食料部門におけるESG上のリスクと機会について啓発する投資家ネットワーク、FAIRRイニシアチブ(本部ロンドン)はこのほど、G20財務相に対し、2030年までに農業支援を気候・自然目標に整合させるよう求める声明に署名した。同イニシアチブは、リーガル&ジェネラル・インベストメント・マネジメント(LGIM)やBNPパリバを含む32の投資家グループで、運用資産合計で7.3兆ドル規模を有する。
声明では、農業補助金改革は、長期的な視野で投資を行う投資家にとって不可欠であり、気候変動と生物多様性の損失はポートフォリオのシステミック・リスクになると指摘。2050年までにネット・ゼロに移行し、自然を保護・回復するという政府・多国間・民間セクターの公約に沿う形で農業補助金を再利用するよう求めている。
補助金改革に必要な4つの措置とは?
FAIRRイニシアチブによると、補助金やその他のインセンティブは、世界全体の農業生産額の約15%を占めており、温室効果ガスを大量に排出する農産物の過剰生産と過剰消費を助長しているとしている。畜産はEUの農業補助金の20%近くを利用しているが、EUの農業部門における排出量の50%を占めている。
国連は、価格の歪曲や環境面や社会的に有害な年間約4700億ドルの補助金を特定しており、これは全世界の農業補助金の87%に相当するとしている。補助金制度は、自然へのダメージによって年間40〜60億ドルの経済コストを引き起こしていると推定されている。
また、EUの共通農業政策(CAP)は、EU予算全体の3分の1を占めている。しかし、欧州会計監査院によると、気候変動緩和と適応のために1000億ユーロの特別予算が計上されているにもかかわらず、2010年以降、排出量削減がほとんど進んでいないという。
こうした現状を踏まえて、声明はG20財務相に対して補助金改革のために以下4つの実際的な措置を講じるよう求めている。
- 財政支援と環境保護の義務をリンクさせる
- 気候や自然を破壊する農産物の生産からシフトさせ持続可能な農業に価値を置く農産物にインセンティブを与える
- 乳製品や赤肉など、温室効果ガス排出量の多い農産物の生産から補助金をシフトさせる
- 改革によって影響を受ける労働者への資金援助を増やし、公正な移行を確保する
FAIRRイニシアチブ創設者のジェレミー・コラー氏は「各国政府は大胆な気候変動や自然保護に関する目標を掲げているが、それと同時に、赤身肉のような排出量の多い商品への有害な5000億ドル近くの農業補助金によって、こうした野望を台無しにしようとしている」と指摘。その上で「G20は、持続可能な食品産業を支援するという投資家の呼びかけに耳を傾け、農家の移行を支援し、代替タンパク質やその他の持続可能なソリューションのための公平な規制の土俵を確保するために、補助金を自然目標に再編成する必要がある」などとコメントしている。