一般社団法人プラチナ構想ネットワーク(小宮山宏会長)はこのほど、2050年カーボンニュートラル社会の実現を目指す日本で森林資源の最大限の活用を軸とした森林循環経済の構築を呼びかける「ビジョン2050 日本が輝く、森林循環経済」を公表した。これに合わせて6月14日、東京都内でシンポジウムを開催した。
同ビジョンは、脱炭素のカギは化石資源依存からの脱却であるとして、化石資源経済からバイオマス資源経済への移行を図る必要があると指摘。「石油資源からバイオマス化学への転換」「木造都市(まちの木造化・木質化)の展開」「需要の拡大を受けた森林・林業の革新」という3つの戦略の推進を通じて、現状の4倍の森林資源の活用、1割のCO2削減、4.7兆円の直接的な経済効果の実現を目指す。
まず、「石油化学からバイオマス化学への転換」では、プラスチックなどの化成品の原料を石油原料からバイオマス原料に転換するとともに、既存のプラスチックなどのリサイクルを継続することで、2050年には新たに3570万平方メートルの木質バイオマス需要を創出できるとしている。ウクライナ紛争などの影響で改めて資源確保の危機が指摘されるなか、できるだけ国内資源で自給できる社会経済システムを構築することで自給率向上を図り、経済安全保障を強化する必要性にも言及している。
「木造都市の展開」については、2050年までに9階建て以下の新規建築物のすべてを木造化・木質化し、都市に「第二の森林」を形成することを提案。2050年の木質バイオマス需要は、現在の3650万立方メートルから6240立方メートルに増加。現在から2050年までに都市で固定される炭素貯蔵量の累積は、二酸化炭素換算で6億6700万トンとなる(日本の森林の炭素固定量の1割に相当)。森林資源は地方に多く存在するため、森林・林業の活性化は、地方の雇用創出を通じて地方創生に貢献する。古くから森林と共生してきた歴史を持つ日本にとって、森林文化の再生にもつなげられるとしている。
これら2つの戦略と同時並行で、「森林・林業の革新」を進める。林業経営の強化などを着実に実行し、日本の豊かな森林資源を適切に管理・活用すれば、現在の4倍の国産木質バイオマス供給が可能になるとしている。これにより、2050年には国内の木質バイオマス需要のすべてを国内の森林資源で確保できるとしている。
こうした一連の取り組みを実行することで、2050年時点で現在の排出量の1割に相当する大幅なCO2の排出削減が見込まれるとともに、森林によるCO2吸収量の増加にもつながる。また、化石資源の輸入が国内投資に移行することによる経済効果や地方での雇用創出、伐採・再造林の加速によるスギ花粉症の経済損失の回復見込み分を合計すると、2050年時点で年間4.7兆円の直接的な経済効果があると試算した。
プラチナ構想ネットワークの小宮山宏会長はシンポジウムの基調講演で、ビジョンの実現に向けては「石油資源からバイオマス化学への転換」「木造都市(まちの木造化・木質化)の展開」「需要の拡大を受けた森林・林業の革新」という3つの戦略に加えて、バイオマス化学の知見を持つベンチャー企業との協働や、ソーラーシェアリングなど森林を有する過疎地にとって経済性で魅力的なビジネスの創出が欠かせないと指摘した。そのうえで「2050年カーボンニュートラル社会の全体像とは、再生可能エネルギーの普及とバイオマス化学、都市鉱山への転換だ。いずれも現在の技術で実現可能だが、課題はスピード」などと語った。
ビジョン発表に合わせて開催されたシンポジウムで講演するプラチナ構想ネットワークの小宮山宏会長
プラチナ構想ネットワークは、「地球が持続し、豊かで、すべての人の自己実現を可能にする社会」をプラチナ社会と定義して、その実現を目指す産官学民によるネットワークだ。同ビジョンは、プラチナ社会に必要とされる各分野を推進する初のイニシアティブである「プラチナ森林産業イニシアティブ」の主導でまとめられた。同イニシアティブステアリングコミッティ委員長の横田浩・株式会社トクヤマ代表取締役 社長執行役員は、「21世紀は消費の世界から循環の世界になっている。そのカギが森林。世界に誇れる循環経済づくりのために、このイニシアティブからみなさんとともに進めていきたい」と呼びかけた。
同ビジョンは、川上(森林・林業の革新)から川中(国産材や木質バイオマス活用)、川下(木造都市・バイオマス化学)、さらには解体・リサイクルに至るまでのプロセスに循環経済の要素も加味した「森林経済バリューチェーン化」を目指す。国土面積の約7割を森林が占める日本発の循環経済として、これほどふさわしいモデルケースはないだろう。これからの進展に注目したい。
【プレスリリースおよびレポート全文】「ビジョン2050 日本が輝く、森林循環経済」の公表(一般社団法人プラチナ構想ネットワーク)
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記事中の画像の出典:プラチナ構想ネットワーク