フィンランドの政府機関であるビジネスフィンランドはこのほど、電池産業から見た環境に配慮した社会を実現するための取り組み事例を公表した。これは、同機関が開催したウェビナーにて同国の企業や団体の代表者が発表した内容をまとめたものだ。

気候変動により各国がCO2排出量削減目標を設定するなか、持続可能な電池技術やサービスに対する需要が世界的に高まっていると同機関はみている。同国は、2035年までにカーボンニュートラルを達成するという目標を掲げている。その一環として2021年1月に国家電池戦略を発表し、国際電池産業において同国が競争力のある持続可能な役割を果たすための方法を提示した。同戦略の基礎となるのは、原材料の入手と加工、電池材料の開発とリサイクルのための活発な生産と研究活動、電動化とデジタル化に関する専門知識であるとしている。同戦略では、電池の循環型経済を促進したい考えも示した。

同機関が公表した見解および取り組み事例は、以下のとおりだ。

フィンランドはサステナブルでグリーンな電池エコシステムのための魅力的な市場

大企業から中小企業、新興企業まで、同国の企業は化学・加工・エンジニアリング・エネルギーの分野で世界最高水準の専門性を持つ。そのため、電池生産のバリューチェーン全体で競争力のある概念・知見・技術を提供でき、グローバル人材にとっても魅力的な市場だ。

同国独自の電池エコシステムは、魅力的な投資機会も提供している。世界のビジネス環境ランキングで常に上位に入っている同国は、高水準の教育を受けた労働力や信頼性の高いインフラを有する、透明性のある安定した社会として知られている。エネルギー分野における投資の最新動向は以下のとおり。

  • 触媒および触媒システムを提供する英ジョンソン・マッセイが、フィンランドのヴァーサ市における持続可能な電池材料工場の建設を決定した
  • 金属ソリューション企業の豪クリティカルメタルと、鉱物および先端材料の開発を行う豪ネオメタルが、フィンランドのポリ市における持続可能なバナジウム回収・生産施設の建設を決定した

BASF:フィンランドの工場で持続可能な欧州の電池バリューチェーンを支援

同国はコバルト・ニッケル・リチウム・グラファイトなど、リチウムイオン電池の製造に必要なすべての主要鉱物が地中に存在する数少ない欧州の国の一つだ。これらの資源に加え、技術や研究の専門知識、革新的文化を持つ同国は、企業や研究者が欧州で事業を立ち上げて成長させるのに適している。

総合化学メーカー大手の独BASFの取り組み
  • 化学市場のなかでも特に大きな成長分野である電池の生産段階で必要となる正極活物質に注力している
  • 欧州初の電池材料生産施設をフィンランドのハルヤヴァルタに建設し、欧州の電池生産バリューチェーンへの支援を強化している
  • 生産段階でのエネルギー使用量を削減するほか、再生可能エネルギー源やCO2排出量が少ない原料を使用し、サプライチェーンをさらに大幅短縮することで、持続可能な電池エコシステムの開発に貢献している

フォータム:電気自動車や産業用リチウムイオン電池のバリューチェーンを変革

天然資源の持続可能な利用とは、原材料の循環・生物由来原料の持続可能な利用・エネルギーや材料の効率化・再生可能エネルギーの利用などを意味する。国際的な電動化の流れのなかで、電池のリサイクルは今後、世界規模の課題となるだろう。

フィンランドに本拠を置く電力会社フォータムの取り組み
  • 顧客や社会にクリーンなエネルギーと持続可能なソリューションを提供することで、カーボンニュートラルな経済への迅速かつ確実な移行を実現している
  • 電気自動車や産業用リチウムイオン電池のバリューチェーンに変革をもたらしている。同社の低炭素リサイクルソリューションは、電池の80%以上をリサイクル可能にし、使用された希少金属を再び流通させ、ニッケル・コバルト・リチウムなどの希少金属の採掘量を削減することで、持続可能性の課題を解決する

サンドビック:鉱山掘削電動化ソリューション市場の先導を目指す

電動化による脱炭素社会を目指すことは、同国が推進する持続可能な方法での気候変動対策の中心となる取り組みだ。鉱山機械の電動化は、地下の排気ガスをなくして換気・燃料費を削減しながら、世界中の鉱山会社や請負業者がより持続可能な鉱山経営を実現するための重要なソリューションの一つである。

スウェーデンに本拠を置き、鉱山・岩盤掘削や電気自動車用電池ソリューションに投資しているサンドビックの取り組み
  • 高度に自動化された電気機器で、より持続可能な鉱山経営への移行を支援する
  • 2021年末までに、すべての地下掘削用途に対応した電動機器の新製品群導入を予定している

今回ウェビナーを開催した同機関は、企業や団体と連携し、これまでにも以下のような取り組みを実施してきた。

  • フィンランド化学産業連合とSitra(フィンランド・イノベーション基金)と共同で、化学産業向けのサーキュラーエコノミー解説書を発行
  • JETROと三井住友銀行、フィンランドVTT技術研究センターと共同で、「フィンランドの真にサステナブルな繊維」をテーマにしたウェビナーを開催

同機関のスマートモビリティおよび電池部門の責任者であるIlkka Homanen氏は、「フィンランドには、電池と電動化によって持続可能な未来への道を切り開くために必要なすべての主要要素がそろっています。当機関は、世界中の電池エコシステム全体に付加価値をもたらすイノベーションや高度な生産技術、研究技術を提供します」と述べている。

【プレスリリース】電池用鉱物から電池のリサイクルまでのバッテリーバリューチェーンに関してフィンランドにおけるバッテリーエコシステムの構築を先導する企業・団体がそのノウハウを発表