運輸・交通業界は新型コロナウイルスの影響を最も受けた業界の一つで、今まさに深刻な状況にある。地域の交通機関からグローバルな物流に至るまで、人とモノの流れを妨げている。

実際、2020年の世界の貿易需要は13-32%減少する見通しで、貨物航空やその関連市場、サプライチェーンに大きな影響を及ぼしている。世界の主要都市では5月までの公共交通機関の利用が70-90%減少するとともに、車両の需要も大幅に減少した。その一方で、ロックダウン解除後はソーシャルディスタンスを確保でき、かつ健康的な交通手段として徒歩や自転車移動が広がった。

運輸業界には、将来を規定するいくつかの大きなトレンドがある。その一つは、ソーシャルディスタンス確保の観点からeコマースが増え、通勤が減少することなどから、運輸需要は半永久的に変化することが見込まれる。もう一つは、カーシェアリングの増加や車両のEV化、軽量化、自動運転といった傾向が今後も定着するということだ。いずれの傾向もコロナ禍以前から見られたものだが、今後の行方は新型コロナの流行や社会の対応状況に左右されるだろう。

サーキュラーエコノミーによるアプローチは、世界のモビリティ・交通システムが相互に接続し、健康的な環境をもたらせる機会となるだろう。とりわけ、マルチモーダルな交通システム、物理的インフラとデジタルインフラの組み合わせへの投資を通じて、気候変動対策の目標を満たせるクリーンで適用可能かつ相互接続できるレジリエントな交通システムを構築できる。また、新型コロナの流行で浮上した新たな課題に対応できるとともに、経済成長やSDGsへの貢献といった社会の要請にも応えられる。さらには、気候変動や生物多様性の消失など将来予想されるリスクを軽減させることもできる。

運輸・交通業界における新型コロナウイルスの流行を受けた2つの投資機会は以下の通り。(投資機会1.2は建築編をご参照)

3. マルチモーダルな交通システムへの投資

カーシェアリングの増加や車両のEV化、軽量化、自動運転、自転車等の能動的移動といったマルチモーダルシフトのトレンドは、新型コロナウイルスの影響が薄れれば、再び活発化するであろう。

マルチモーダルシフトは、資産の使用を増やし、交通システムを最大化することによって魅力的な経済的利益をもたらす。例えば、自転車やライドシェア、カーシェアリングといった異なる形式の交通手段同士のアクセス性をシステムレベルで向上させることによって、個人所有からシェア、公共交通機関の利用までシームレスな体験を提供できるようになる。

エレン・マッカーサー財団の調査では、欧州ではこうしたマルチモーダルシフトによって2050年までに家計負担を70%削減できる可能性があり、低所得層にとっての恩恵となる可能性が指摘されている。中国のような国で導入された場合、全走行距離の42%がシェアリング車両となる前提で、2030年には1.6兆米ドル相当の利益が見込まれる。

マルチモーダルシフトは、温室効果ガスの排出量を削減して気候変動対策の目標を達成するための重要な役割も果たす。EV化によって排気ガスからの排出量を削減することとともに、車両生産時の排出量の削減も見落とされがちだが完全な脱炭素化に向けては重要だ。このままだと、2040年までに車両製造の排出量がライフサイクルの60%を占めるまでになってしまう。乗用車を中心としたマルチモーダルのシェアリングとともに、耐久性とリサイクル性を兼ね備えたデザインを推進することによって、世界のCO2排出量を2040年に70%(4億トン)削減できる。

マルチモーダルシフトが徒歩や自転車移動と組み合わさることで、経済を刺激し、大気汚染を抑えることができる。マルチモーダルシフトを支えるインフラへの投資は、自転車レーンや駐輪場の創設などによって自転車利用を促し、人々がより活発に動くことにつながる。中国ではロックダウン後に自転車シェアが150%と急激に増加し、欧州ではすでに自転車や徒歩を奨励するスキームの構築や投資が始まっている。

新型コロナウイルス流行が乗用車販売に負の影響をもたらす反面、EVの人気が高まっている。国際エネルギー機関(IEA)によると、世界のEV車両数は今年約1000万台に達することが見込まれる。気候変動や大気汚染の改善への対応で引き続きEVの市場の拡大が見込まれることもあり、2040年までに世界で販売される乗用車の31%がEVとなりそうだ。中国はEV販売を強化しているほか、多くの欧州諸国ではEV車の購入を促進するインセンティブや税控除が行われている。さらに、EV化の推進に向けて充電ステーションの整備や旧型車に携わる雇用を新たな分野にシフトさせることなどに官民共同で取り組める「グリーンカーニューディール」のような枠組みづくりの必要性を提案する向きもある。

