東京大学大学院農学生命科学研究科の伊藤昭彦教授らの研究グループが、人為起源の反応性窒素(Nr)が地球環境に与える影響を包括的に評価した。2024年7月に発表された本研究は、反応性窒素が大気や陸域の窒素循環を通じて気候システムに影響を与えることを明らかにし、人為起源の窒素利用と温室効果ガス排出を同時に削減する効果的な気候変動対策の重要性を示している。

以前より、炭素循環が大気中の二酸化炭素の濃度を介して気候に影響を与えていることは知られていた。しかし、窒素循環の変化が地球の気候に与える影響の全体像は十分に理解されていなかった。

本研究では、人間活動による窒素放出インベントリ、大気化学モデル、陸域窒素循環モデルを使用。環境中に放出された反応性窒素が、大気中の微粒子や温室効果ガス、さらに陸域生態系の炭素収支に変化を与えることが示された。

図1:反応性窒素(Nr)が気候に影響を与える経路(出典:東京大学)

農地での肥料使用や化学工業から大量に放出される反応性窒素は、大気中で微粒子や温室効果ガスを生成し、温暖化や寒冷化を引き起こす。具体的には、一酸化二窒素(N2O)や窒素酸化物(NOx)は温暖化効果を持つが、微粒子(エアロゾル)による日射の反射やメタン(CH4)の減少、また地表に沈着した窒素が植生の成長を促すことで寒冷化をもたらす。

特に注目されるのは、産業革命以降、窒素循環の変化が正味で寒冷化効果をもたらしてきた点だ。これは反応性窒素による温暖化と寒冷化の効果が相殺し合った結果であり、1850年から2019年の間における放射強制力は-0.34 W m−2と推定された。この値は、二酸化炭素などの人為起源温室効果ガスによる温暖化の約6分の1に相当する規模だという。

また地域ごとの影響も異なり、特にエアロゾルの効果はアジア、ヨーロッパ、北アメリカで顕著であることが示唆された。

【プレスリリース】窒素循環は気候に影響を与える ――人間活動が地球環境に影響を与える知られざる側面――
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