積水ハウス株式会社は12月4日、住宅業界におけるサーキュラーエコノミー移行を目指し、「家がまた誰かの家に生まれ変わる『循環する家』Circular Design from House to House」(以下、「House to House」)と2050年までの達成目標を宣言した。同日、関係者向けに行われた発表会で同社代表取締役 社長執行役員兼CEOの仲井嘉浩氏は、「2050年にはHouse to House、すなわちリサイクル部材だけでできる家を提供したい」と宣言。実現へのハードルは高いとしながらも、サプライヤーとの協働により活動を進めていくという。
「House to House」概念図
3万点以上からなる家の部材を見直し、設計段階から循環を想定する「つくりかた方、つくりなおそう。」をスローガンに活動する。そのうえで、「2050年までにリユース・リニューアブル・リサイクル部材だけで構成された家を開発し商品を提供できる状態」を目指す。同社によると、リユース・リニューアブル・リサイクル部材の定義は下記。
- リサイクル部材:主要な構成材料にリサイクル原材料を含む部材。リサイクル方法はクローズドループリサイクル、水平リサイクルに限定しない
- リニューアブル部材:主要な構成材料にバイオマスなど再生可能資源由来の原材料を含む部材
- リユース部材:リユースを前提とした部材
サーキュラーデザインプロジェクト
「サーキュラーデザインプロジェクト」3つの領域
今回、従来から活動してきた取り組みを含め、「サーキュラーデザインプロジェクト」として新たに3つの領域に体系化し整理した。
- 住宅の長寿命化:建物の長寿命化と長期利用に取り組む領域で、長期優良住宅やスムストック*などの取り組みを実施する
- 自然資本の持続可能な利用:住宅の資源を調達する際、その持続可能な利用に取り組む。フェアウッド調達など
- 住宅部材と原材料の循環利用:住宅を新築・改修・解体する際に部材と原材料の循環利用に取り組む。今回の「House to House」は同領域に該当。今後は、住宅に投入する部材や原材料の循環利用に向け、サプライヤーと共に持続可能な社会の実現を目指す
*スムストック:優良な既存住宅を社会の共有資産として住み継ぐための仕組みづくりに向け、大手ハウスメーカー10社が協力して、「優良ストック住宅推進協議会」を設立。参加メーカーの住宅で共通の基準を満たすものを「スムストック」と認定している。参照:https://sumstock.jp/sumstock/
新築施工・アフターサービス・改修現場由来のリサイクル実績が基盤
これまで、新築施工およびアフターメンテナンスと改修時に排出される廃棄物を全国21カ所(2024年12月4日時点)ある自社施設「資源循環センター」に回収してリサイクルしてきた。2023年には約3.7万トンをリサイクルした実績を持つ。この取り組みを通じて培ったサプライヤーとの連携を基盤に、House to Houseを目指す。
同センターは技術開発に向け試料を提供する役目も果たしていく。すでに新築施工現場由来のインシュレーションボードと給水給湯樹脂配管について、それぞれ大建工業とブリヂストンで水平リサイクルが実現できている。さらにサプライヤー10社以上とも建材の開発などの具体的な検討を進めているという。今後は、解体現場で発生する製品や端材の水平リサイクルにも積極的に取り組む。
視点:サプライヤーや消費者と協働で進める
材料により程度の差こそあれ、一度市中に出た材料の再資源化は、分別回収方法とコスト、異物・汚物付着、複合材、解体コスト、トレーサビリティなどにおいて課題があり、一般的にハードルが高いとされる。寿命が長く部材点数も多い建築部門も同様だ。しかし、上述のように、資源循環センターでのリサイクル基盤があり、すでに水平リサイクルの協業も一部で始まり、他のサプライヤーとも協働を始めている。取り組みの結果、中長期的には資源の安定調達・コスト削減にもつながる可能性がある。
住宅のサプライチェーンに影響力を持つハウスメーカーがこのような野心的な目標を宣言することの業界内外への波及効果は大きい。GHG排出量削減に向けた再エネ活用など大手完成品メーカーからサプライヤーへの環境配慮要請は見られており、それが資源分野でも起こり始めている。部材の循環性を高めたサプライヤーが他社へも供給し始めることで、国内のみならず海外での競争力も高まる可能性もある。
サーキュラーエコノミー実現に向けてもう一つ重要な点は、住宅の長寿命化だ。発表会でプレゼンテーションを行った東京大学の清家剛教授(新領域創成科学研究科 社会文化環境学専攻)は、「見逃されがちなのは長寿命化」と強調した。同社ESG経営推進本部 業務役員 環境推進部長の井阪由紀氏も「住宅ストックを重要な社会的資本と捉えて、長く住める住宅を残していく使命がある」と話す。一方で、住宅自体を機能的に長寿命化できたとしても、長寿命にするかどうかは顧客の選択によるところが大きい。そのため、顧客の認知拡大など、顧客と共に協働していくことも必要になる。こうした長寿命化という方向性も追求したうえで、もう一つの取組としてHouse to Houseを位置づけていることが今回の宣言の特徴ともいえる。
【プレスリリース】家がまた誰かの家に生まれ変わる「循環する家(House to House)」2050年までの実現へ向けた具体的なアクションを住宅業界ではじめて宣言~住宅におけるサーキュラーエコノミー移行を目指す~
【参考】循環する家公式HP
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*記事中の写真・図:積水ハウス提供
冒頭の写真は、発表会のフォトセッション(左から、積水ハウス株式会社 R&D本部 総合住宅研究所長 東田 豊彦 氏、大建工業株式会社 R&Dセンター 次長 兼 知的財産部 知財戦略担当 リーダー 高澤 良輔 氏、積水ハウス株式会社 ESG経営推進本部 業務役員 環境推進部長 井阪 由紀 氏、株式会社ブリヂストン 化工品事業開発部門 配管開発部 配管開発第1課 課長 三觜 浩平 氏、積水ハウス株式会社 ESG経営推進本部 環境推進部 村井 孝嗣 氏)