新型コロナウイルス感染症(COVID-19)まん延からの復興は、脱炭素やサーキュラーエコノミーなどグリーン経済の推進が中心となるべきである「グリーンリカバリー」の考えが、4月ごろから欧米の産官学さまざまな業界において、急速に広まっている。Circular Economy Hubでもサーキュラーエコノミーの観点から注目してきた。

欧州委員会のフォンデアライエン欧州委員長は、5月13日に欧州議会で復興基金案の概要について明らかにしたが、昨年12月に示した欧州グリーンディールが経済復興の中心になることを示した。欧州委は、27日にもこの復興基金案を発表するとしている。

少なくとも約5000億ユーロ(約58兆5000億円)の規模で復興基金案が提案されるが、そのうちの多くは欧州グリーンディールを加速するものとして打ち出される。発表後は、欧州連合(EU)加盟国27カ国の全会一致による合意を得る必要がある。復興基金をめぐってはこれまでEU内でも足並みが乱れてきたが、迅速な経済復興とグリーンリカバリーの均衡の狭間でも激しい交渉が予想される。さらに27日の発表後にコロナ危機を受けた新規投資の案も検討されるとしており、こちらもその行方に注目が集まる。

このグリーンリカバリーの草案について、EURACTIVBloombergがその一部を入手したという。草案は発表までに修正される可能性が大いにあることに留意する必要があるが、大きな方向性は変わらないため、現段階の草案として紹介する。正式な経済復興プランが公表され次第、Circular Economy Hubでも取り上げる予定だ。

判明した草案は(明らかになった草案の順に)、「建築のリノベーション」「再生可能エネルギーと水素」「クリーンでレジリエントなモビリティ」サーキュラーエコノミーの基盤強化」「レジリエントな食のサプライチェーン構築と復興」である。まず「サーキュラーエコノミーの基盤強化」から取り上げる。

サーキュラーエコノミーの基盤強化

今回のコロナ危機により、廃棄物管理(分別回収・リサイクル)と二次原材料市場が試練を迎えている。そのため、欧州グリーンディールの中核の一部を担うサーキュラーエコノミーの基盤が不安定な状態だ。廃棄物管理の危機は一時的なものとはいえ、リサイクル製品需要の低迷という形でリサイクル産業に影響を及ぼす。例えば、原油価格の急落はバージンポリマー価格の下落を引き起こしたが、再生プラスチック産業は直接影響を受けており、懸念の声が上がっている。

上記は、レジリエントな社会を築くことや、一次原材料の輸入依存の脱却を図るサーキュラーエコノミーの基盤強化の目標を脅かすものである。中国やその他の国が廃棄物輸入を禁止したこともあるが、EU自体の廃棄物管理の能力をも脅かす。さらには、一般または包装廃棄物に関する、世界でも最も野心的な目標を定める法律の施行を危険にさらす。

そのため、復興に際しては、欧州グリーンディールの柱の一つであるサーキュラーエコノミーへの移行を確実にし、廃棄物管理業界への新規投資を実施する。高品質な二次原材料の供給を確保するため、特に回収・分別・リサイクル技術・インフラへの投資を図る。

現在、廃棄物管理部門は、EUで消費される全製品の12%しか経済に還元ができていない。例えば、プラスチックに目を向けると、プラスチック量は増えているにも関わらず再生プラスチックへの需要は全体のプラスチックの6%のみとなっている。今回の危機により、何も投資されなければ、サーキュラー型原材料の割合はさらに減る可能性がある。

一方、これらに投資を実施することで、雇用の創出など、経済に目立った好影響を与える。2017年の廃棄物部門の雇用は、115万人と15年間で35%増となっている。欧州循環型経済行動計画ですでに公表した施策に加え、新規投資により廃棄部部門の雇用やスキルアップの機会を提供することができる。例えば、EUで合意された都市廃棄物への野心的な投資は、14万人の雇用を創出するとしている。

短中期的には、廃棄物管理部門は労働集約的にならざるを得ないが、デジタル化や技術発展・研究開発はさらに雇用を生み、サーキュラーエコノミーにおいて、廃棄物管理の分野で世界をリードすることにつながる。EUの一般・包装廃棄物に関する政策を実行しようとすると、2021年から2027年までの間に170億ユーロ(約2兆円)もの投資に係るギャップがある。加えて、包装以外のプラスチックへの投資を追加で実施するにはさらに40億ユーロ(4700億円)が必要だ。バッテリー・テキスタイル・家具・産業廃棄物・建築と解体廃棄物のリサイクルへの追加投資も必須となる。全廃棄物のリユースやリサイクルに関する投資ギャップは年間9〜10億ユーロ(約1050億円〜約1150億円)だ。

廃棄物管理部門は、回収・分別・リサイクルの新施設設置や新技術の発展に加え、高品質な再生原材料を製造するために、大きな規模でデジタル化へ移行しなければならない。デジタル化は、回収・デジタル分別技術・トレーサビリティの面で、サプライチェーン全体に利益をもたらす。

この分野への投資は全加盟国に重要ではあるが、特に2020年までに一般廃棄物の50%をリサイクルするという義務的目標の達成が危ぶまれる国は、ブルガリア・キプロス・エストニア・ギリシャ・スペイン・フィンランド・ハンガリー・クロアチア・ラトビア・マルタ・ポーランド・ポルトガル・ルーマニア・スロバキアの14カ国である。EUはこれまで複数年次財政枠組(2000-2006年、2006-2013年、2014-2020年)を設け、各期間でそれぞれ50億ユーロ(約5900億円)の投資を実施してきた。将来の予算配分は現時点では未決定ではあるが、サーキュラーエコノミーへの移行に向けた廃棄物管理部門の投資に係るギャップは大きい。

