2024年11月に韓国・釜山で開かれるプラスチックの環境汚染規制に関する国際条約策定を議論する5回目の政府間会合(INC-5)を控えて、国際環境NGOグリーンピース・ジャパン(東京都港区)と持続可能な都市と地域をめざす自治体協議会のイクレイ日本(同)はこのほど、第2回国際プラスチック条約シンポジウムを開催。同条約の採択会議前最後の会合とみられるINC-5に向けた交渉の現状とともに、パリ協定による国際的な温室効果ガス削減につなげるためのいわゆる「1.5度目標」と整合する国際的なプラスチック規制のあり方について、日本政府のプラスチック条約交渉官やプラ削減事業を行う民間企業と自治体などの産官学民のステークホルダーが、プラスチックをめぐる課題解決への視点を提示、議論した。

ライフサイクルでのプラ生産・使用抑制に必要なポリシーミックスとは?

まず、国立環境研究所・資源循環社会システム研究室の田崎智宏室長が「上流から下流まで、ライフサイクルでプラスチック汚染を減らすためには」と題して講演。田崎室長によると、日本から流出している海洋プラスチックは2〜6万トンで、プラ廃棄物全体の0.5%を占めるにとどまる。一方で、プラスチックの資源利用量は30年前には今の半分だったが、現在では日本を含むプラ使用量上位10カ国で物質資源フットプリントの65%を消費してしまっているとして、政府や企業に対して下流のプラ汚染と上流の資源調達・循環についての課題をそれぞれ分けて対策を検討するポリシーミックス型の対応の必要性に言及した。

国環研・田崎智宏室長

田崎室長は、下流のプラ汚染抑制と上流での資源調達・循環というライフサイクルでのプラ生産・使用抑制に必要とされる取り組みについて「メディアはプラ製品の回収や生分解素材への代替、クリーンアップ活動を報じがちだが、効力としては弱い。また、リサイクルを進めるには今まで以上に収集を強化しなければならない。(プラスチックの絶対量を減らす)リデュースが最も良い」と指摘。その上で、企業にとって有効なプラスチック対策の優先順位として▼リデュース・リユース▼リサイクルと回収強化とクリーンナップ活動に一体的に取り組む▼バイオ起源プラの利用▼本物の生分解性プラの利用――という順番で取り組むべきだとした。とりわけ、素材の選定時にはプラスチック素材と代替素材との両方について環境負荷と供給可能性の上限を考えた上で決定、実施してほしいなどと呼びかけた。

 

グリーンピース・ジャパン 小池氏

続いて、グリーンピース・ジャパンのシニア政策渉外担当・小池宏隆氏より国際条約策定に向けた交渉の現状についての説明があった。小池氏によると、INC-5までの会期間作業として懸念される化学物質や製品設計等の基準、資金・技術支援等の実施手段についての交渉が継続されているが、目立った進展はなく、2025年中に予定されている最終的な条約採択のための外交会議の開催場所が決まっていない状態だという。

世界のプラスチック生産量はこのままだと2050年に340億トンに達すると見込まれる一方、現状では世界で10%しかリサイクルされていない。小池氏は「すでに世界ではポリマーの供給が過剰で、需要が鈍化しているので、価格低下を起こしている。これでは再生材や代替材の競争力が上がらない。(生産制限に否定的な)日本政府の姿勢は、脱炭素競争をしている企業のためにならないのではないか」などと批判した。さらに「プラスチックは生産の段階でGHGの90%を排出してしまうので、われわれは生産制限を主張している、ポリマー生産者にとっても、製品メーカーにとっても必要なことだ」とした上で、「直ちに禁止せよとは言っていない。プラスチックは、医療など必要な領域で安くなった再生材や代替材を使えるようにすることが大切だ」などと訴えた。

国際条約には「生産と使用の削減」「リサイクル」「流出予防と回復」の盛り込みを

後半は「現状のプラ関連施策と進むべき方向」と題してパネルディスカッションが行われた。

プラスチック国際条約の位置づけと交渉の見通しについて、環境省海洋環境課プラスチック汚染国際交渉チーム長の小林豪氏は「特に途上国は、廃棄物管理を課題に感じている。生産制限については、スタート時点でどこまで盛り込めるか難しい調整が続いている。プラスチックに使用される化学物質については、本条約で位置付けるのか、別の化学物質管理に関わる条約で位置付けるか決まっていない。(中略)プラスチック国際条約はあくまでスタート。解決に向けては、各国で共有可能なデータも必要だ」などと述べた。

民間企業の立場で登壇した、リユースプラットフォームLOOPを展開するテラサイクル・ジャパン代表のエリック・カワバタ氏は「廃棄物の問題解決には、ワンウェイをなくしてリユースすることが大切。プラスチック国際条約には、生産と使用の削減とリサイクル、流出予防と回復という3つの点が盛り込まれないと機能しない」として、民間任せにせずに国際条約の枠組みでの解決の必要性に言及した。プラスチック若者会議メンバーの松倉杏奈氏は、同条約策定に向けて将来世代の声を届ける活動を通じて作成した5つの提言として、▼リデュース最優先で、リユースとリサイクルは最大化。容器包装税の導入を▼企業にプラ削減目標の義務付け、リユース品購入によるポイント付与策▼世界規模で状況を把握するためのステークホルダーの責任の明確化を各国政府に要請▼ウェイストピッカーへの包括的支援や条約の監督機関を設けてのモニタリングの制度化▼若者を含めた議論への参画と、中小企業の脱プラに向けたヒアリングの実施――を打ち出した。

パネルディスカッション「現状のプラ関連施策と進むべき方向」の様子

続いて行われたパネルディスカッション「企業と自治体が求めるソリューション 現場の動き」では、プラスチックに関する企業情報開示や自治体、民間企業の協働によるプラスチック利用削減やリサイクルの取り組みが紹介された。

国際プラスチック条約の策定が現場に及ぼす影響については、「多国間なので大きな枠組みになると思うが、施策に落とし込む際には日本独自の基準を作らないでほしい。国際基準を日本が作るぐらいの姿勢を」(カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト(CDP) アソシエイトディレクター・榎堀都氏)、「プラ削減は大都市から進めていきたい。現場に合った制度がつくられることに期待する」(東京都資源循環計画担当課長・荒井和誠氏)、「質の高い再生材の供給を増やすことが急務。動静脈連携における廃棄物循環は日本の強み。世界にもさらに発信してほしい」(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)・中村健太郎事務局主幹)といった声が聞かれた。

パネルディスカッション「企業と自治体が求めるソリューション 現場の動き」の様子

国際プラスチック条約をめぐる交渉では、増加の一途をたどるプラスチック生産量を規制するかどうかが争点となっており、産油国などと、EUやアフリカ諸国などとの間で対立が続いている。しかしここに来て、米政府が生産抑制や懸念される化学物質規制を盛り込んだ形での条約策定に賛同する立場を示すなど、交渉合意に向けて潮目が変化する可能性も出てきている。

11月末に予定されているINC-5で仮に何らかの生産規制につながる合意がなされた場合、今後の私たちの経済活動と暮らしにおけるプラスチック利用のあり方を変える可能性を秘めているため、交渉の動向を注視していく必要があろう。

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