イケア・ジャパン株式会社はこのほど、イケアの最新のサステナビリティレポート「IKEA Sustainability Report FY22」を発表、脱炭素や循環性向上への取り組みなどの進捗状況を明らかにした。このうち、循環性の向上ではスペアパーツの無料提供拡充などを通じてリユースを奨励するほか、顧客から買い取ったイケアの家具や展示品を購入できる「サーキュラーマーケット」でのリセールをさらに進める方針だ。
生産量増加もGHG20%削減を実現
イケアは、2030年までにサステナビリティ戦略としてプラネタリー・バウンダリー内で環境と社会的公正を両立しながら事業活動を行う「ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ」という状態を達成することを目標に掲げる。目標の達成に向けて、「健康的でサステナブルな暮らし」「サーキュラー&クライメートポジティブ」「公平性と平等性」という3つの分野に注力して地球規模の課題解決に取り組んでいる。同社はFY(事業年度)2030までに、バリューチェーンが排出するよりも多くの温室効果ガスの排出量を削減するクライメートポジティブを目指す。2022年からはサステナビリティレポートと同時に、気候変動対応の戦略や取り組みをまとめた「クライメートレポート」も発行している。
脱炭素や循環性向上への取り組みである「サーキュラー&クライメートポジティブ」のうち、脱炭素に向けた成果としては、GHG排出量がベースラインとなるFY2016で12%減少した。この間、グループ全体の生産量は同10%増えたものの、GHG排出量は20%削減を達成。生産量とGHG排出量のデカップリングに成功している。また、リテール事業を展開する24の市場で再生可能電力の使用率100%となった。さらに、25年までに配送サービスのゼロエミッションの実現、40年までに海上輸送と大型トラック輸送でもゼロエミの達成を目指すとしている。
循環性の向上に関しては、同社のベストセラー製品である本棚のBILLY/ビリーについて、突き板をペーパーフォイルに切り替え、さらに釘の代わりにパチンとはめる固定具で背板を留めるようにし、再組み立てができるデザインへ改良した。そのほかの家具でも部品の無料提供などを通じて製品寿命の延長を促しており、年間の部品提供数は世界全体で2150万個、日本国内の店舗でも1万8000個余となった。2016年からは家具の買取がスタートし、日本国内の買取販売数は累計で3万8000個以上にのぼる。6月の環境月間では、家具買取金額を通常よりも30%上乗せしてリセールをさらに後押しするキャンペーンも実施する。
このほか、2030年までに使用木材の3分の1をリサイクル材に切り替える。パーティクルボードについては、木材の80%以上をリサイクル材にする方針だ。さらに、グループ全体のクライメートフットプリントの5%を占める板材製造時に使用する接着剤について、FY30までに化石燃料由来接着剤の40%を削減する方針も打ち出している。代替品としてトウモロコシ由来の接着剤を開発し、リトアニアで使用を始めているという。
なお、同社はバリューチェーン全体の屋外大気汚染の測定に関して世界初となる企業向けのガイドを策定するとともに、自社としても屋外大気汚染の情報をクライメートレポートの中で開示する初めての企業となった。
サステナブル製品をより安価に
「健康的でサステナブルな暮らし」においては、昨今の世界的なインフレを鑑み、環境負荷の軽減と家計の節約効果の両立を意識した取り組みが目立つ。LED電球のラインナップを増やしたほか、高い節水効果のある水道栓などを新発売。べジミートをはじめとするプラントベース(植物由来)食品のラインナップも拡充させるとともに、価格も肉製品よりも安価に設定することで植物由来食品へのシフトを促している。
今回のサステナビリティレポートの発表に際して、ファーレ社長兼CSOは「私たちは、原材料を調達するコミュニティから消費者への最終商品に至るまで、プラネットバウンダリー内でビジネスを行うことで、インクルーシブで、かつより多くの人々にアクセスしやすいことを重視している」などとコメント。サステナブルな製品群を家計への負担が大きいプレミアム価格ではなく、多くの人々が享受できる価格水準で提供できるようにするための調達方針について、同社カントリー・サステナビリティ・マネジャーの平山絵梨氏は「今迫っている気候変動を軽減しなければ、ビジネスや暮らしが成り立たない。フロントランナーとしてどのような調達をしていけるか積極的に動こうとしている」と言及した。
同社が実施した最新の調査によると、世界的な物価上昇を受けて調査対象者全体の61%が家計不安を抱えており、10人に6人が低価格を重視せざるを得ないと回答。回答者の67%は商品価格がもっと安ければ、サステナブルな暮らしを実践したいと考えていることが浮き彫りになった。グローバルなサステナブル経営のフロントランナーの一角として、環境と社会的公正を両立しながら事業活動を行う「ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ」へどのように近づいていくのか、同社のこれからの取り組みに引き続き注目したい。
【プレスリリース】イケア、2030年までの様々な目標に対する進捗を伝える 「サステナビリティレポートFY22(日本語版)」と 「クライメートレポートFY22(日本語版)」を公開
【参照サイト】
【Circular Economy Hub Podcast 循環対話】 第11回「イケアが目指す『ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ』とは?」
【前編】2030年までにサーキュラーエコノミー型ビジネスの展開を目指す。イケアの本気度は?
【後編】2030年までにサーキュラーエコノミー型ビジネスの展開を目指す。イケアの本気度は?
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冒頭の写真:サステナビリティ プレスツアー2023で記者会見するイケア・ジャパン 代表取締役社長 兼 Chief Sustainability Officer ペトラ・ファーレ氏<編集部撮影>