経団連と経団連自然保護協議会は2023年12月25日、「企業の生物多様性への取組に関するアンケート調査結果概要<2022年度調査>」を公表した。3年前に実施された2019年度調査と比べ、「生物多様性の主流化」が進んでいることが判明。多くの企業で「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」に貢献する活動が進められている一方で、技術面での課題が顕在化している状況も見られた。

経団連と同協議会は、2010年の生物多様性条約の愛知目標採択後、2011年から毎年、会員企業などを対象にアンケートを実施。各社の取組状況を把握し、国内外に発信をしてきた(2020年度、21年度は未実施)。

今回の調査では、2022年12月に採択された世界目標であるGBFや自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)、生物多様性国家戦略などの国内外の動向を踏まえた経済界全体の取組み状況について把握。また、取組上の課題や解決策に関する情報収集・分析を行っている。調査対象は経団連企業会員1,529社(同協議会会員含む)、有効回答数は326社(うち同協議会会員 111社)だった。

主な調査項目は、以下の通り。

  1. 生物多様性の主流化(生物多様性に関する社内の認知度、推進体制、情報公開の進捗など)
  2. GBFへの貢献(バリューチェーン上流・下流等での取組、生物多様性に配慮した製品・サービスおよび資金提供、GBFターゲットに関連する定量的目標・指標の設定、GBFの各ターゲットに関連する取組の事例など)
  3. TNFDへの対応状況(生物多様性依存・影響と関連リスク・機会の評価の実施状況、バリューチェーンの範囲と評価の範囲、LEAPへの取組み状況、さらに生物多様性に関連する事業リスクや事業機会、シナリオ分析におけるタイムフレームなど)
  4. 生物多様性に関する取組における課題(生物多様性に関する取組の理由、課題、気候変動との関連など)

調査の結果、2019年度調査と比べ、より多くの企業で「生物多様性の主流化」が進んでいることが判明。生物多様性の認知度は高く、「経営層の8割以上が言葉の意味を知っている」と回答した企業が60%、「一般社員の8割以上が知っている」と回答した企業は25%だった。ただし「ネイチャーポジティブ」の認知度は低いという結果であった。

また、GBFの23あるターゲットに関して、定量的な指標・目標を設定している企業が29%と、2019年度調査時(27%)から微増した。

TNFDへの対応に関しては、多くの企業がLEAPアプローチの初期段階を行うにとどまっているという結果であった。LEAPとは、TNFDが提案する生物多様性への依存・影響やリスク・機会を科学的根拠に基づき段階的に評価する仕組みのこと。バリューチェーンにおける生物多様性への依存・影響やリスク・機会の評価を行っている企業は10%、また予定・検討中と回答した企業は48%であった。

取組の障壁に関する質問では、「事業利益に貢献しない」「事業との関連性がわからない」といった回答は2019年度調査より減少傾向にある一方(それぞれ、51%→17%、34%→25%)、技術面の課題が多く挙げられた。特に、指標・目標の設定と計測や、シナリオ設定・評価の難しさ、サプライチェーンの複雑さ、知識・人材・予算等の不足が多く挙げられた。

また、 気候変動対策と比べて生物多様性への対応が進んでいない、あるいは両課題に別々に対応している企業が多数あった(それぞれ、151件、67件)。ただし、両課題に同時対応するシナジーのある取組や、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)とTNFDを関連づけて対応している企業もみられた。

経団連と経団連自然保護協議会は、2023年12月12日、経団連生物多様性宣言・行動指針の改定を行っている。自然共生社会、サステナブルな経済社会の実現に向けて、今後も取り組みを進めいく方針。

【プレスリリース】企業の生物多様性への取組に関するアンケート調査結果概要
【参考記事】企業の生物多様性への取組に関するアンケート調査結果概要
【参考記事】経団連生物多様性宣言・行動指針
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