*本コラムは、アミタが運営するオウンドメディア「未来をおしえて!アミタさん」とのサーキュラーデザインに関するリレーコラムとしてお届けします。

サーキュラーエコノミー(以下、循環経済)は、しばしば経済成長と資源利用や環境負荷とをデカップリング(分離)するための手段として説明され、「環境」と「経済」を両立する新たな経済モデルという視点で議論されることが多い。

一方で、ストックホルム・レジリエンスセンターのJohan Rockström氏らが提唱したSDGsウェディングケーキモデルにおいて提示されているように、実際には「環境」と「経済」との間には「社会」という層があり、これら3つは決して切り離して考えられるものではない。経済活動は自然環境と人間との調和的な関係を構築する過程において形作られる社会システムの一部として存在しているのだ。

そこで、本記事では循環経済への移行をめぐる社会的側面に注目し、循環経済がどのように地域や社会において価値をもたらすかについて考察したい。

循環経済と社会的インパクト

循環経済への移行は、CO2排出や廃棄物の削減、生物多様性の保全・再生といった環境に対するインパクトだけではなく、どのような社会的インパクトをもたらしうるだろうか。

循環経済がもたらす社会的インパクトに対する関心は世界でも年々高まっている。Melanie Valencia 氏らの研究“The social contribution of the circular economy”(2023)によると、循環経済の社会的側面についての出版物は2015年から徐々に増え始め、ここ数年では2019年の94本から2022年の443本へと急増している。

循環経済に関わる社会的側面としては、心身面の健康や教育・スキル開発、雇用機会の増加といった生活の質に関わるテーマ、地域コミュニティにおける所属意識の向上や異なる集団同士のつながり構築、地域への貢献といった社会的結束に関わるテーマ、社会的公正、参加型の意思決定といった民主主義やガバナンスに関わるテーマ、多様性と包摂など多岐にわたる。

2020年に蔓延した新型コロナウイルスの影響でグローバルのサプライチェーンが分断され、移動が制限され、改めて人々が地域や土地、コミュニティとのつながりの価値に目を向けることになったことを考えれば、過去数年で循環経済という新たな経済システムが様々な社会的課題にも対処しうるより広範な概念として捉え直されていることは自然な流れとも言える。その象徴的な出来事とも言えるのが、2020年4月に世界で初めて「ドーナツ経済学」の概念をサーキュラーエコノミー戦略に採用し、「アムステルダム・シティ・ドーナツ」を公表したオランダの首都・アムステルダムだ。

オランダの首都・アムステルダム市(via Shutterstock)

同市では、プラネタリーバウンダリーの範囲内で社会的公正の実現を目指すドーナツ経済の考え方を循環経済の社会的側面を補完するために採用し、アムステルダムという都市にとっての繁栄の意味を環境・社会、ローカル・グローバルという4つの視点から再考する「シティ・ポートレート」を通じて独自の持続可能な都市戦略を構築している。(参考:IDEAS FOR GOOD「【欧州CE特集#15】ドーナツ経済学でつくるサーキュラーシティ。アムステルダム「Circle Economy」前編」

ループを内側に回すと、社会的インパクトが拡大する

循環経済においては、エネルギーをかけて製品を原材料レベルまで戻していくリサイクルよりも、一度製造された製品をできる限りその価値を保ったまま使用し続けるシェアリングやリユース、リペアといった内側のループが優先される。

この内側のループを優先するという循環の原則は、経済的価値の損失を防ぎ、資源あたりの価値創出を最大化するという意味でも、より環境負荷を減らすという点でも重要であることは言うまでもない。しかし、ここで考えたいことは、内側のループを優先することは、環境、経済だけではなく社会的インパクトの最大化にも貢献する可能性があるということだ。

例えば、シェアリングエコノミーは、モノのシェアや貸借を通じて人々が出会い、つながる機会を増やす可能性がある。全てのシェアリングビジネスが地域や社会の関係資本(つながり)を育むわけではないものの、何かをシェアし続けるためには前提として地域コミュニティや社会において一定の信頼資本が蓄積され、流通していることが不可欠だ。これらの最も優れた循環型ビジネスモデルは、事業の成功に欠かせない地域・社会関係資本を構築するとともに、その構築によってさらに事業が加速するという相補関係にある。

Circular Yokohama(ハーチ株式会社)が運営する地域の本シェアリングサービス「めぐる星天文庫」。毎月地域の方から多くの本が持ち込まれ、循環していく。

また、先日弊社ではオランダのアムステルダムから始まり、世界中に広がっている「リペアカフェ」をテーマとするドキュメンタリー「The Repair Cafe」を制作したが、このリペアカフェもまさにドーナツ型モデルの事業だ。

