あらゆるものがサービス化されるXaaS(X as a Service)の発展が目覚ましい。Circular Economy Hubでは、XaaSのなかでもPaaS(Product as a Service/製品のサービス化)、さらにその先に循環性向上を見据える循環型PaaSの真価を問う特集をお届けしている。

第4回となる今回は、ファッションのレンタルサービスを展開する株式会社エアークローゼットを取材した。同社が展開するサービスの中でも、オンラインでのファッションレンタルサービス「airCloset」は、従来型のアパレル製品のレンタルを超え、プロのスタイリストによるスタイリングと共に衣服を貸し出し、さらにはデータに基づいたスタイリストと顧客とのマッチング、在庫適正化、返却数の推定など、ITを活用して衣服の循環性を高めるサービスである。今回編集部では、同社代表取締役社長兼CEOの天沼聰さんに同サービスについて循環性向上の観点からお話を伺った。

株式会社エアークローゼット代表取締役社長兼CEO 天沼聰さん

ファッションレンタルサービス、airClosetについて。どんなサービスか?

300を超えるブランドから提供されるお洋服をエアークローゼットが買い上げ、その中から利用者の好みやサイズなどを考慮してスタイリストがコーディネートしたお洋服を貸し出しています。お客様は1度に3着または5着のお洋服を借り、期限なく楽しんだ後はそのまま返却(クリーニング不要)、あるいは気に入った場合は買い取っていただくこともできます。(会員の半数以上がレンタル後に購入した経験あり)提供するお洋服のジャンルは、オフィスカジュアルを中心とした普段着に特化しており、2021年10月時点での会員数は約60万人になっています。

利用者は1度に3着または5着の衣服を無期限で借りることができる (写真提供 : 株式会社エアークローゼット)

アパレルのレンタルサービスを始めたきっかけは?

毎日のお洋服選びに時間をかけにくい、ファッションと出会う機会を持ちにくい忙しい女性が、日々の生活リズムを無理して変えることなく、ファッションと出会う機会を提供したいと考えたのが発端です。

従来型の消費行動では、お洋服を買う際には、現在のトレンドを把握し、店舗に出向き、さらに別の店舗に移動しながら自分に似合うお洋服を探すという時間をかける必要がありましたが、ECでは移動が不要になります。また、スタイリングサービスでは、トレンドの把握やその人に似合うお洋服選びをスタイリストが行うため、お客様はお洋服を選ぶ時間を大幅に短縮することができるようになりました。30代から40代の女性の利用が多く、9割以上が働いており、子どもを持つ人も半数近い構成になっています。

顧客にとっての価値は?

上記で触れたお洋服選びの時間短縮というメリット以外にも、お客様自身では選ばないようなお洋服をスタイリストが選ぶことにより、新しい自分の発見につながるという価値の提供につながっています。自らは選んだことのなかった赤いスカートをスタイリストが選択し、身に着けてみるとお客様ご自身も予想外に満足したり、他の人から褒められることが多かったり、というフィードバックも多く寄せられており、「私に似合うのはこんなスタイル」といった固定概念を刷新する効果を生んでいます。

スタイリストによる人間ならではのサービスと、AIとの部分的協業

お洋服のスタイリングはすべてスタイリストが行っていますが、部分的にAIによるサポートを行っています。例えば、お届け先地域の天候や気温情報をスタイリストに提供したり、過去に貸し出したお洋服を今後の貸し出しの選択肢から除外したりする部分です。

全在庫量は数十万着にのぼり、そのなかから自己診断でお客様に合ったお洋服がある程度絞られます。絞られたジャンルに該当するお洋服の中からスタイリストがコーディネートするという流れでお客様にお洋服をお届けしています。お客様には、登録時に顔や全身の写真の登録をお願いしていますが、これは「似合う」スタイリングを提供する際に欠かせない情報だからです。AIは、お客様の画像の顔から肩にかけての領域を切り出し、独自の機械学習により、顔から特徴を抽出します。これにより、お客様に似合うお洋服の雰囲気をベクトルとして捉えることが可能となり、徐々にその精度を上げている段階です。今後、実際にスタイリングをサポートするAIとして活用していく予定です。

スタイリストとお客様とのマッチング

スタイリングの精度を上げていくにあたり大切な要素に、スタイリストの得意分野と、お客様の好みのテイストという2つの点が挙げられます。airClosetでは、この2点をつなげるための独自のマッチングシステムを考案してきました。お届けしたお洋服に対して、お客様からの「4段階のレーティング + 定性コメント」のフィードバックを頂いているのですが、そのお客様の過去のフィードバックをもとに、他のお客様のフィードバックとの類似度から、好みの近いお客様同士を算出する協調フィルタリングという方法を用いたマッチングの仕組みです。

スタイリストがお客様に対してコーディネートしたお洋服をお届けする際、なぜこのお洋服を選んだのかというコミュニケーションも行っています。これは人間ならではの情緒的価値を提供する部分と考えています。ちなみにairClosetでは、クラウドソーシングを活用して契約している300名を超えるスタイリストが在籍しており、彼ら・彼女らが場所や時間を問わずスキルをシェアするという形でパーソナルスタイリングの提供を行っています。

利用者からのフィードバックは次回のスタイリングに活用される(写真提供 : 株式会社エアークローゼット)

