英国グリーンビルディング協会(以下、UKGBC)は9月10日、ネット・ゼロ・カーボン・ビルディングの調査レポートを公開した。同レポートでは、新しいネット・ゼロ・カーボン・ビルディングの設計やコストに関する実現可能性が調査された。

昨年、英建設コンサルティングのカリーアンドブラウンと米建築設計のエイコムはレポートを作成し、建物を最初から適切な基準で設計するのにかかるコストは、後に改修する際にかかるコストのわずか一部であると報告した。改修する場合、居住用建物は5倍、商業ビルでは5倍~10倍以上のコストがかかるという。米不動産のジョーンズ ラング ラサール(以下、JLL)は今年、持続可能な建物は賃貸価格を6%〜11%上昇させ、空室期間を短縮できると発表した。また、今すぐ対応して建物を将来の基準に適合させると、資産価値の下落を防げ、費用のかかる改修を将来回避できることがわかっている。

そして今回、UKGBCとJLLと英・エンジニアリングコンサルティングのホーア・リーが、ネット・ゼロ・カーボン設計の影響を明確にすることを目的として同レポートを作成した。

調査で使用したのは実際に存在する2軒の設計段階の建物で、居住用建物1軒とオフィスビル1軒である。2025年の目標基準を達成するには、居住用建物は従来のガスボイラーを空気熱源ヒートポンプに置き換え、断熱材を改修し、窓の面積を減らして熱損失を最小限に抑えるように設計変更しなくてはならなかった。オフィスビルは地上部の構造において、従来の鋼とコンクリートをハイブリッド鋼とCLT(クロス・ラミネーティッド・ティンバー)に置き換え、吊り天井などの一部の取り付けや仕上げ材を取り除き、アクティブチルドビームを導入する必要がある。設計変更コストを分析したところ、居住用建物は3.5%増加し、オフィスビルは6.2%の増加となった。このコスト上昇は比較的わずかで、賃貸料や資産価値の増加と運用コストの削減により、相殺できる可能性が高い。

さらにこの調査では、2030年の目標基準を達成するために必要なコストを計算した。この基準達成のために必要な設計変更を行う場合、居住用建物では5.3%、オフィスビルでは8%~17%コストが増加する可能性がある。これは、低炭素ソリューション市場を拡大し、コストを長期的に削減するためのサプライチェーンの革新と早い段階での投資の必要性を示している。

UKGBCの最高経営責任者(CEO)であるジュリー・ヒリゴエン氏は、次のように述べている。

「建物をより環境に優しくするための対策を講じることで、長期的に付加価値が高まり、コストを削減できることはすでにわかっていた。しかし、今日の新しい建物における、ネット・ゼロ・カーボンの基準達成に関する正確な費用便益分析はいまだに難しい。この研究は、2025年までに要求されるエネルギー効率と低炭素基準に沿った今日の建物はそれほど高額ではなく、家賃の上昇や運営コストの削減、販売価格の上昇や相殺コストの削減といった価値の向上によって埋め合わせできる可能性が高いことを示している。

しかしながら、2030年の基準で設計する場合、2020年の基本設計での資本コストが増加することへの対応は難しい。これを克服するには、長期的で厳しい基準を定め、確実性と平等な競争の場を提供し、サプライチェーンの革新とコスト削減を行わなくてはならない。また、ネット・ゼロ・カーボン達成を目指した先見性のある政策立案と大胆な業界連携が必要だ」

10年後までのネット・ゼロ・カーボン・ビルディングの基準に適合させるための可能性と指針を示した同レポートは、費用効率とエネルギー効率に優れたグリーンビルディングの実現に貢献するものとなるだろう。

【プレスリリース】Net zero carbon buildings – design, delivery and cost explored