化粧品・日用品大手の花王は、2018年に「私たちのプラスチック包装容器宣言」を出して、製品に使用するプラスチックの量を最小限に抑えると同時に、リサイクルを推進するというサーキュラーエコノミーを目指した取り組みを進めています。なぜプラスチック削減に焦点を当てた取り組みを進めるに至ったのか――。これまでの経緯と今後の取り組みの方向性について、ESG部門の部門推進・ESG広報担当部長・大谷純子さんと、ESG活動推進部 ESG活動マネジメントグループ担当部長・柴田学さんのお二人からお話を伺いました。

サステナブルからESG、SDGs

同社は1887年に創業、1890年に良質な高級国産化粧石鹸を提供しようと「花王石鹸」を発売しました。当時の化粧石鹸は輸入品がほとんどでしたが、高価であり、庶民にはなかなか手が届きにくいものでした。こうした状況下で創業して以来受け継がれてきた「よきモノづくりを通じて社会の役に立つ」ということを、現在では「花王ウェイ」という形で企業理念としています。

2009年には環境宣言を発表。日本企業の中では先んじて、製品のライフサイクル全体における環境負荷を低減させるという視点に立った取り組みでした。その後、「環境」とは切っても切り離せない「社会」の課題をビジネスで解決するという企業への社会的な要請の高まりに応えるため、2018年にESG委員会を創設。ESG部門も設置されました。

多くの企業では、事業を通じた環境問題と社会課題の解決を目指す意味で「サステナビリティ(持続可能性)」という言葉が使われます。しかし同社では、ESG(環境、社会、ガバナンス)を前面に出しています。その意図を、ESG部門の部門推進・ESG広報担当部長・大谷純子さんはこのように説明します。

「企業としてガバナンスをしっかりと効かせながら、環境や社会に対して具体的な取り組みを決め、それを経営として執行し、進捗を管理しながら実行をしていくことをお伝えできるよう、あえてESGという言葉を使っています」

2019年にはESG戦略「Kirei Lifestyle Plan(キレイライフスタイルプラン)」を策定。その際に意識したのが、お客様目線に立った戦略にすることでした。

「戦略は、大きくミー(Me)、ウィー(We)、プラネット(Planet)からなります。まずは、私の暮らしを快適にする。そして自分だけではなく、自分の周りのこころの豊かさ、思いやりのある社会につながるモノづくりをする。さらに、私どもの製品を選択していただくことが、地球環境にも配慮することにつながる――。こうしたことをお客さまにお伝えし、私どもの製品を習慣的にご利用いただくことが、サステナビリティを実現する上では大切なことだと考えています」

Kirei Lifestyle Planでは、19個の重点取り組みテーマを掲げています。プラスチックの削減と循環に向けた取り組みは、その一つである「ごみゼロ」に位置付けられています。

Kirei Lifestyle Plan −花王のESG 戦略− より

4つのRでプラスチックの削減と循環を追求

「ごみゼロ」というテーマの中でプラスチックの削減と循環を位置付けたのはなぜか。ESG活動推進部 ESG活動マネジメントグループ担当部長・柴田学さんは、その背景をこのように説明します。

「花王において、プラスチックはお客さまにKirei Lifestyleを送っていただくために必要な製品をお届けするのに不可欠なものです。プラスチックそのものが悪いというわけではありませんが、残念ながら昨今大きな社会問題になっています。日本では、家庭ごみのうちの60%が包装容器で、海洋プラスチックごみ問題にも発展しています」

「温室効果ガスの80%削減から脱炭素、ネットゼロ――。将来、社会が大きく変わり、石油の採掘可能量は減っていくでしょう。そうなれば、プラスチックの原料はどうなるのか。こうした課題意識から生まれたのが、私たちのプラスチック包装容器宣言です」

花王の「私たちのプラスチック包装容器宣言」では、従来の3R(Reduce、Reuse、Recycle)にReplace(プラスチック代替素材を考える)を加えた4Rの視点での取り組みが進んでいます。それぞれの取り組みは以下の通りです。

リデュース(Reduce)&リユース(Reuse)

製品の濃縮による容器の小型・軽量化や詰め替えの促進などを通じて削減した分に加えて、本品ボトルとして使用している1万6800トン分をさらに削減するため、詰め替え容器をそのまま差し込んで使用できるスマートホルダーを販売しています。

つめかえやすい「らくらくecoパック」をそのまま差し込んで使用できるスマートホルダー


英国発高級ブランド「モルトンブラウン」では、ハンドウォッシュの容器をガラス製に切り替えるとともに、つめかえ用も発売しました。

リサイクル(Recycle)