在庫最適化のためのソリューション

airClosetでは、お客様に豊富なバリエーションのお洋服を届けるため、シーズンごとに多くのお洋服を調達しています。お洋服にはトレンドがあるため、大量に仕入れるとあまり着用されないまま処分されることになり、事業として、またサステナビリティの観点でも適切ではなくなってしまいます。そのため必要在庫数の算出を適切に行うことが重要になりますが、airClosetにおける必要在庫数の算出には、独自の特徴かつ予測が難しい要素があります。調達のタイミング、豊富なバリエーションを担保すること、返却期限なしのレンタルというサービスの特性により、お客様の利用日数が予測できない点などです。これらを解決するための「在庫最適化シミュレーション」を独自に立て、一定期間ごとにシミュレーションと実績値に乖離がないかレビューし、乖離があればシミュレーションを修正するというプロセスを繰り返して、在庫の適正化を図っています。

返却数の予測

お客様に貸し出されたお洋服は、返却された後に検品・クリーニング・メンテナンスというプロセスを経て再び在庫となりますが、このフローを無駄なく遅滞なく進めることが循環性を高める鍵となります。ただし、返却期限が決まっていないレンタルサービスという特性上、いつ何着返却されるかを予測することができないため、これを解決するための「返却数推定モデル」を立ち上げました。利用者数・過去の出荷数・季節・曜日など複数の要素から算出された推定返却数に基づき、最適化された人員でクリーニングや出荷作業を行うことが可能になり、返却の遅延や余剰人員など課題の解決に至っています。

レンタルサービスがブランドにもたらす新しい価値

サービス開始当初は、レンタルサービスを行うとお洋服が売れなくなるのでは、という心配の声がブランド様から寄せられたこともありました。ただ、ブランド様は、お客様にお洋服を試着してもらいたいという要望を強く持っておられます。airClosetの利用者数が成長するにつれ、レンタルサービスが試着の絶好の機会になるという実績ができ、結果、お洋服を貸し出すことはブランド様にも好意的に受け入れられるようになりました。リアル店舗では、試着されたお洋服が購入されるコンバージョンレートは高いものの、試着までのハードルが高く、お客様にいかに試着していただくか、いう点は大きな課題となっていたのです。

airCloset でお届けするお洋服はお客様にとって新しいブランドとの出会いになり、ブランド様側から見ても新しいお客様との出会いになります。レンタルサービスでお洋服を着ていただくことは、ブランド様にとっての高いプロモーション効果を生むという実績ができたと考えています。

レンタルサービスは試着の絶好の機会になっている(写真提供 : 株式会社エアークローゼット)

1着の衣服の寿命を延ばすために

「お洋服のレンタルサービス」というビジネス全体を見たときの、新品のお洋服を生産することと比較した環境負荷の差異については明確な答えは出せていないのが正直なところですが、新品のお洋服を生産することから発生する環境負荷は圧倒的に高いのは確かです。新品のお洋服の半数が廃棄されるという現状において、airClosetでは1着のお洋服が着られる機会を増やすことに重きをおいてサービスを展開しています。

お洋服の素材によって耐久性が異なるため、レンタル品としての寿命には個体差があるのが現状です。返却されてきたお洋服は、3回人の目を介して検品し、傷み具合などの品質を確認しています。また、トレンドに合うか合わないかという観点では、スタイリストがそのお洋服を選ばなくなってくるとトレンドから外れたという評価になり、レンタル対象からも外すことになります。

クリーニングには外部の業者の協力も得ていますが、お洋服の寿命を左右するメンテナンスのノウハウは社内に蓄積していきたいと考えています。手入れ・修繕・洗い方・洗剤の選び方などのスキルを自社で持ち実践することにより、お洋服の寿命を延ばし、できるだけ1着のお洋服が多く着てもらえる状態につなげてきました。お洋服を提供するブランド様に対しても、お洋服の寿命を延ばすことにつながるようなフィードバックをお返ししています。

なお、レンタル品としての品質基準を満たさなくなったお洋服は、エコセールというお得な価格での販売と、提携先の二次流通(リユース)へ回すものがほとんどで、リサイクルに回るお洋服の数は少ないのが現状です。私たちは、まだ着用できるお洋服はそのまま「お洋服」として活躍できるよう努めることを大切にしています。

また、お客様の利用方法の特徴として、借りたものを非常に大切に使用されています。子どもが小さくてお洋服を汚しそうだから、という理由で利用を遠慮する声が寄せられたこともあるのですが、クリーニングの技術もしっかりしていますので、汚れることを心配せずにどんどんご利用いただきたいですね。

【編集後記】新たな価値を提供し続けるための、新たな挑戦

「ファッション業界はまだデータの利活用があまり活発に行われていないが、今後は業界で推進していきたい。お洋服は、1点のアイテムが作られるサプライチェーンが非常に広いという特徴があり、業界全体でのデジタルトランスフォーメーションという点ではこの部分が大きな課題となるだろう」と天沼さんは、今後業界全体で解決を目指す必要のある課題を挙げる。「物が動くサーキュラーエコノミーにおいて、物の存在自体を大切に考えることが、物の管理・メンテナンスや、お客様との間での物流などすべてを大切にすることにつながる」と会社が大切にする価値観についても語ってくれた。お客様がファッションと出会う機会という楽しみの提供と、1着の服が着られる機会を増やしアパレル廃棄量の削減を実現するairClosetのビジネスモデルは、ITの活用によるさらなる循環性向上の可能性が大いに期待でき、さらなる新しい価値を生み出していくに違いない。

【airClosetホームページ】https://www.air-closet.com/
【参考】airCloset Data Science Collection

これまでの循環型PaaS特集

【循環型PaaS特集#1】サーキュラーエコノミーを加速させるビジネスモデル「PaaS(製品のサービス化)」とは?

【循環型PaaS特集#2】サーキュラーエコノミーの鍵となるビジネスモデル「PaaS(製品のサービス化)」構築において、3つの前提と考えておくべき6つの観点

【循環型PaaS特集#3】ライフスタイル変革を後押し。家具家電のサブスクを提供するCLASのサーキュラーエコノミー