国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下、産総研)は2月28日、プラスチック製品を破壊することなく劣化具合を診断する技術を開発したと発表した。
劣化した使用済みプラスチック部品の品質評価や、劣化しにくいプラスチックの設計指針を得ることで、プラスチックの長寿命化に貢献することが期待できるとしている。産総研が今回発表した内容は、以下のとおり。
産総研が開発した計測装置は、X線と近赤外光を用いる。劣化による破壊や変形を生じた箇所をそのままの形状で測定でき、プラスチックの多角的な情報が得られる。今回、産総研は同計測技術をプラスチック製品の主要成分の一つであるポリプロピレンの構造解析に適用したが、同技術はポリエチレンやナイロンなど生産量の多い他のプラスチックにも適用できるため、新しい劣化診断技術として有望だ。
X線散乱-近赤外吸収の同時計測システムの概要
今回の技術開発の背景は、以下である。循環型社会の実現には、プラスチック製品の劣化を防ぎ再生利用することが不可欠だ。劣化の抑制と長寿命化には、劣化の仕組みを解明する必要がある。しかしながら、プラスチックの劣化は構造や構造の変化などが関与することから、劣化現象の解明において劣化部位を複数の分析装置で計測する方法が求められてきた。
これまで産総研は、「材料診断プラットフォーム」体制を構築し、プラスチックの品質を評価し劣化具合を診断してきた。2020年には、近赤外光と機械学習により、ポリプロピレンの劣化を非破壊で簡便に診断できる技術「近赤外光を用いた劣化診断法」を開発し、同技術を今回拡張した。
今後は、今回開発した技術の普及を目指し、企業と連携を進めていきたい考えだ。「材料診断プラットフォーム」において、同技術を含めた診断技術を統合し、さまざまな化学分析によって材料の状態を診断し、適切な処置を提案していきたいとしている。
産総研は、「プラスチック部品の劣化具合を把握することは製品の安全な使用や品質保証に欠かせず、近年ではマテリアルリサイクルに使用可能な劣化の進行が少ないプラスチック部品を選別する技術の必要性も増している」とみている。同技術のようなイノベーションが、マテリアルリサイクルの促進およびプラスチックの循環移行に貢献していくことが期待される。
【プレスリリース】プラスチックの劣化状態を非破壊分析するシステムを開発
【参照サイト】プラスチックの劣化を非破壊で診断する新技術を開発
【関連記事】消費財企業、ケミカルリサイクルについての立場表明とライフサイクルアセスメントを発表
【関連記事】住友化学とリバーホールディングス、業務提携に向けて検討開始。マテリアルリサイクル推進へ
【関連記事】TBMなど4組織、オフィスや一般家庭から排出される廃プラのマテリアルリサイクルを推進
*冒頭の画像は、X線散乱と近赤外光吸収の同時計測システムを用いたプラスチックの劣化分析の例(記事中の画像の出典:国立研究開発法人 産業技術総合研究所)