新型コロナウイルス流行前のカーシェアリングの成長はコロナ禍が終われば回復し、モビリティの未来はよりコスト効率が良く、アクセスしやすいものになる。世界のカーシェアリング市場は2019年の時点で25億米ドル相当で、2020-26年にかけては年率24%の成長が見込まれている。ボストン コンサルティング グループの調査では、新型コロナ以前からカーシェアリングを活発に利用してきた層の67-78%は、コロナ禍が終われば引き続き各種のモビリティシェアリングを利用すると回答している。中国のように、国と地方自治体でカーシェアリングを推進する施策を講じている国もある。今後発表される予定のEUのスマートモビリティに関する包括的戦略は、交通システムの中でカーシェアリングのようなPaaS(製品のサービス化)を促進することで、サーキュラーエコノミー推進とのシナジーを利かせようとしている。

マルチモーダルシフトの推進には、あらゆる移動手段を統合させ、利用者が選択できるようにするためのデジタル化への投資が必要だ。デジタルユーザーへのアプリ開発によって、より効率よく、かつ渋滞を避ける形での交通利用が可能になるだろう。また、物理的な接触を減らしたり、電子決済を進めたりすることなどを通じて、コロナ禍後も続くであろうデリバリーを含めたeコマースをさらに進化させることにも貢献できる。

4. 車両の修理、再生産、リサイクルインフラの整備

付加価値の高い部品や資源を循環させるとともに、車両の修理、再製造、リサイクルインフラの整備に対して投資すれば、新型コロナウイルスの影響からのレジリエントな復興を促すだけでなく、地球規模の環境課題の解決に貢献できる。

車両の修理、再製造、リサイクルインフラの整備に対しては、一層の投資余地がある。シェアリングなどのサービスモデル向けの車両の耐久性とリサイクル性を高めることで、利益を最大化できる。こうした投資は、部品の最終的な処分市場の構築とも並行して進められるべきだ。

車両を修理、再生産、リサイクルできるようにデザインすることは、経済成長や雇用創出につながる可能性がある。コロナ後のカーシェアリングの再成長に備える意味でも重要だ。

リサイクル部品はコストが安いだけでなく、一次資源の使用量を抑えられる。米国ではすでに、連邦政府が使用するすべての車両でリサイクル部品の使用を奨励する法令を2015年に公布している。部品の再生は技能労働者を120%増やすことにつながり、再生市場全体から見ても、雇用関連費用が増えても生産コストが減少することで、全体として総利益の50%アップが見込める。

車両の再生産は、環境への利益だけでなくレジリエンスの向上にもつながる。仏ルノーは、車両の85%をリサイクル可能で、95%を修復できる一方、エンジンの43%を再製造できるようデザインできるとしている。車両の再製造を行うことで、エネルギーと水、化学物質の使用を80%削減できるという。これにより、利用者は30-50%低価格で車両を購入できる。さらに、修理やリサイクルを地域で行うことでサプライチェーンを短縮できるようにもなる。

高付加価値の素材を循環させるリサイクル施設の開設に対しても投資余地がある。高付加価値素材のリサイクルを推進する施策は広がっており、例えばEUでは車両1台当たり年間で95%のリサイクル率を目指すことを指令で義務づけるとともに、リサイクル素材の使用が義務化されたり、リサイクル効率の向上も求められたりしている。

EV化が進む中にあって、車両の修理、再製造、リサイクルインフラ整備への投資は、EVや電池の再使用や長寿命化にもつながる。例えば、機能低下で車両の充電用としては使用できない電池は、モバイル機器や文具等での電池としてさらに約10年間使用できる。電池のリサイクル率は現在約50%だが、フィンランドのフォータム社などの技術で約80%にまで向上した。こうした傾向が定着すれば、新しい電池の需要は25%減ることになる。EUの循環型経済行動計画でも、電池のリサイクルなどに関する新たな規制の枠組みを示すことを目指している。

【参照レポート】Mobility Two circular investment opportunities towards a low-carbon and prosperous future
【参照記事】How COVID-19 Will Shape Urban Mobility
【参照】S.565 – Federal Vehicle Repair Cost Savings Act of 2015

これまでのレポート

【建設編】新型コロナウイルス禍からの回復に向けた重点投資ポイント−建物のリノベーション促進、建築資材のリサイクル基盤整備を−(重点投資ポイント1.2)