本連載では、サーキュラーエコノミーを学び実践するリゾートカンファレンス「GREEN WORK HAKUBA」の様子を4回シリーズで連載する。第2回の今回は、「サーキュラーエコノミーの事例編」。第1回でサーキュラーエコノミーの概念が理解できたところで、いくつかの事例(国・企業)に触れていく。

1.【国の事例】国際競争力強化のためのサーキュラーエコノミー

まずは各国の事例について安居氏・中石氏から説明された。なお、ここでは概要のみ紹介する。

欧州連合(EU)

まずは欧州連合(EU)から。EUは、経済政策としてサーキュラーエコノミーを組み込んでいると安居氏は説明。さらに、その取り組みは一過性のものではなく、2050年を見据えた長期戦略となっている。インセンティブや規制が産業を成長させると認識され、戦略的に進められているのだ。

一方、安居氏が住むオランダのように、「Learning by Doing(やりながら学ぶ)」を通じて、個々や企業・自治体の取り組みをEUに上げていくボトムアップの仕組みもできていることが特徴だという

中石氏も、EUの政策は、あらゆる産業にサーキュラーエコノミーの原則を適用していく方向に向かっていると分析している。

中国

中国も2009年に公布・実施された「循環型経済促進法」のもと、サーキュラーエコノミー施策に邁進する。2013年の「循環経済発展戦略および短期行動計画」でサーキュラーエコノミー移行への具体的計画を定めた。さらに、2018年7月に欧州連合とサーキュラーエコノミーの共同声明を発表、サーキュラーエコノミーを軸とした連携強化を図る。

その他

インドもEUと連携してサーキュラーエコノミーを前面に出している。インドネシアは、デンマークや国連開発計画と連携して国家戦略としてサーキュラーエコノミー政策を進める。シンガポールやマレーシア、台湾や韓国も同様にサーキュラーエコノミー戦略を実践している。

アメリカはどちらかというと、州や企業レベルでの取り組みが進んでいるという。国家レベルでは、大統領選挙がその行方を握る。(注:2020年11月の米大統領選で、バイデン候補が当選を確実なものとしたため、この路線は確実のものとなるが各施策の実現可能性に注目される)

最後に、日本は公害対策として環境政策が進められてきた歴史がある。2000年に交付された「循環型社会形成推進基本法」のもと、3Rで先陣を切ってきた。2020年5月に「循環経済ビジョン」を掲げた政府。「経済戦略としての循環型経済」と捉え始めている。

以上のように、多くの国で、サーキュラーエコノミーが国際的競争力の強化に向けた政策として位置づけられている。


会場を一歩出ると、白馬村岩岳の山頂レストラン「レストランスカイアーク」がある

2.【企業事例】スタートアップだけではない。グローバル企業も取り組みが加速

多くの国でサーキュラーエコノミー施策が動き出している。民間から、サーキュラーエコノミーは「あくまでも理想論ではないか」という声も上がる。確かに、リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへの転換には、生産者から消費者まで大きなパラダイムシフトが要求されるため、困難な作業が伴うだろう。しかし、安居氏は、サーキュラーエコノミーへの移行ができつつある企業が出てきているとして、下記海外の先行事例を示した。

MUD JEANS

ジーンズのサブスクリプション。素材の40%は使用済みコットンから調達している。残りの60%は新しい原材料が使われているが、今後はこの60%の割合を減らしていく。彼らのプロジェクト『Road to 100%』では、 廃棄される使用済みジーンズから繊維をとって、再生コットンとして使うことを進めている。

MUD JEANS INTERNATIONAL B.V. C.O.OのDion Vijgeboom 氏もオランダからオンラインで登場

Fairphone

分解性と修理性、アップグレード性を高めたモジュラー型スマートフォン。消費者が簡単に修理やアップグレードができる。新たに使う資源量を抑えながら、利益も確保する。

DeCeuvel

造船場の跡地で土壌汚染があった場所を「サーキュラーエコノミー実験区」として、毒素を抜く植物を計画的に植えていく方法により再生。DeCeuvelに入居するスタートアップからの賃貸収入が収益源だ。入居する企業も、クリーンエネルギー開発、藻類からつくるバーガーなどサーキュラー型企業が揃っている。

