建築業界にいた筆者が「Regenerative(リジェネラティブ)」という言葉を知ったのは2021年。Regenerativeは「再生させる」という意味で、当時勤めていた英国系のコンサルティング企業で“サステナブル(持続可能)を上回る概念”として話題に上った。
従来の経済活動は、地球環境に損失を与えてきた“サステナブル”は、その負荷をできる限り減らし、ゼロに近づけるというもの。これに対して“リジェネラティブ”は、プラスの影響をもたらすことを目指す。これまで損失を受けてきた地球環境や生態系をそのまま持続させるのではなく、回復させるべきだとする考え方だ。
具体的には何を回復させるのか。地球環境の限界を示す「プラネタリー・バウンダリー」について、2023年に研究者らは9指標のうち6つがすでに限界を超えていると発表した。限界を超えたとされる6つは、1)気候変動、2)生物圏の一体性、3)生物地球化学的循環、4)新規化学物質、5)土地利用の変化、6)淡水利用(番号は筆者が便宜上付与)。これらの問題が今まさに地球のバランスを崩し、人類の生活をも脅かしている。
一方で、リジェネラティブな建築・都市とは何か、と問われたとき、筆者の知る限り明確な指標はまだない。建築や都市のサステナビリティを計る指標は数あるが、「リジェネラティブ」との境界線は定かではない。今のところ、特定のプロジェクトを指して「リジェネラティブ」と呼ぶことはグリーンウォッシュの危険性もはらんでいる。
それでは建築業界はどのように「リジェネラティブ」に取り組めばよいのだろうか。筆者の住む英国での議論と取り組みを紹介し、考えてみたい。
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山口 真矢子
山口真矢子(やまぐち まやこ)。英国在住。一級建築士、Project Management Professional(PMP)。鉄道会社とエンジニアリング系コンサルティング会社で、建築工事・改修プロジェクトのマネジメント、建築や都市に関わる調査、事業コンセプトの立案などを経験。専門分野:建築工学、施設管理、プロジェクトマネジメント、建築・都市のサステナビリティ。