使い終えたものを再び資源に戻す「リサイクル」と、新たに価値を創造する「クリエーション」を合わせることで、従来のような同じモノに戻すのではなく、より楽しいモノ・よりよいモノを創り出す「RecyCreation(リサイクリエーション)」を行っています。具体的な取り組みのひとつとして、地域の方々やパートナー企業と協働し、洗剤やシャンプーなどの使用済みのつめかえパックを回収し、ブロックに加工して提供する活動を推進しています。

リサイクリエーション活動イメージ図

神奈川県鎌倉市で行われたリサイクリエーションワークショップの様子

リプレイス(Replace)

植物由来プラスチックやリサイクルプラスチック製の容器やフィルムへの利用を拡大するなど、製品づくりに使用する資源をバージン素材から再生素材へと転換しようとしています。


台湾では、「花王シャンプー」「花王ボディウォッシュ」「ビオレプライムボディ」「メンズビオレシャンプー」に100%リサイクルプラスチックを活用した容器を採用

さらに、新しいフィルム容器としてエアインフィルムボトルを独自開発し、米国で発売した新ブランド「MyKirei by KAO」(写真)で初めて採用しました。

プラスチックの使用量をつめかえパックと同程度まで減らせたのに加えて、米リサイクル大手テラサイクルの回収スキームを通じて回収・リサイクルされることで、サーキュラーエコノミーを視野に入れたプラスチックごみのリサイクル促進も目指しています。

MyKirei by KAO

エアインフィルムはつめかえ用容器に使われるやわらかい素材だが、容器の外側に空気を入れて膨らませることで、自立する容器として使うことができます。

柴田さんによると、4Rの視点でプラスチック容器削減に多角的に取り組むのは、環境への配慮という側面だけではなく、マーケットやお客さまの状況を加味しながらアプローチすることが大切だからだといいます。

「つめかえ製品と同じぐらいプラスチック削減効果のあるエアインフィルムボトルを開発しました。これはつけかえ製品として利用できます。米国や欧州では、つめかえ製品がほとんどありません。お客様の生活習慣を変えるのは難しい中、あえてまだつめかえ文化が普及していない米国で発売しました。使用後は、リサイクルを促進するために、テラサイクルとも組んでいます」

「だからと言って、すべての製品でエアインフィルムボトルを目指すわけではありません。容器を使う場面、お客様がどのような点を容器に求めているのかを加味しながら、メーカーとしては詰め替えやつけかえなど色々なオプションを用意して消費者の選択肢を広げ、最終的には消費者に判断していただく。こうしたことを通して、私たちはプラスチックとどう付き合おうとしているのかを考えることが大切だと思います」

サーキュラーエコノミーを視野に業界横断でプラ削減を推進

今や地球規模の課題となった海洋プラスチックごみ問題は、一企業の取り組みだけで解決できるテーマではありません。このため、プラスチックの製造から使用、廃棄までサプライチェーンに関わる企業が連携し、リサイクルシステムの整備や代替素材の開発などの協業を目指すクリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)が設立され、会員企業は350社を超えました。CLOMAの初代会長は、花王の澤田道隆社長が務めています。

澤田社長は、リサイクルの推進を含めたサーキュラーエコノミーを具体的に実践するためには、技術開発との連携が不可欠であると訴えています。

「『サーキュラー・エコノミー』の概念には当然賛同します。ただ、問題は、どのレベルで、どこまで実践できるかだと思います。廃棄していた製品や原材料を『資源』として活用し、廃棄物を出すことなく資源を循環させることは多くの問題を抱えます」

「例えば、プラスチック容器の循環を考えると、収集、分別、汚れ除去、着色、品質劣化などを考慮しないといけませんし、コストの問題も生じます。やはり、リサイクルを前提とした材料設計、製品設計が必要になるとともに、コストを抑えた社会システム化も検討しなければなりません。見せかけではなく、本気で取り組むには技術との連携なくしてなしえません。日本においてはCLOMAが中心となり、産業界を含めた産官学連携により、かなりのレベルは達成できると考えます。モノマーまで戻せるケミカルリサイクルができれば、その可能性はより高まるはずです」

<経済産業省METI Journal 2020年6月17日公開記事:政策特集レジ袋有料化 その先の未来 vol.9 リサイクル技術やシステム 社会全体で共有を 澤田道隆会長(花王社長)が語るCLOMAが目指す世界 より>

「よきモノづくり」で社会に貢献するという創業の精神のもと続けてきた、包装容器におけるプラスチック量削減。柴田さんは「花王はケミカル事業も営んでいますので、これからもサイエンスの面から研究開発力を生かして社会に貢献できることをやっていきたいです」と話しています。業界のリーディングカンパニーの一つとして、サーキュラーエコノミーの実現にも貢献する花王の取り組みにこれからも注目です。

【参照】Kirei Lifestyle Plan −花王のESG 戦略−
【参照】Kirei Lifestyle Plan Progress Report 2020