アパレル・ファッション業界が循環型へと移行する過程において、整備が進みつつある法規制やガイダンスの現状について前回の記事で概説した。持続可能な繊維産業、ファッションの実現に向けて制約条件が厳しくなりつつあるなか、企業には従来のビジネス慣行を見直すことが求められている。
新品製品の生産の削減、生産する場合は循環型素材の活用、完成品の価値を高く長く維持する選択肢の採用などが必要となり、それらの実現を目指すビジネスや、実現を支援するテクノロジーが国内外で生まれている。本記事では、従来のリニア型製品生産から脱却し循環型に向かうために必要な戦略、それらを実現するビジネスモデルを紹介する。
循環経済の3原則を実現するためのサーキュラーファッションデザイン戦略
そもそもサーキュラーファッションとはどのような状態を意味するのか、エレン・マッカーサー財団(EMF)が定義する循環経済の3原則に即して見ていく。
- 自然を再生する
- 製品と原材料を高い価値を保ったまま循環させる
- 廃棄や汚染を取り除く
この3原則は、システムダイアグラム(通称:バタフライダイアグラム)とともに見ると理解しやすい。
(説明の都合上、ここではバラフライダイアグラムの上部に黄色い点線、下部に赤い実線を追記してあるが、EMFによるダイアグラムには色の違いや点線・実線の違いは記されていない。)
1.自然を再生する
ダイアグラム上部の黄色い点線より上が、人間が活動する経済システムに対して投入される資源を意味する。再生可能資源と有限な資源があり、有限な資源を管理し、再生可能な資源フローの均衡を保つことで、自然資本を維持・拡大させることを意味する。
例えば、環境再生型農法で栽培された綿、麻、リネン、木材の使用や、非食用の農産物から繊維を作る製法などがこれに該当する。
2. 製品と原材料を高い価値を保ったまま循環させる
ダイアグラム上部の黄色い点線と赤字実線の間、蝶が羽根を広げた部分が、人間の経済システムを指す。ここに投入された資源を、その性質により、「生物サイクル」と「技術サイクル」のそれぞれの輪のなかで、極力高い価値を保ったままで長く循環させ続けることを意味する。
耐久性が長くなるように衣服を作ること、修繕やリメイクのサービス、衣服の手入れ方法を利用者に伝えること、着なくなった衣服を二次流通市場で販売することなどが例として挙げられる。
3. 廃棄や汚染を取り除く
経済システムに投入された資源は、極力長く循環の輪の中に留める必要があるが、循環しきれずダイアグラム下部の赤い実線より下に落ちてしまうものが廃棄や汚染ということになる。これを極力減らすことを意味する。
衣服の水平リサイクルや、デジタルウェアを活用することで衣服の生産そのものを減らしたり、過剰生産や売れ残りを防ぐオンデマンド生産や受注生産を行ったりすることなどが廃棄を防ぐ例として挙げられる。
バタフライダイアグラムについてはこちらの記事に詳細を解説しているので、あわせてご参考にして頂きたい。
この3原則を、アパレル・ファッション業界で実現していくための15の戦略が、EMF「Circular Design for Fashion」(2021年発行)の中で下記のように定義されている。
この記事は、Circular Economy Hub 会員専用記事となります。