英国を拠点とし世界各地に展開するCirculorは、ブロックチェーン技術に基づくサプライチェーン上のトレーサビリティソリューションを提供している。現在同社は、EUで2026年から導入が義務付けられているバッテリーパスポートの開発プロジェクトに携っている。トレーサビリティを必要とする大手企業を顧客に持ち、2017年の創立以来急成長を続けるスタートアップである。

EUは、欧州グリーンディールの中核を成すサーキュラーエコノミー政策推進の一環として、デジタルプロダクトパスポート(以下DPP)の導入を決定しており、現在その法制化が進められている。そのなかで、新電池規則が扱うバッテリーパスポートは初のDPPとなる予定だ。バッテリーパスポートが他のデジタルプロダクトパスポートのモデルケースとなる可能性もあり、現在世界の関連業者の関心を集めている。

ここ欧州では来るべき規制への対応準備が始まりつつある。たとえば、ドイツ政府が中心となって自動車メーカーをはじめとする電池サプライチェーン上の事業者と共に立ち上げたコンソーシアムは、バッテリーパスポートを開発するプロジェクトだ。Circulorは、同コンソーシアムのメンバーとして、同社のブロックチェーン技術を提供し、バッテリーパスポート機能における既存の問題に取り組んでいる。また同社は、バッテリーパスポートに関わる技術基準や必要データの共有プラットフォームである世界電池同盟とも協力している。

今回編集部では、今欧州の関連業界から注目を集めているCirculorの最高経営責任者(CEO)Douglas Johnson‑Poensgen 氏に、同社が関わるバッテリーパスポートプロジェクトや技術、パスポートへの対応にあたり業界が抱く懸念ついて話を聞いた。

ブロックチェーン技術を未開分野へ適用

Q:Circulor設立の経緯について教えてください。
A:Johnson‑Poensgen 氏

当社は、ソフトウェアサービス会社として5年前にロンドンで創業しました。現在ではアジアではシンガポール、欧州ではベルリン、ダブリン、北米ではカリフォルニアに事務所を構えています。主な事業活動は、複雑なサプライチェーンにおけるトレーサビリティ・ソリューションの提供です。

現在世界の動向として、EUの新電池規則をはじめ、間もなく施行される米国のインフレ削減法(The Inflation Reduction Act)下でのEV税控除など、政府レベルにおいて、デジタルプロダクトパスポートの必要性が強調されています。重要鉱物は枯渇への懸念もあり、政治的な関心項目です。こうした背景からも、効率的な産業サプライチェーンを追跡し、デジタルプロダクトパスポートを開発する当社の事業は時を得ていると言えます。

私はこれまで自分のキャリアを通じ、技術を企業に実装してきました。2016年から2017年にかけては、Web3技術を現実の世界で適用することを考えていました。そこで、分散型台帳(DLT)を必要とするユースケースを模索しました。それは、大規模なデータセットを適用した機械学習が価値を創出するものです。なかでも特に、まだ組織間に存在しない見識に対して価値を創出することを考えました。

当社における最初の大口顧客は自動車大手ボルボでした。現在では、自動車メーカーとそのサプライチェーン、特に電池のサプライチェーンにおける顧客を多数抱えています。

Circulorが選ばれる理由

Q:貴社は世界経済フォーラムによる技術パイオニア賞を受賞されていますが、御社のトレーサビリティ技術の強みは何でしょうか?
A:Johnson‑Poensgen 氏

技術パイオニア賞を受賞した理由としては、当社はほかの技術と並行して、ブロックチェーン技術をいち早く採用した企業の一つだったことがあります。そして、複雑なサプライチェーンにおいて、大きな信頼を勝ち得たことだと思います。これまでのブロックチェーン技術の適用については、主に仮想通貨、分散型金融(Defi)、非代替性トークン(NFT)などで議論されてきました。

そのなかで当社は、「華やかさ」には欠けても、より重要で潜在性の高いユースケースを選択しました。一般的にサプライチェーンは不透明です。ほとんど製造業者は、サプライチェーンの上流部門で起きていることを把握していません。世界のカーボン排出量の50%以上は、8つのサプライチェーンに由来しており、このなかには、自動車・建設業・食品・テキスタイル・航空業界などのサプライチェーンも含まれています。問題は、これらのサプライチェーンでは、原料は複雑にあらゆる方向へ移動することです。入口と出口が同じとは限らない。サプライチェーンにおける透明性は非常に低く、お互いの信頼関係も限られていました。また、サプライチェーン上の不正行為は古くからはびこる問題です。

そこで、より高い信頼性を築くと同時に、複雑なサプライチェーンで実際何が起こっているのかを共有するという考えをこの5年間実行してきました。今では自動車メーカーと共に規模の拡大を実現しています。

当社が技術のパイオニアと言われるのは、ブロックチェーン技術とデータベースを組み合わせて、「特定の問題」を解決するにあたり機械学習を行うということにあると思います。ここでいう問題とは、この原料はどこからきたのか、児童労働や森林破壊などサプライチェーン上の懸念はないのか、炭素排出を誰がいつ扱ったかに基づきどのように物理的原料へ紐付けることができるのか、などです。こうした考えを初めて実現したのが当社なのです。

バッテリーパスポート開発、既存の問題とは?

Q:貴社は、ドイツ政府が率いるバッテリーパスポートコンソーシアムへ参加されていますが、このプロジェクトの現状について教えてください。
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