地域の人々はカフェを訪れて壊れたものをリペア(修理)するという行為を通じ、愛着のあるモノの価値を取り戻したり高めたりできるだけではなく、地域のコミュニティとつながり、自分自身の心をケアし、壊れかけの未来も自分の手でよりよくできるという創造的自信を取り戻すことができる。リペアカフェは、壊れたモノだけではなく人の心や地域コミュニティ、都市や未来までをも修理していくのだ。

リペアカフェの様子(写真提供:IDEAS FOR GOOD)

循環経済の内側のループを回すうえでエネルギー源となるのは、化石燃料ではなく人間だ。外部から投入するエネルギーを使って製品を原料まで戻していくリサイクルとは異なり、シェアリングやリペア、メンテナンスといった事業は、人々がサービスの動力源の中心となる。また、これらのサービスは概して労働集約的であり、かつ体験の質を高めるためにはサービスが顧客の近くで提供されることが重要となるため、結果として製造現場ではなくよりユーザー(利用者)に近い場所に多くの雇用をもたらし、外部への資本流出が抑制されて地域内の経済循環率が高まり、バリューチェーンにおけるより分散的な富の分配に貢献する可能性がある。

雇用という視点では、オランダのCircle Economy社が、雇用の視点から都市の循環経済移行度を可視化する “Circular Jobs Monitor” を提供している。日本では先日、愛知県蒲郡市・Circle Economy社・ハーチ株式会社の3者で日本初となる循環型雇用ダッシュボード「Gamagori Data Explorer」を公表した。

このダッシュボードは、循環経済への移行に関わる仕事を「Circular Job(循環型雇用)」と定義し、都市の雇用全体における循環型雇用の割合を定量的に示すものだ。セクターごとの雇用規模の大小と循環型雇用率の高低を掛け合わせることで、どの業界から優先的に循環経済への移行に向けたスキル開発や教育を進めていけばよいかを特定することができ、自治体の循環都市政策を考える上で活用しやすい指標となっている。政府や自治体のオープンデータをベースに循環型雇用率を算定できる点も魅力だ。

2021年11月にサーキュラーシティを表明した愛知県・蒲郡市

業種やビジネスモデルに関わらず、循環経済への移行を担うのは常に人である。雇用という視点からサーキュラリティ(循環性)を考えていくことは、環境指標、経済指標と同様に重要であり、循環経済へのジャスト・トランジション(公正な移行)を実現するという視点からも欠かせない。

また、フランスのAlexandre Lemille氏は、循環経済のバタフライダイアグラムにも示されているバイオスフィア(生物圏)とテクノスフィア(技術圏)という考え方に加え、「サーキュラー・ヒューマンスフィア(循環型の人間圏)」という考え方を提唱している。

十分な睡眠と食事により何度でも動き続けることができる人間由来のエネルギーは、再生可能エネルギーと捉えることができる。また、減少し続けているバイオマスなどの生物資源や枯渇性の技術資源とは異なり、人間は2050年には100億人程度まで増加が見込まれており、唯一増加している資源と捉えることもできる。このような考え方は、自動車中心の都市からウォーカブル・シティやサイクリング・シティといった人間中心の都市への移行をめぐる議論にも当てはめられる。

商店や病院、学校など生活に必要なあらゆる施設に徒歩や自転車など15分以内でアクセスできる”15分都市”の実現は、環境・社会・地域経済の全てに恩恵をもたらすと言われているが、循環経済においても内側のループを優先することも、環境・経済・社会の全てにおけるインパクトを増加させる可能性があるのだ。

サーキュラーネイバーフッド(循環地縁)を構築する

多くの人が高密度で暮らしていながらもつながりが希薄な都市空間では、なおさらこうした人々の間につながりを生み出すような循環経済モデルが重要となる。

そのためのヒントとなるのが、英国エレン・マッカーサー財団が提唱する、その土地に根ざした地域の循環経済の在り方として「サーキュラーネイバーフッド」という概念だ。

同財団は、ネイバーフッド(近隣)を、コミュニティアクションや都市システムとの相互作用を示すには十分な規模の大きさを持ちながら、明確なプロジェクト目標を設定し、住民や地域のグループ、地域の事業者といった地域のステークホルダーを動員するにはほどよい小さな規模であると説明しており、人々が日常生活の中で循環経済への移行を目に見える形で実感できるという意味で、ネイバーフッドにおけるプロジェクトの重要性を強調している。

循環経済の実験区として知られるアムステルダムの「De Ceuvel」(写真提供:IDEAS FOR GOOD)

半径2km程度のお互いに顔が見える範囲における循環活動への参加を通じて人々がつながり、結果として目に見える変化と便益を共にする。ここでは、サーキュラーネイバーフッドを、単なる空間的な範囲を超え、循環経済を通じて地域の中に生まれるゆるやかな近所付き合いも含めたつながりとしての「循環地縁」と訳すことにする。

