早稲田大学の研究グループは12月16日、「電気パルス直接放電法」を用いて炭素繊維強化プラスチック(CFRP)から炭素繊維を効率的に回収する手法を開発したと発表した。従来の破砕法や加熱法、電気パルス法と比較し、炭素繊維の強度維持やエネルギー効率の面で大幅な改善を実現したという。

CFRPは高強度かつ軽量なため、航空機や自動車、風力発電などで広く利用されるが、リサイクルが困難だという課題があった。従来のリサイクル手法である粉砕、熱分解、化学分解では、炭素繊維の短縮や強度低下に加え、CO2排出など環境負荷への懸念が指摘されていた。また近年提案されてきた電気パルスを用いた手法では、数百回の放電が必要であり、炭素繊維と樹脂を選択的に分離するには限界があるという課題があった。

早稲田大学理工学術院の所千晴教授らによる研究チームが発表した「電気パルス直接放電法」では、CFRP内部に高電圧パルスを直接放電し、ジュール熱と樹脂の気化膨張力を利用して繊維と樹脂を分離する。従来の水中破砕法に比べ、回収された炭素繊維の強度は元の81%を保持し、エネルギー効率は約10倍に向上。回収繊維には樹脂付着が少なく、表面のクラックもほぼ見られなかったという。

環境負荷を抑えながらCFRP廃棄物をリサイクルすることで、航空機や風力発電などで発生するCFRP廃棄物の持続可能な資源循環に貢献すると期待される。加えて、リチウムイオン電池など他の複合材料や産業廃棄物への応用可能性も示唆され、幅広い分野での資源活用に活かされる可能性もあるという。

ただし、課題も残る。1回のパルス照射で回収できる炭素繊維量が少ないことや繊維の方向性が揃っていないことが再利用プロセスの障壁となっている。また産業規模への展開には、装置の汎用性を高める設計と運用コスト削減が求められる。

今回の研究成果は、国際学術誌「Scientific Reports」に2024年11月30日に掲載された。早稲田大学理工学術院の研究チームは、今後も技術の改良を進め、産業応用と資源循環型社会の実現に貢献する方針だ。

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