マイクロソフトは、2020年1月に開始した「2030年までにカーボンネガティブ企業になる」という気候危機に注力した創業以来最大の同社の公約に関し、1年が経過した今年1月28日、その進捗を報告した。公約では、2030年までに同社が排出するよりも多くの炭素を環境から除去することと、2050年までに、1975年の創業以来直接および間接的に排出してきた炭素のすべてを環境から除去することも表明している。

「ムーンショット (壮大な計画)」と表現されたその公約の最初の1年の進捗として、下記3つの軸に基づいた報告が行われた。

  1. 初年度に削減した炭素排出量は6%、約73万トンの見込み
  2. 世界中のプロジェクト26件において130万トン分の炭素除去を購入した
  3. 同社が発表したサステナビリティレポートのデータは、会計事務所Deloitteによる第三者機関審査を受け透明性を確保している。また、来期(2021年7月)より役員報酬の決定要素にサステナビリティに関する目標の達成状況を盛り込み責任説明を果たす

各進捗の詳細と、そこから得られた知見や今後の取り組みとして、マイクロソフト米国本社のプレジデントであるブラッド・スミス氏の公式ブログでは以下のように発表されている。

1. 炭素排出量の削減

初年度は炭素排出量を1,160万トンから1,090万トンまで、6%の削減を実現。同社は2030年までに排出量を半分以上削減することを目指しており、初年度の削減量を10年連続で維持すれば、その目標を達成或いは超える可能性も出てきている。

スミス氏は、この取り組みを加速させ進化させるにあたって重要となる2つの基本的な変化に触れている。ひとつは、社内の炭素税を「スコープ3*での排出」にまで拡張し、同社のサプライヤーや、同社の製品を利用する顧客にまで炭素税の枠を広げたことである。

同社はこれまでスコープ 1*と2*における炭素排出に社内炭素税を適用しており、社内各部門では、電気の利用などで直接排出した炭素に対し、1トンあたり15ドルの内部税を支払っていたが、2021年7月1日の新会計年度開始時にはスコープ3にまで広げると発表した。まずは 1トンあたり5ドルの低率から開始し、毎年増税を予定している。

もうひとつはサプライチェーンの脱炭素化に向けて、サプライヤーとの契約に炭素価格を盛り込む点であるとしている。

2. 環境からの炭素除去

この1年で同社が実施した最も劇的な行動は、環境から炭素を除去する取り組みであり、これまでに世界中の26のプロジェクトで15社のサプライヤーから130万トン分の炭素除去を購入したと発表した。

スミス氏は、炭素回避ではなく炭素除去に投資すべきだと主張する一方で、現在のところ真の炭素除去エコシステムは存在せず、世界は前例のない規模と時間軸で、新たな市場をほぼゼロの状態から構築する必要があり、それは一貫性や官民連携、そして多額の投資が同時に必要となる非常に解決が困難な課題であるとしている。

3. 透明性と説明責任の推進

透明性と説明責任を果たす機関を置くことで全員に圧力をかける必要があり、そのために行う下記2つの施策を発表した。

1点目は、同社のサステナビリティレポートにて、炭素・水・廃棄物・生態系のデータを公開し、透明性を高める。今後のレポートはDeloitteが審査する。

2点目は、次期7月の会計年度より、役員報酬を決める要素の中にサステナビリティに関する目標の達成度が含まれるようになる点である。2016年より役員報酬の一部を環境・社会・ガバナンスの指標と連動させるようにしており、今回の施策はこれに続く。現在から7月までに、取締役会の報酬委員会がこの変更を査定・検討・承認し、これは、CEOのサティア・ナデラ氏をはじめとする役員の報酬に適用される。

報告と同時に発表されたサステナビリティレポートでは、カーボンネガティブに向けた取り組みだけでなく、ウォーターポジティブおよび廃棄物ゼロに向けた取り組みや、世界の生物多様性改善に向けデータを収集する「Planetary Computer (惑星コンピュータ)」の構築についても言及している。

なお同社は、2030年までにカーボンネガティブを実現するのみでなく、廃棄物をゼロにするという野心的な目標も掲げている。

【関連記事】マイクロソフト、2030年までに「廃棄物ゼロ」を実現へ | Circular Economy Hub – サーキュラーエコノミーハブ (cehub.jp)
【参照記事】カーボンネガティブへの道: 1 年が経過した気候戦略の進捗状況 – News Center Japan (microsoft.com)
【参考】マイクロソフトの炭素除去に関するホワイトペーパー

※スコープ1-3

スコープ1人間の活動により直接的に生じる排出。たとえば、運転する車 (企業の場合は商品の運搬に必要なトラック)の排気ガスや発電による排出
スコープ2人間が生活において使用する電力や暖房によって間接的に生じる排出。家庭の照明や企業のビルで消費される従来型エネルギーに伴う排出
スコープ3他のすべての活動から間接的に生じる排出。個人が食べる食品や購入する商品の製造に関連する排出。企業の場合、サプライチェーン全体・ビルの材料・従業員の出張・商品のライフサイクル全体・消費者が商品を使用する際の電力消費等広範囲に及ぶ。通常、企業のスコープ 3の排出はスコープ 1とスコープ 2の合計よりもはるかに大きくなる