグラム」「経済性」「事例」の4つである。そのうち、「サーキュラーエコノミー」「経済性」「事例」については、これまでもCircular Economy Hubで取り扱ってきたため、ここでは多くの時間を割いて説明されていた「バタフライダイアグラム」について、動画で触れられていなかった点も加えて解説する。

まずこのサーキュラーエコノミーのシステム概念図は、その蝶の羽のような形から通称「バタフライダイアグラム(Butterfly Diagram)」という異名をとる。経済的・人的・社会的・自然資本などの資本を回復させることを目的とし、製品・サービスフローの拡大につなげるものだ。

バタフライダイアグラムは、さまざまな学派から発展してできたものだが、建築家ウィリアム・マクダナー氏と化学者マイケル・ブラウンガート氏が提唱した「ゆりかごからゆりかご(Cradle to Cradle)」の考え方に最も影響を受けた。サーキュラーエコノミーの本質を表現している概念図で、サーキュラーエコノミー=リサイクルではないということをよく示している。そのため、この概念図を理解することは、これからサーキュラー型ビジネスや政策を検討する方にとって重要なものとなる。

まず、バタフライダイアグラムは、3つの原則から成り立っている。

  1. 有限な資源を管理し、再生可能な資源フローの均衡を保つことで、自然資本を維持・拡大させる
  2. 「生物サイクル」と「技術サイクル」内で、製品・部品・原材料を常に最大限の有用性を保ち、利用・循環させることで、資産の産出を最大化する
  3. 負の外部性を明らかにし、設計段階で排除することで、システムの効果を高める

1. 有限な資源を管理し、再生可能な資源フローの均衡を保つことで、自然資本を維持・拡大させる

バタフライダイアグラム 原則1

まず、2つのサイクルが描かれている。木材・綿・食料など自然界に還された際に分解・再生する性質をもつ生物資源のサイクルである「生物サイクル」。それ以外は「技術サイクル」と呼ばれる。すなわち、有限で枯渇性があり、すぐには自然に分解しない鉄・アルミニウム・プラスチックなどの技術資源のサイクルだ。

この2つのサイクルは別々に適切なサイクルで扱われるべきであるとする。技術資源が生物サイクルで扱われると、環境に悪影響を与えることにつながる。設計段階でも生物資源と技術資源を混ぜて使うと、これも負の影響を及ぼす。例えば、家具(生物資源)に有害な接着剤(技術資源)を利用するよう設計し、生物サイクルで扱ってしまうといった具合だ。このように、2つの資源を適切に管理することが、自然資本を拡大させる出発点となる。

この1つ目の原則を実現するキーワードは、「再生」「代替資源」「仮想化」「回復」だ。

2. 「生物サイクル」と「技術サイクル」内で、製品・部品・原材料を常に最大限の有用性を保ち、利用・循環させることで、資産の産出を最大化する

バタフライダイアグラム 原則2

蝶の羽の右側(青)は「技術サイクル」、左側(緑)は「生物サイクル」だ。まず両サイクル内での関係者は、「部品・材料製造者」「製品メーカー」「サービス提供者」「消費者あるいは利用者」の4者に分かれている。「資源開発・製品メーカー」と「売り手」の2者に分けることも可能だが、より製品が両サイクルに再投入されやすくするために、このように4者に分類されている。

「消費者あるいは利用者」については、生物サイクルでは「消費者(Consumer)」、技術サイクルでは「利用者(User)」と呼ばれている。技術サイクルにおいて、消費者ではなく利用者と呼ばれるのは、製品そのものを「消費する」のではなく、その製品が発揮するサービスを「利用する」という考えによるものだ。

両サイクルに共通して留意することは2つある。1つ目は、そのサイクル内で寿命をなるべく長期化させる点である。これにより、新しい原材料・製品を作る必要がなくなる。2つ目は、小さいサイクルほど、価値を高く維持できるため、優先されるべきであるという点だ。投入した資源・エネルギー・人的資源・時間を無駄にすることがなく、経済的にもプラスとなる。そのため最も大きい円は最終手段となる。それぞれ2つのサイクルを見ていこう。

技術サイクル

バタフライダイアグラム 「技術サイクル」

技術サイクルでは、枯渇性資源である製品や部品のライフサイクルを長期化・回復させるための手段が描かれている。

前述したより小さい円を優先的に活用するという考えに沿うと、例えば、再利用と改修を比較した場合、より小さい円である再利用が優先的に検討されるべき手段であるとする。再利用なら顧客からのキャッシュポイントがなくなるのでは、と思うかもしれない。しかし、例えば「製品のサービス化」「シェアリングエコノミー」「リフィル」モデルの構築など、技術サイクルと親和性があるモデルを採用して、利益を生むことも考えられる。