例えば大都市・東京においてもまさに「循環地縁」の構築に寄与する活動や拠点は数多く存在する。お酒を飲みながらDIYアップサイクルを楽しめる「RINNE BAR」、循環する日常をえらび実践する新たな拠点「élab(えらぼ)」、水辺のまちサーキュラーLAB.を展開する「SHIBAURA HOUSE」、地域の人々による都市緑化・農園の新たな形を提示している「シモキタ園藝部」、都市で森を育てるシェアフォレストの「comoris」、「Tokyoを食べられる森にしよう」をコンセプトに掲げる「Tokyo Urban Farming」、CSA(地域支援農業)と食循環を掛け合わせた「CSA LOOP」などもその代表例だ。

弊社では、2023年より神奈川県横浜市に地域の循環拠点「qlaytion gallery」を運営しており、地域内における本のシェアリングサービスやリユースびんの販売・回収、地域の方から持ち込まれる素材を活用したアップサイクルワークショップなど、循環型ライフスタイルを地域に浸透するための様々な活動を展開している。

コーヒー粕を使ってクラフトビールのモルト粕を使ったクラフトビールペーパーの上に絵を描くアップサイクルアートワークショップ(写真提供:Circular Yokohama)

また、先日は庭と庭を眺める生活環境を再考するブランド「5%Garden」と連携し、地域から不要になった花瓶を回収し、その花瓶を使って木と花のブーケを作る循環ワークショップを実施した。花瓶の循環を通じて地域の日常に緑を増やしていく。また、その過程を通じて新たなつながりを生み出していく。これも循環地縁を育む有効な機会となった。

地域から集まった花瓶を使い、木と花のブーケを作る循環ワークショップ。(photo by Ryota Amegi)
集まった花瓶には、持ち主からメッセージが添えられている。資源だけではなく思いを循環させることも循環地縁づくりに欠かせない。(写真提供:Circular Yokohama)

アミタ社が展開する「MEGURU STATION®」も、循環経済への参加を通じて地域のつながりや人々の健康促進といった社会的価値を生み出している好事例だと言える。

MEGURU STATION®(写真提供:アミタ)

これらの拠点に共通しているのは、その土地に根ざした活動を通じて、資源や栄養循環の拠点として都市の代謝を促進するだけではなく、地域に有機的なつながりをもたらし、人々のライフスタイルに直接的な変化と影響を及ぼしているという点だ。

このような循環地縁を数多く抱える都市は、ハードのインフラだけではなく地域住民のつながりや信頼が目に見えない安心や安全のインフラとして機能し、自然災害や経済環境の悪化に対してもより高い回復力を持ち、長期的に繁栄することができる。よく循環経済は一人や一社では実現しえないと言われるが、これらの社会関係資本や地域関係資本は循環経済にとっての大切なインフラなのだ。

都市のリペアに必要なのはシビックプライド

上述したように、循環経済への移行を通じて、私たちは環境の再生だけではなく、社会や地域コミュニティを再生することもできる。人々が楽しく気軽に循環経済に参加でき、結果として新たなつながりを得ることができる循環地縁は、直線経済の中で壊れかけている地域社会やコミュニティを修復するための広義のリペア拠点として機能する。

リペアのポイントは、壊れてもまだ使い続けたいという「愛着」があって初めてニーズが発生するという点だ。前回のコラムでも説明したように、対象物の物理的耐久性よりも情緒的耐久性が上回らない限り、リペア欲求が生まれることはない。この「愛着」は、モノだけではなく人間関係や地域、都市にも宿る。その意味で、人々の地域や都市に対する愛着やシビックプライドは、その場所における修理可能性を測る指標とも言い換えられる。

循環型15分都市へ

さらに、これらの愛着やシビックプライドを醸成する源泉となるのは、循環型まちづくりへの参画であり、使い手ではなく作り手としての地域への介入と関与である。そのように考えると、私たちが考えるべきは、まちの消費者として暮らす人々がまちの作り手に転換するきっかけのデザインであり、循環地縁の拠点は、まさにそのための空間・体験としても機能する。人々を循環経済という新しいシステムへといざなうエントリーポイントとして機能し、そのシステムへの参加者を増やしていくことで、自然と移行が進んでいく。

そのため、循環経済がもたらす社会的インパクトを最大化するためには、都市や地域がこれらの循環地縁を育む拠点をどれだけ増やせるかにかかっている。15分都市の概念を借りるなら、私たちが構築するべきは Circular 15 minutes City(循環型15分都市)である。人々の日常の生活導線の中に、リユースやシェアリング、リペア、回収など、多様な循環活動へのアクセスが開かれているような地域のデザインが必要となる。

サッカーをする文化がない国でサッカーボールを売るのは難しいように、循環という文化が根付いていない場所で循環型の素材や製品を販売することは難しい。循環経済に取り組む企業は、ぜひ「経済」と「環境」との間にある「社会」というレイヤーにも目を向け、循環を加速させる上で欠かせない信頼資本や関係資本への投資を考えてみてはいかがだろうか。

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