花王株式会社(以下、花王)と国立大学法人京都大学(以下、京都大学)は、「使用済み紙おむつの炭素化リサイクルシステム」の確立に向け、花王サニタリープロダクツ愛媛(※1)のある愛媛県西条市の協力のもと、2021年1月から実証実験を開始した。
使用済み紙おむつは、現在、年間200万トン以上がごみとして主に焼却処理されており、燃えるごみの4~6%を占めるといわれている。また、多くの水分を吸収しているため、焼却炉の燃焼効率を悪化させる原因になっている事例もある。今後、高齢化による大人用おむつの使用量増加に伴いごみの量が増え、環境負荷が大きくなると予想されており、有効なリサイクル技術の確立が期待されている一方で、実現には多くの課題があると花王はみている。そこで、使用済み紙おむつリサイクルが抱える以下の主な課題を克服するため、「使用済み紙おむつの炭素化リサイクルシステム」の実証実験を開始した。
- 使用済み紙おむつは排泄物を含み2~4倍の重量になるため、保管・回収・運搬時にかさばるほか、悪臭の発生など衛生面に関する課題があり、頻繁な回収が必要となる
- リサイクルするためには構成素材を種類ごとに分離する必要があるが、紙おむつはパルプと多種のプラスチックで構成されており、種類ごとの分離が技術的に難しい
同実証実験では、使用済み紙おむつが発生する現場である保育施設1カ所でリサイクルに取り組む。介護施設で利用実績があるおむつ処理装置を1月から設置し、発生するごみの量や作業量、継続性など、現場における運用面の課題を確認すると同時に、おむつ処理装置を基盤として、使用済み紙おむつを回収前に炭素化する装置の開発も進める。開発の焦点は、低温反応で短時間かつ効率的に炭素化して、殺菌・消臭しながら体積を減らすことだ。これにより、衛生面の課題解決に加え、体積を削減して回収頻度を減らせる。さらに、炭化物に炭素が固定化されるため、使用済み紙おむつを燃やす際に発生するCO2を削減でき、環境負荷低減につながる。
花王の「使用済み紙おむつ炭素化リサイクルシステム」とそのほかのリサイクル(出典:花王株式会社)
4月以降は、開発した炭素化装置を設置し、使用済み紙おむつを殺菌・消臭して体積を減らしたうえで回収する。回収頻度は月1~2回と少なく済み、回収後は、環境浄化や保育施設の園庭での植物育成促進に活用するとしている。また、同装置で炭素化した使用済み紙おむつを活性炭などの炭素素材に変換するべく、研究開発を進めていく。さらに、子育て支援の一環として、花王は同実証実験を実施する保育施設にベビー用おむつ「メリーズ」を提供する。これまで園児の保護者は、登園にあたり自身で紙おむつを準備し、使用済みおむつは保育施設でごみとして出されて焼却処理されていた。保育施設でおむつが提供され、同リサイクルシステムが確立されれば、保護者と保育士の負担軽減を見込めるとしている。
花王は、同実証実験を通して得られた知見を、国内の都市や、プラスチックごみ問題が深刻な東南アジアをはじめとする海外に展開していく意向だ。同リサイクルシステムを確立し、使用済み紙おむつリサイクルが抱える課題を解決して紙おむつを炭素化した素材を産業利用していくことで、リサイクルとCO2削減、プラスチックごみ問題の解決など地球環境改善、さらにSDGs達成に向け貢献していくとしている。なお、同リサイクルシステムは、京都大学オープンイノベーション機構(※2)と花王が開発し、2025年以降に社会実装される予定だ。
※1:1978年設立。サニタリー製品の供給拠点として「メリーズ」「ロリエ」などを生産
※2:京都大学の研究テーマを基本に「組織」対「組織」の本格的な大型共同研究を企画して実施する研究拠点
【プレスリリース】花王と京都大学、「使用済み紙おむつの炭素化リサイクルシステム」の実証実験を愛媛県西条市で開始(花王株式会社)
【プレスリリース】花王株式会社と「使用済み紙おむつの炭素化リサイクルシステム」の実証実験を愛媛県西条市で開始しました。(京都大学)