Instock

廃棄食材から美味しい料理を作り、お手頃な価格で提供するオランダのレストラン。

Ecosia

検索すればするほど植林活動に寄付する検索エンジン。

DGTL Amsterdam

世界初の「サーキュラーエコノミー音楽フェスティバル」。フェスティバル自体のマテリアルフロー(資源のフロー)を可視化し、循環性向上に向けたデータの収集・分析をする。上述したInstockの廃棄食材や、PETボトルのリサイクル工程がわかるコーナーを設けたりと、サーキュラーエコノミーを目指したイベントとして知られている。

Fairfood

ブロックチェーンの仕組みを活用したQRコードを使い、コーヒーやココナッツ、トマトやバニラなどを、生産から小売流通の段階まで追跡できるサービス。これにより、農薬の利用や生産者の労働環境などの情報・サプライチェーン・配送業者情報など、透明性のある情報にアクセスすることができる。サーキュラーエコノミーを側面から支援するサービスだ。

先行事例として取り組みが活発なのは新興企業ばかりではない。グローバル企業も動き出している。安居氏は下記の一例を挙げた。

  • フィリップス :サーキュラーエコノミー事業だけで全体収益の約15%を獲得済み
  • ユニリーバ:サステナブルなブランドの成長率が非サステナブルなブランドを上回っている
  • イケア:Sustainable life at home シリーズの売上が3年間で3倍の増加。エレン・マッカーサー財団とパートナーシップを組み、サーキュラーエコノミー9原則を採用。2030年までにビジネスモデルをサーキュラーエコノミーに転換。再販にも取り組み始めた。
                                   

中石氏もグローバル企業の例を紹介する。

ナイキ

サーキュラーデザイン10原則を軸に靴のデザインをする。

アディダス

プラスチックに焦点を当てた取り組み「END PLASTIC WASTE」。「リサイクルループ」「サーキュラーループ」「リジェネラティブループ」を軸に製品を設計。

ハーマンミラー

多くの製品でC2C認証(Cradle to Cradle認証)を取得。代表的製品「アーロンチェア」は91%が再生可能。

グーグル

A Circular Googleという戦略を掲げ、データセンター・ワークプレイス・消費財におけるサーキュラーエコノミーへの移行や、他企業のサーキュラー化のサポートなど、サーキュラーエコノミーの動きを牽引する。

アップル

「地球から奪わずに製品を作る」ことを掲げる。アルミニウム・コバルト・銅、ガラス・金・リチウム・紙・プラスチック・希土類元素・鋼鉄・タンタル・スズ・タングステン・亜鉛を再生またはリサイクル可能にすることにまずは注力。1時間に200台のiPhoneを分解するロボット「Daisy」の導入。

アマゾン

2040年までに温室効果ガス排出ゼロにする目標を掲げる。再生品のマーケットプライスも展開。

マイクロソフト

2030年までにカーボンネガディブや廃棄物ゼロを打ち出し、電子廃棄物のリサイクルに取り組む。

ミツカン

野菜全ての素材を使うZENBを使ってブランディングに取り組む。エレン・マッカーサー財団や京都市とも協働する。

その他にもデッソインターフェイスサーキュラー都市を目指す世界の各自治体の例が紹介された。

3. PaaSモデルとは?

さらに、中石氏も注目するPaaS(製品のサービス化/サービスとしての製品)モデルは、従来の売り切りモデルではなく、製品の所有権を消費者からメーカー側に移行させて、モノが持っているサービス自体を提供するというもの。サービサイジングという呼称でも知られている。リースやレンタル、サブスクリプションに代表されるモデルだ。

製品の所有権をメーカー側が保有することで、長く持たせた方が利益になるというインセンティブを働かせる。資源利用を抑えるとともに、製品が循環されやすくする

従来のサブスクリプションと違うのは、製品のサービス化を土台として、サーキュラーエコノミーの観点を加えていることだ。ゴールは、資源利用を抑えて環境負荷を低減させることにある。

