21世紀金融行動原則はこのほど、預貸WG・地域支援WGとの共催でハイブリット形式によるセミナー「地域におけるサーキュラーエコノミーの実践と地域金融機関の役割」を開催した。セミナーでは、地域に根差してサーキュラーエコノミー(以下CE)を推進している企業や自治体、金融機関の取り組みが紹介された後、それぞれの取り組みで直面した課題やその乗り越え方のほか、地域金融機関への期待などについて、パネルディスカッション形式で議論された。

企業、自治体、金融機関による地域内での循環プロジェクトづくり

はじめに、三井住友信託銀行 TBFチーム主任調査役・小中洋輔氏より、メーカー出身者で構成する同行のTBF(Technology Based Finance)チームについて紹介された。同チームは、エネルギーと材料、農林水産、メカトロニクス(モビリティ、EV、プラント、機械系基盤)といういずれもサーキュラーエコノミーの推進には関連性の深い4つの技術領域にインパクト評価を掛け合わせることで、案件の実証段階から伴走して環境・社会の課題解決を目指している。小中氏は「特に、地域でサーキュラーエコノミーに取り組むことによって、産業の活性化や雇用の増加が見込める。(中略)しかし、サーキュラーエコノミーへの移行に向けてはサプライチェーン各所に課題があるため、事業会社だけでは難しい場面が多々ある。エンゲージメントの促進やサプライチェーンの構築、事業創出やファイナンスなど金融機関が果たせる役割は大きい」などと訴えた。

その後の事例紹介ではまず、ハーチ(東京都中央区)代表取締役・加藤佑氏が、横浜市内各所でのサーキュラーエコノミーに関わる実践をつなげるプラットフォーム運営や、同市内の東西南北の圏域の特徴を活かしながら各地域の循環経済型プロジェクトを創出してきた「Circular Yokohama」の全体像を紹介。加藤氏は「地域でのCEの実践には、各コミュニティでのリアルな場での実践(ズームイン)をつなげながら(ズームアウト)システムとして全体のデザインを行なっていくことが重要だ」などとコメントした。

続いて、アミタホールディングス未来デザイングループ グループマネージャー・宮原伸朗氏は、同社が神戸市はじめ複数の自治体で展開している互助共助コミュニティ志向の資源回収ステーション「MEGURU STATION®」について紹介した。宮原氏は「本当にやりたいことは地域に互助共助のコミュニティを作ることで、その手段として資源循環に取り組んでいる。神戸市内の拠点の利用者からは多世代との交流が増えたというお声もいただいており、現在三井住友信託と社会的インパクト評価を実施している。(CEに取り組む日本企業のプラットフォームである)J-CEPを基盤に、ステーションを全国に広げていきたい」などと話した。

また、自治体をあげてCEに取り組む地域として、愛知県蒲郡市企画部企画政策課 サーキュラーシティ推進室 室長・羽田野裕昭氏が、行政がまちづくりにCEを組み込んで実現させることを目指す「サーキュラーシティ蒲郡」の取り組みを説明。同市は2022年3月に策定したサーキュラーシティビジョンの中で、「食」「健康」「消費」「観光」「交通」「教育」「ものづくり」という7つの重点分野を設定した。これについて羽田野氏は「CEは経済システムだが、まちづくりに組み込むことを目的に取り組んでいるので、健康や教育にも重点を置いているのは特徴的だと思う」とした。

最後に地域金融機関として、鹿児島銀行地域支援部 経営コンサルティング室 室長・原口 健氏が、取引先によるサーキュラーエコノミーの取組への融資事例として、みやざきバイオマスリサイクル株式会社による鶏糞のバイオマス発電について紹介。1号機と同等規模の設備ながら、昨今の建設コストの増加で約2倍に膨らんだ総事業費に対して、売り上げ増に向けた関係者の調整から宮崎銀行との協調融資に至るまでに行った多岐にわたる支援に言及した。

サプライチェーンの川上から関与して地域のCEを発展させる

その後のパネルディスカッションでは、地域に根差したサーキュラーエコノミーのプロジェクト展開するに当たって直面する課題として、パネラーからはマネタイズの方法や自治体との協働の仕方などに触れる意見が出た。その上で、各地域でサーキュラーエコノミー志向のプロジェクトを展開する際のコツとして「推進する人(企業、リサイクラーなど)とイネイブラー(金融機関、メディア、教育機関)の双方を巻き込んでいくと移行がしやすい」(ハーチ・加藤氏)、「自治体と金融機関が連携してサプライチェーンの川上から関与することが、地域でのCEの発展につながると思う」(鹿児島銀・原口氏)などが挙げられるとともに、「地域で暮らしていないと分からないことがある。金融機関が最初から一緒に入ってもらって事業計画づくりをサポートしてくれたら心強い」(アミタ・宮原氏)といった地域金融機関に対する期待感も示された。

サプライチェーン上の各ステークホルダー間での協働が欠かせないサーキュラーエコノミーでは、地場企業とのネットワークを持つ地域金融機関の役割がいよいよ重要視されることになるだろう。今回のセミナーを機に、地域金融機関によるサーキュラーエコノミーの推進支援の機運がさらに高まることに期待したい。

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【関連サイト】
Cicular Yokohama
アミタホールディングス株式会社「MEGURU STATION®」
サーキュラーシティ蒲郡