さらに、関わるプレイヤーの複雑度も重要だ。シェアリングは利用者間でやりとりされ、回収は利用者と部品・材料製造者との関わりがあり、円が大きくなるほど関わりは複雑になっていく。その分、エネルギー・輸送・人件費など、経済的・環境的コストも高まる。関わるプレイヤーを単純化させる必要があるが、ここに、シェアリングなどを可能にさせる、「支援するツール(enabler)」としてのデジタル技術が介入する余地が生まれる。

生物サイクル

バタフライダイアグラム 「生物サイクル」

生物サイクルにおいて、「消費者(Consumer)」に一番近い手段は、「カスケード利用」である。カスケード利用とは、製品サイクルの中で、さまざまな用途や手段で形を変えて再利用またはリサイクルされる方法である。動画のなかで、エレン・マッカーサー氏が言及したテーブルやキノコ化合物からできた包装、作物を覆う繊維の例がこれにあたる。この視点をもつだけでも、さまざまなビジネスモデルが考えられるだろう。

消費者による消費が終われば、バイオケミカル供給原料を抽出し、バイオガスが生成されたり、堆肥として生物圏に安全な形で還されたり、農地の肥料に使われたりする。これにより、土壌を肥沃にし、再生(regenerate)させる。結果、生物資源の栄養ループを閉じることにつながる。

3. 負の外部性を明らかにし、設計段階で排除することで、システムの効果を高める

バタフライダイアグラム 原則3

原則1・2を継続させることで、資源の埋立地行きを防ぐことができ、負の外部性(環境汚染など)を最小化または排除することにもつながる。負の外部性を都度特定し、製品の川上の段階で排除するように設計することで、「効果」をもたせる。

「効果」という言葉が出たが、これまで「効率」に焦点が当てられてきた。つまり、いかに効率的に生産・消費するかという考え「less bad(さほど悪くない)」が重視されてきた。しかし、「効率」「less bad」は、結局のところ自然環境の悪化を遅らせるだけで、悪化しているという事実は変わらない。今一度、全体の「効果」に焦点を当て直し、システムのどこに問題があるかという視点で考え直すべきときにきているといえる。

バタフライダイアグラムは、「廃棄物=栄養(waste=food)」という考えに基づく。つまり、廃棄物・ごみという概念はなく、それらは常に栄養素として考えられるように全体が設計されるべきだという意味だ。

バタフライダイアグラムを生かす

この概念図がどのように実践に活かされるだろうか。バタフライダイアグラムはいわば車体のようなものだが、このシステムを動かすための車輪となる具体的施策が必要である。ビジネスモデルや施策、技術などそれにあたる。

例えば、仏ミシュラン社が提供するトラックの走行距離に応じてタイヤの利用料を支払う「マイレージ・チャージプログラム」は、サーキュラーエコノミーやビジネスモデルとしてのサブスクリプション事例としてよく取り上げられる。タイヤ自体を売るのではなく、タイヤが提供するサービス(走行距離)を売ることで、磨耗したタイヤを100%回収し、リトレッドタイヤとして再生品化し、新たな顧客に提供する。これにより、同サービスにおける廃タイヤ活用率は90%以上を実現した。利益を確保しながらバージン資源依存度を大幅に低減しようという好事例だ。ミシュラン社側としてはいかに長持ちするタイヤを作るかが利益率の向上に関わる。結果、利益率の向上=資源循環度の向上といった形で、経済的利益を環境的利益と一致させることに成功した。しかも、このビジネスモデルによってビッグデータが得られるとともに、顧客エンゲージメントや顧客ロイヤルティを高めることも可能になる。

この例のように、ビジネスモデルは、バタフライダイアグラムを継続的・システム的に成り立たせるツールであり、利益や良い政策の源となる。自組織のビジネスモデルや政策をバタフライダイアグラムに重ね合わせると何が浮かび上がるかについて話し合ってみるのも有効だろう。

参照リンク

【参照サイト】エレン・マッカーサー財団「システムダイアグラム(バタフライダイアグラム )」
【参照サイト】EAT Forum
【参照サイト】The Cradle to Cradle Products Innovation Institute
【参照レポート】TOWARDS THE CIRCULAR ECONOMY Economic and business rationale for an accelerated transition
【参照レポート】TOWARDS THE CIRCULAR ECONOMY Opportunities for the consumer goods sector
【参照レポート】TOWARDS THE CIRCULAR ECONOMY Accelerating the scale-up across global supply chains 

Circular Economy Hub Learning 動画シリーズ(全5回)

  1. Circular Economy Hub Learning #1 (動画「Circular Economy」より) 
  2. Circular Economy Hub Learning #2 (動画「Circular Economy… it’s the way forward」より) 
  3. 今回 Circular Economy Hub Learning #3 (動画「Dame Ellen MacArthur: food, health and the circular economy」よりバタフライダイアグラムの解説)
  4. Circular Economy Hub Learning #4 (動画「Meet the people designing out waste 」より)
  5. Circular Economy Hub Learning #5 (動画「Systems and Network Innovation」より)