物質フロー指標の資源生産性や循環利用率が改善した要因は、温室効果ガス(GHG)の排出量削減には必ずしも寄与していない――。国立環境研究所物質フロー革新研究プログラムの研究チームはこのほど、物質フロー指標とGHG排出量に作用する経済的要因と技術的要因に着目し、各要因が物質フロー指標とGHG排出量の変化に与えた影響を分析した研究成果をまとめ、公表した。循環型社会と脱炭素社会との同時実現を求められている中、各企業が物質利用とそれに伴うサプライチェーンを通じたGHG排出量との関係を理解することが肝要であることを示唆しているとしている。

4つの物質フロー指標はすべて改善も、変動要因を注視すべき

研究チームは、経済的要因や技術的要因が物質フロー指標の変化にどのように寄与したかを明らかにするため、2011年から2015年にかけての物質フロー指標の変化要因の分析を行った。以下の図1は、4つの物質フロー指標(資源生産性、最終処分量、入口側循環利用率、出口側循環利用率)の変化に対する、経済的要因及び技術的要因の変化を示した図表だ。各指標の改善要因(青色)と悪化要因(赤色)の寄与の合計(灰色)が、物質フロー指標の改善または悪化を示している。改善要因(青色)の合計が悪化要因(赤色)の合計より大きい場合、物質フロー指標が改善されたことを意味する。

(図1)左縦軸は、L, サプライチェーン構造; v, 付加価値率; O, 直接資源利用量; w, 産業廃棄物発生率; wO, 一般廃棄物発生率; Wother, その他の廃棄物発生量; q, 産業廃棄物の最終処分率; qO, 一般廃棄物の最終処分率; Qother, その他の最終処分量. R; 天然資源の利用強度(単位生産あたりの資源利用量); RBIO, バイオマス; RFOS, 化石燃料; RMET, 金属; RMIN, 非金属鉱物; RIMP, 輸入製品; U, 循環資源の利用強度; UCS, 燃え殻、ばいじん; UOAP, 廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチック; UPW, 紙くず; UMET, 金属類; UGCW, ガラス陶磁器くず; UMWS, 鉱さい、スラグ; UOCU, その他の循環利用; y, 最終需要; yhouse, 家計消費; yother, その他の国内需要; yexport, 輸出 <国環研プレスリリースより>

2011年から2015年にかけて4つの物質フロー指標がすべて改善したが、経済的要因や技術的要因の変化が複雑に作用した結果であることが明らかになった。例えば、図1の「a.資源生産性」では、単位生産あたりの化石燃料の投入量(RFOS)や家計消費(yhouse)、サプライチェーン構造(L)の変化が指標の改善(青色)に貢献した一方で、付加価値率(v)の変化は指標の悪化(赤色)を招いた。また、すべての物質フロー指標に共通する経済的要因であるサプライチェーン構造(L)や、家計消費や輸出などの各最終需要(y)については、ある指標では改善に寄与した一方で、他の指標では悪化をもたらすことから、各物質フロー指標に与える影響の特性に注視する必要があるとしている。

具体的には、サプライチェーン構造(L)の変化は、「a.資源生産性」と「b.最終処分量」を改善したが、「c.入口側循環利用率」や「d.出口側循環利用率」を悪化させた。一方、輸出需要(yexport)はすべての指標を悪化させた。研究チームは「日本は自動車をはじめとする物質依存度の高い(物質を大量に必要とする)工業製品が輸出の大部分を占めるため、製品の軽量化や材料の代替を通じて物質依存度の低い工業製品の輸出へ転換することが、物質フロー指標改善の鍵となることが示唆された」としている。

資源生産性や循環利用率の物質フロー指標が改善しても、GHG排出量は増加

以下の図2では、経済的要因の変化が物質フロー指標を改善させたがGHG排出量の増加を招いた、または逆に、物質フロー指標を悪化させたがGHG排出量の低減には寄与した(いずれも「不整合」という)産業部門の割合が示されている。図2では、サプライチェーン構造(L)はGHGプロトコル注釈2の定義を参照し、D1:電力を含むエネルギーの直接利用(Scope1と2)、D2:商品・サービスの生産(Scope3 生産関連)、D3:固定資本の利用(Scope3固定資本関連)の3つのサプライチェーンの断面に分解している。

(図2)物質フロー指標とGHG排出に対して不整合な寄与をした産業部門の割合。RPは資源生産性、FDは最終処分量、CUinは入口側循環利用率、CUoutは出口側循環利用率を示す<同>

全体的に、不整合(図2の青色と黄色)の割合が大きい指標は、資源生産性(RP)や循環利用率(CUin,CUout)であることが確認できる。黄色の不整合の割合は、経済的要因の変化が物質フローを改善させたがGHG排出量の増加を招いた産業の割合であり、資源生産性(RP)では最大で50%を超えた。これは、これらの物質フロー指標を向上させる各産業の経済的要因の変化が、必ずしもGHG排出の削減を同時にもたらすとは限らないことを示している。

資源生産性(RP)と循環利用率(CUin,CUout)における不整合性の割合は、Scope1 and 2では比較的小さく一方で、Scope3は「D2:生産関連」と「D3:固定資本関連」の2種類ともに不整合の比率が高くなっており、循環利用率(CUin、CUout)の不整合性は50%を超えている。とりわけScope3のD3は不整合性が高く、固定資本形成に伴う物質消費の抑制とGHGの排出削減を同時に達成することが、将来の脱炭素社会に向けた物質フロー管理において優先すべき課題だと指摘。これは例えば、既存の機器や設備、建造物等を最大限に活用し、固定資本形成に必要となる鉄鋼やセメント、ガラス等の製造時に多くのGHGを排出する物質の消費を抑えることが重要であることを示唆しているという。

研究チームは、循環型社会と脱炭素社会とを両立して促進させるためには、産業部門レベルで物質利用とGHG排出の不整合を解消する取り組みが求められると言及。具体的には、各産業部門が自らの産業活動での物質利用が、サプライチェーンを介して社会全体のGHG排出にどのように影響しているかを把握できる仕組みの導入が有効だとした上で、「例えば、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)などの企業の炭素排出開示で、物質利用に関する情報も同時に開示するようなルール化が望まれる。物質フロー管理にも企業の資金調達に対するインセンティブを発生させることで、企業が物質フローと炭素排出の情報開示を自発的に行う体制の構築を促すことが重要」と結論づけている。

本研究成果は、以下の要領で公開されている。

【タイトル】
Supply Chains Factors Contributing to Improved Material Flow Indicators but Increased Carbon Footprint
【著者】
畑 奬(国立環境研究所社会システム領域 脱炭素対策評価研究室 研究員)
南齋 規介(同 資源循環領域 国際資源持続性研究室室長 物質フロー革新研究プログラム統括)
中島 謙一(同 
主幹研究員)
【掲載誌】
Environmental Science & Technology
【URL】https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.est.3c00859(外部サイト)
【DOI】10.1021/acs.est.3c00859(外部サイト)

【プレスリリース】
物質フロー指標の改善と温室効果ガス排出削減が両立しないサプライチェーンの要因を特定