建築のリノベーション

EUは2020年9月に「Renovation Wave(リノベーション・ウェーブ)」と称した、リノベーションに関する投資イニチアチブの開始を予定。現在の建築物のリノベーション率1%を3倍にする目標だ。欧州委は、リノベーションをグリーン・デジタル・公正の観点から、クライメートニュートラルを達成するためにも優先すべき投資分野だとしている。

具体的には、「European Renovation Financing Facility(欧州リノベーション財政機能)」を立ち上げる。まずは年間910億ユーロ(1兆700億円)を投資し、他の財源と組み合わせて合計3500億ユーロ(4兆1000億円)を投入する。

病院や学校、ソーシャルハウジング、低所得者向け住宅などの公共施設への投資を優先する。民間住宅投資については、500億ユーロ(5兆8500億円)規模で、グリーン住宅ローンへの供給支援の枠組みを整える。

再生可能エネルギーと水素

欧州委は、新型コロナによる影響で、太陽光・風力発電のサプライチェーンに影響が及び、市場は20%から33%落ち込むことを予想。再生可能エネルギーは、カーボンニュートラルとともに、レジリエントな社会を築く上で重要となる。欧州委は同様に水素も脱炭素化には欠かせないものとして、再生可能エネルギーの推進と両輪で普及に努めていくとする。それぞれの概要は以下の通り。

再生可能エネルギー

2年間で15ギガワット規模の再生可能エネルギーの調達スキームを整備する。250億ユーロ(約2兆9200億円)規模の投資を図る。また、欧州投資銀行(EIB)との共同融資により、2年間で100億ユーロ(約1兆1700億円)規模の枠組みを用意する。

水素

・現在の研究開発費用に投じる予算6.5億ユーロ(約760億円)を倍増させる。

・水素など大規模かつ複合的なプロジェクトのリスクを低減させるため、共同融資も含めた100億ユーロ(約1兆1700億円)を10年間で新たに投資する。

・100万トンの水素を製造することも盛り込み、水素市場の規模拡大をねらう。再生可能エネルギー助成制度の創設も含まれている。これには、欧州連合域内排出量取引制度(ETS)において、予想価格と市場価格の差分に対して決済をし、従来型水素と脱炭素水素間のコストの不均衡を是正し、クリーン水素を推進する「Carbon Contracts for Difference (CCfD:炭素差金決済)」の試験運用も含まれる。

・欧州投資銀行(EIB)により水素インフラを整備するための100億ユーロ(約1兆1700億円)の融資を用意することも表明。

クリーンでレジリエントなモビリティ

自動車業界に対しては下記の施策が挙げられている。

・EU基準に沿ったCO2と他の汚染物質の排出を減らすクリーン車への投資に、2年間で200億ユーロ(約2兆3500億円)を投資する。(「EU-wide Purchasing Facility for Clean Vehicles(EUクリーン車購入制度)」)

・EVの充電インフラへの投資を倍増させる。2025年までに200万か所の公共充電ステーションや代替燃料充電設備を整備することが目的。

・ゼロエミッション列車の投資に400億ユーロ(約4兆6800億円)〜600億ユーロ(約7兆200億円)を投資する。

・鉄道シフト(温室効果ガス排出削減を目的として、飛行機から鉄道へ移行させる)に400億ユーロ(約4兆6800億円)を投じる。

鉄道車両の切り替えや夜行列車の振興に向けて財政支援する。

・自転車インフラの整備をMaaS(モビリティアズアサービス)との統合を含めて実施する。

レジリエントな食のサプライチェーン構築と復興

農業や食のサプライチェーンは他の産業と違った形で影響を受けた。食に関しては欧州グリーンディールの一環である「Farm to Fork(農場から食卓まで)戦略」を先日発表したが、とりわけ以下の3分野への投資が必要となる。

1. 農業のデジタル化

特に地方の高速ブロードバンドの普及、衛生技術の促進や作物構成の多様化などを通じて持続可能な農業慣行を促す。

2. バイオエコノミーと二酸化炭素吸収源への投資

・2030年までに30億本の植林を実施する。

・年間5000万トンのCO2削減を目的とした泥炭地を回復させる。

・窒素固定などの土壌管理により、900万トンを削減する。

・260万ヘクタールをアグロフォレストリーに変換する。

・少なくとも40地域でカーボン・ファーミングの実験を行う

3. 再生可能エネルギー源としての農業

・2030年までにバイオガス・バイオメタンを15Mtoe(石油換算トン)増やすために、廃棄物や残余廃棄物の活用を最大化する。

・2030年までにバイオガス・バイオメタンを生成するために、持続可能なバイオ燃料の原料5Mtoeを確保する。

サーキュラーエコノミーへの移行はどのような形で実現するか

今回明らかになった草案に対して不安視する声もある。環境保護団体は、多くのエネルギーを要する水素に肩入れをしていることや、自動車産業に過大に焦点を当てクリーンな移動手段に対する施策が欠如していることなどを懸念する。

上記に見てきたように、特にサーキュラーエコノミーは、短期的にはその進捗を停滞させるものであるかもしれないが、レジリエントな社会・一次原材料の他国依存の脱却を図るものとして、グリーンリカバリーのなかで推し進めていく意思を改めて示した格好だ。EUは今回の危機に際して、サーキュラーエコノミーへの移行をどのような形で実現していくか、引き続き注目していく。

【参照記事】World’s Greenest Coronavirus Recovery Package Arriving in Europe
【参照記事】LEAKED: Europe’s draft ‘green recovery’ plan
【関連記事】欧州委員会が新たな「Circular Economy Action Plan(循環型経済行動計画)」を公表