京都府・亀岡市は8月1日、「世界に誇れる環境先進都市」の実現に向けた取り組みの一環として、同市が展開する環境政策の取り組みを体感できる亀岡市環境プロモーションセンター「Circular Kameoka Lab(サーキュラーかめおかラボ)」をオープンした。
亀岡市は2018年に「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」を実施し、2019年には全国よりも11ヶ月先んじてレジ袋の有料化を始めたほか、エコバッグの普及促進に向けてアートの視点を取り入れた「KAMEOKA FLY BAG Project」も開始。2020年にはSDGs未来都市にも選定され、「亀岡市ポイ捨て等禁止条例」や全国初の「亀岡市プラスチック製レジ袋の提供禁止に関する条例」も制定した。さらに、2023年2月には有機農業の推進に向けて全国で2番目となる「オーガニックビレッジ宣言」を行うなど、その先進的な環境政策で知られる。
このたびオープンした Circular Kameoka Lab は、「環る(めぐる)」をテーマに、これらの亀岡市の環境政策を展示するほか、次世代向けの環境学習、イベント、ワークショップ開催などを通じた地域の情報発信・交流・イノベーション拠点となる予定だ。
オープンニングセレモニーでは、桂川孝裕・亀岡市長から関係者らへの謝辞が述べられたほか、同市のこれまでの環境政策の歩みをまとめた動画や、同日にスタートした同市の生物多様性の象徴である絶滅危惧種・アユモドキを守るためのNFTを活用したふるさと納税型クラウドファンディングなどが紹介された。
セレモニー後には太陽光発電システムのデモンストレーションや、ハリウッド映画に登場するごみをエネルギーとして走るデロリアンの乗車体験、亀岡市発のアップサイクルブランド「HOZUBAG」の製作体験、ペットボトルキャップから作るアクセサリーワークショップなど、循環経済や循環型の暮らしを体験できる様々なコンテンツが用意され、関係者らや市民で賑わった。
また、同日にCircular Kameoka Lab オープンのタイミングに合わせる形で、亀岡市とかめおか未来づくり環境パートナーシップ協定を締結した株式会社ごみの学校による同市の循環経済推進プロジェクト「Circular Kameoka」のウェブサイトもオープンした。
ごみの学校はすでに亀岡市が使用済み紙おむつの再資源化に向けた基本協定を締結している株式会社浜田、および市内で廃棄物回収・処理を手がける南丹清掃株式会社との連携により実証事業などを進めている。今後は亀岡市と連携しながら同市の循環経済に関する取り組みの情報発信および新たな資源循環事業の創出、共創型の実証実験、ツーリズム、市民向けワークショップなどに取り組んでいく。
亀岡市では、なぜここまで先進的な環境施策が進んでいるのだろうか。きっかけとなったのは、「保津川下り」で知られる美しい保津川がプラスチックごみで汚染され、外国人観光客らからゴミに対する指摘を受けるなかで、2004年に保津川下りの船頭だった豊田知八さん(現・保津川遊船企業組合 代表理事)らが立ち上がり、保津川の清掃活動を始めたことにある。
その後、原田禎夫さん(現・NPO法人プロジェクト保津川代表理事)や当時市議会議員だった桂川孝裕・現亀岡市長らがともに保津川のプラごみ問題に取り組み始め、2012年には内陸部の自治体として初となる「海ごみサミット2012亀岡保津川会議」を開催。その後、全国初となるレジ袋禁止条例にいたるまでの大きな流れが作られた。
2018年にスタートした「かめおか霧の芸術祭」も、元々は地元住民にとって厄介な存在だった「霧」を、桂川市長が地域の芸術家らとともに亀岡市の自然が織りなす価値ある資源と捉え直すところから始まった。その意味で、亀岡市が積極的に推進する芸術振興も、すでにあるものに新たな価値を見出すという点で循環経済の考え方と根底で繋がっている。
亀岡市はCircular Kameoka Labのオープンに合わせて同日に京都芸術大学との包括的な連携・協力協定も締結したが、実際に同施設には京都芸術大学の学生らが亀岡で廃校になった中学校の備品をアップサイクルした家具や什器が活用されており、芸術の力により循環経済が推進されている。
これらの歩みを振り返ると、保津川を事業の舞台とする保津川遊船企業組合にとって、美しい保津川の保全は事業継続に欠かせない前提条件であり、「経済のために環境を壊す」のではなく「経済のために環境を守る」という考えが出発点にあったこと、もともと農業やランドスケープデザインを専門分野としており、循環経済や循環型社会の考え方に理解が深い桂川市長のリーダーシップのもと、自治体と企業、地域住民らが対話を重ねながら粘り強く環境活動に取り組んできたことなどが、亀岡市の環境政策推進の大きなドライバーとなっていると推察される。
プラごみ対策やオーガニック農業の推進、芸術振興など、一見関係のないようにも思える同市の取り組みは、亀岡という美しいランドスケープ(景観)を次世代に引き継いでいくためのデザインという点で一貫している。
また、亀岡市は人口が約8.5万人(2024年7月現在)と、小さすぎず大都市でもない規模感のため、施策のスピードとインパクトを両立させやすい点や、自然豊かな里山と利便性の高い都市性が共存しており、生産と消費が近い距離にある点なども循環経済を推進する都市としての強みとなりうるだろう。オーガニックビレッジ宣言のように一次産業の生産視点からアプローチする循環経済と、プラごみ対策や紙おむつの再資源化など、消費や廃棄物の視点から見た循環経済の両方を推進している点が中規模の都市ならではのバランスを象徴している。
今回新たに「Circular Kameoka Lab(サーキュラーかめおかラボ)」がオープンしたことで、今後は同市が長らく取り組んできた循環経済の実践に加え、それらの実践を広く市内外のステークホルダーに伝えるための情報発信機能も強化された。今後、同拠点がハブとなり新たな共創プロジェクトが創発され、亀岡の実践の輪が全国、そして世界へと広がっていくことを期待したい。
【参照サイト】亀岡市環境プロモーションセンター「Circular Kameoka Lab」
【参照サイト】Circular Kameoka