顧客にとっても、「初期投資の抑制」「データの提供を受けるなどの追加価値」「好きな時に利用を停止できる」などのメリットを享受できることになる。

中石氏より、代表的事例として下記が挙げられた。

シグニファイ(旧フィリップスライティング)

ライト自体を販売するのではなく、ライトの所有権を保持したまま、「灯り」というサービスを売る「LaaS(ライト・アズ・ア・サービス)」を展開。耐久性の高い製品をつくることがインセンティブになっている。

ミシュラン

タイヤ自体を売るのでなく、トラックの走行距離に応じて課金する。磨耗したタイヤを100%回収し、リトレッドタイヤとして再生品化、新たな顧客に提供する。これにより、同サービスにおける廃タイヤ活用率は90%以上を実現した。

バンドルズ

洗濯機のPaaSモデル。洗濯機を販売するのではなく、月額で課金する。顧客には、利用から得たデータより、環境に優しい洗濯機の使い方をアドバイス。

ダイキン

タンザニアでエアコンをサブスクリプションモデルで安価に提供。また、子会社ダイキンエアテクノ株式会社は、三井物産株式会社と共同でエアアズアサービス株式会社を立ち上げた。業務用空調設備を同社が所有・管理し、サブスクリプションモデルで空調の持つ機能を販売。

上記はほんの一例である。いずれも単純な継続課金モデルの導入ではなく、環境負荷をどう減らしていくかという観点が入っている。

なお、PaaSについては、こちらでも詳細を解説している。

懇親会会場 スノーピークLAND STATION HAKUBA(提供:GREEN WORK HAKUBA プロジェクト事務局)

4. 日本が海外から学べることと、海外に発信できること

日本はオランダを始めとする海外から何を学ぶべきか。オランダに住む安居氏から、例えば「大量生産・大量廃棄」モデルからノウハウや知見による知的財産をベースとしたビジネスへ転換することや、100%でなくても市場に投入して改善していく「Learning by doing(やりながら学ぶ)」などが挙げられた。

では、オランダが「進んでいる」かというと、必ずしもそうとも言い切れないというのが、安居氏の見方だ。

日本からも発信できることは多くある。その一つが「伝統」である。例えば、発酵文化、宮大工の技法、江戸時代の循環型社会など、伝統がサーキュラーエコノミーに貢献できることが多いはずだ、と話す。さらに、3Rで培ったリターナブル・リユース・リサイクルの仕組みに加えて、徳島県上勝町や北海道下川町などの地域でサーキュラー型取り組みを行う地方の事例も海外に届けることができるという。

いずれにしても、「進んでいる」「進んでいない」という感覚的な比較ではなく、お互いの学び合いを通じてより良いモデルを築いていくということであろう。

連載③「サーキュラーエコノミーの実践編」へ

連載②では、サーキュラーエコノミーの各国や企業事例を見てきた。さまざまなモデルがあるが、では自組織でどのようなモデルが最適なのか。連載③では、「サーキュラーエコノミーの実践編」をお届けする。

連載③ サーキュラーエコノミーの実践編へ

これまでのレポート

【参考ページ】GREEN WORK HAKUBA
【関連記事】インドネシア、デンマークと連携してサーキュラーエコノミーイニシアチブを創設へ
【参考ページ】CIRCULARITY(ナイキ)
【参考ページ】END PLASTIC WASTE(アディダス)
【参考ページ】
What is Cradle to Cradle Certified™?(Cradle to Cradle Products Innovation Institute)
【参考ページ】A Circular Google (グーグル)
【関連記事】
マイクロソフト、2030年までに「廃棄物ゼロ」を実現へ
【関連記事】京都市、エレン・マッカーサー財団のフード・イニシアティブへの加盟を発表。食の循環に向けた取り組みを加速
【関連記事】サーキュラーエコノミーを加速させるビジネスモデル「PaaS(製品のサービス化)」とは?