2020年11月の米大統領選で民主党のジョー・バイデン氏が当選確実となり、米国の気候変動対策は大転換する見通しとなった。バイデン氏は選挙期間中に発表した公約の中で、2050年までに再エネ100%化による温室効果ガス排出ネットゼロを実現すると表明。米国を含む世界全体での脱炭素推進をリードする姿勢も鮮明にしている。同時に、脱炭素社会への移行による産業構造の変化に対し、公正に対処することに重きを置いていることも特徴だ。

2020年7月に公表された同氏の公約は、以下5つの柱で構成されている。

1. 2050年までに再エネ100%化による温室効果ガス排出ネットゼロを実現

バイデン氏は就任初日から、副大統領として支えたオバマ政権を超える大統領令に署名し、本計画の推進に動き出すとしている。

議会に対しては、遅くとも一期目終了時の2025年までに本計画推進に向けて指標となる目標を設定するよう求めるほか、クリーンエネルギーや気候変動に関する調査やイノベーションに対して過去に例のない規模の投資を行い、とりわけ気候変動の影響を大きく受けているコミュニティにおいてクリーンエネルギーのイノベーションが進むよう支援するとしている。

2050年までに再エネ100%化による温室効果ガス排出ネットゼロを実現するために、向こう10年間で連邦予算1兆7000億ドルを投資すると表明。州予算や民間資金を合計すると、総額5兆ドル規模となる見通しだ。

具体的な主な施策は下記の通りだ。

  • 既存の石油・ガス田からのメタンガス排出抑制の強化
  • 新規に販売される小型、中型車をすべてEV車とし、充電ステーションを2030年までに50万カ所整備する
  • 航空機や船舶でのバイオ燃料利用を拡大
  • 家電や建物の新たな省エネ基準を制定
  • 上場企業に対してサプライチェーンを含めた気候変動リスクに関する情報公開を求める
  • 米国の陸地、水の30%を2030年までに保護することで、生物多様性の保全を図る
  • 連邦政府保有地において森林再生や再エネ導入の目標値を定め、洋上風力発電の設置目標を倍増させる

クリーンエネルギーの研究やイノベーションの実現に向けては、人類の月面到達を実現したアポロ計画時の予算の倍に当たる4000憶ドルを投資する。その上で、2050年ネットゼロ実現に必要な技術開発を促進するため、新たな研究開発機関(ARPA-C)を設立する。ここでは、送電網の蓄電池コストを10分の1にすることや小型原子炉の建設コストを半減することなど革新的な技術開発を狙う。

また、農畜産業や製造業などあらゆるセクターにおける脱炭素化に向けた施策も講じると表明。さらに、長距離通勤による環境負荷を緩和するため、公共交通機関が整備された中心部における適正価格での住宅購入を可能にする貸付や税控除などを行うとしている。

トランプ政権下で行われた減税が企業利益の海外流出を進めたとして、2050年ネットゼロ実現に向けた一連の施策を通じて1000万人分に相当する雇用を確保し、米国産の技術で脱炭素を目指す世界の国々を支援すると宣言している。

2. より強く、レジリエントな国家を構築する

建物や水道、交通、エネルギーのインフラが気候変動の影響を回避、軽減するとともに、気候変動の影響に耐えられるよう、スマートなインフラ投資を進めていく。例えば、交通では東西両岸の旅客鉄道網の整備・延伸などに取り組むとともに、関連インフラの整備を進める。大学や研究機関等が連携して最新の科学的データや情報にアクセスしながら各地域で気候変動対策を作成することで、気候変動の影響へのレジリエンスを高めていく。

3. 気候変動の脅威に立ち向かうために世界の先頭に立つ

気候変動対策は地球規模のチャレンジで、すべての国々による具体的な行動が求められる。

バイデン氏は、温室効果ガスの排出削減目標を掲げたパリ協定への復帰を表明するとともに、他国に対しては排出削減目標の一層の引き上げを働きかけるとした。就任から100日の間に世界の主要排出国がともに一層の排出削減にコミットする場として、各国首脳による気候変動サミットを開催する。バイデン政権では、気候変動対策と外交、安全保障戦略、通商政策とを完全に統合するアプローチが取られる見通しだ。

さらに、温室効果ガス排出を輸出するかのような中国による石炭の海外輸出をやめさせるとした。そのために、中国との二国間合意だけでなく、G20 において最貧国での化石燃料産業をはじめとする高排出プロジェクトへの投資の停止も模索する。同時に、米国のクリーンエネルギー技術の輸出と気候変動対策プロジェクトへの投資を促すイニシアチブも発足させる。国際金融機関などと協力しながら、気候変動対策を進めながら発展を目指す開発途上国に対する債務免除も働きかけるとしている。

4. 有色人種や低所得層のコミュニティを汚染する主体には毅然と立ち向かう

環境汚染をはじめとする気候変動リスクの影響は、有色人種や低所得者層により及びやすい傾向が依然として存在する。バイデン政権は、住民の環境、健康リスクに関する情報公開を怠り、コミュニティの環境を意図的に害している化石燃料関連会社などに対して、毅然とした行動を取ると表明。ミシガン州フリントからケンタッキー州ハーラン、ニューハンプシャー州沿岸に至るまでの地域で、コミュニティに配慮しながらきれいで安全な水にアクセスできるようにするとしている。

5. 産業革命と経済成長に寄与した労働者とコミュニティへの責務を全うする

一連の政策が遂行される中、これまでの経済成長に寄与してきた石炭採掘や発電所の労働者とそのコミュニティに対して、年金や健康保険、職業訓練等を通じて支援し、彼らを取り残さないことを約束する。

なお、バイデン氏はインフラやクリーンエネルギー、建築、農業、環境正義分野の「より良い復興」に向けた包括的プランも示している。

【参照】THE BIDEN PLAN FOR A CLEAN ENERGY REVOLUTION AND ENVIRONMENTAL JUSTICE
【参照】THE BIDEN PLAN TO BUILD A MODERN, SUSTAINABLE INFRASTRUCTURE AND AN EQUITABLE CLEAN ENERGY FUTURE