ザ・エコノミスト・グループの事業であるEconomist Impactはこのほど、報告書「“ピーク・プラスチック” 実現に向けたシナリオ」を刊行した。

日本財団とザ・エコノミスト・グループの共同イニシアチブ「Back to Blue」の一環として作成された同報告書は、プラスチックのライフサイクル全体における3つの主要政策と影響を検証した。報告書の概要は、以下のとおり。

2022年3月、プラスチックごみに関する法的拘束力のある国際条約を2024年までに策定する決議案が国連環境総会で採択された。プラスチックごみに関する抜本的・包括的政策について国連で合意が得られれば、プラスチック消費量の伸びを大幅に抑えられるだろう。合意が得られない場合は、プラスチック汚染は悪化する可能性が高い。報告書は、次の3つの主要政策について検証した。

  • 不必要かつ有害な使い捨てプラスチック製品の段階的廃止
  • 容器包装を使用する消費財メーカー・小売企業を対象とした拡大生産者責任の義務化
  • 汚染者による環境汚染の外部コスト負担を目的としたバージンプラスチックメーカーへの課税

G20諸国のうち19カ国を対象とし、3つの政策が2050年までにピーク・プラスチック(プラスチック消費量減少・追加汚染ゼロ)を実現する可能性を検証した。検証結果は、下記である。

  • プラスチック消費削減には、包括的かつ踏み込んだ取り組みが不可欠:3つの政策シナリオが2050年までにピーク・プラスチックを実現することは難しい。3つを並行して進めても、消費量増加を回避できない。消費量削減には、使い捨てプラスチック禁止措置の対象範囲拡大やプラスチックメーカーに対する炭素税率の引き上げなど、対策の厳格化や追加的措置の実行が不可欠だ
  • 最も効果の高い政策は、使い捨てプラスチック製品の禁止措置:使い捨てプラスチック禁止措置の世界規模での実施は、拡大生産者責任の義務化やプラスチック課税より大きな効果をもたらす。2025年までに使い捨てプラスチック製品の1%がG20諸国で禁止対象となり、その後対象範囲が拡大すれば、2019年時点の1.48倍まで消費の伸びを抑えられる。一部の国では2050年までに対象範囲が17~19%まで拡大するが、プラスチック消費削減には厳格な施策が必要だ。不必要な製品を対象にするなど、取り組みの余地は十分ある
  • 拡大生産者責任は消費抑制効果は低いが、汚染対策の一環として重要:拡大生産者責任は、容器包装メーカーに使用済みプラスチック回収・処理のコスト負担を求める仕組みである。同制度導入による2050年までの消費の伸びは2019年時点の1.66倍で、ベースライン予測(1.75倍)をわずかに下回るのみ。ただ、廃棄物回収体制の改善やリサイクル率の向上などはプラスチックの環境流出抑制につながる可能性は高い。詰め替え用・濃縮製品の利用拡大や代替包装の普及も促進する
  • 効果的なプラスチック課税には、踏み込んだアプローチが不可欠:環境税を導入すると、バージン樹脂のコストが上昇し、社会的負担が適正に反映されない価格構造の歪み是正や、再生材の利用拡大が期待できる。しかし、2050年時点の消費抑制効果は1.57倍で、2019年時点のベンチマーク値(1.73倍)との差はわずかだ。大きな成果を出すには、既存ベンチマークを上回る税率引き上げが必要だ。再生材使用の目標値引き上げ、バージンプラスチックの製造制限と並行して取り組みを進めれば、効果が増大する。

プラスチック消費抑制に向けた取り組みでは、次の2点への留意も必要だ。一つは、プラスチック製品を不必要・有害なものと社会的に有益な(例:医療器具)ものに分類し、後者を税率・価格引き上げ対象から外すこと。もう一つは、低所得国の消費者にもたらす負担の軽減措置を実施することだ。

法的拘束力のある国際条約策定に向け、政府間交渉委員会が設立され、現在作業が進められている。同報告書のようなさまざまな提言・知識・ベストプラクティスが共有され、実効性のある国際条約が策定されることが期待される。

【参照レポート】“ピーク・プラスチック” 実現に向けたシナリオ
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