Circular Economy Hub 編集部では、「Circular Cafe & Bar」という名のもと、定期的にコミュニティ会員限定のオンライントークの場を開催。(詳細はこちら。)話題提供を行うゲストや編集部メンバーがテーマ設定の理由や問いを冒頭に投げかけ、その後参加者で自由に意見交換を行うという流れで進行しています。
【話題提供パート】サーキュラリティ測定に必要な要素を考える
今回話題提供を行ったのはCircular Economy Hub 編集長の那須清和さんです。
テーマは「サーキュラリティ測定に必要な要素を考える」。
環境・経済・社会の広範囲にわたる事項を取り扱うサーキュラーエコノミーにおいて、ファクトベースで考えることとライフサイクル思考の必要性がますます叫ばれています。
サーキュラーエコノミーがどの程度製品ライフサイクル内で浸透し、価値がどのくらいループに留められ続けるかなどを定量化する「サーキュラリティ(循環性)測定」の重要性が高まっていることがいくつかの例を通じて紹介されました。
サーキュラリティ測定は、現状いくつかのツールや指標が存在していますが、今後、データ蓄積によりさらに改善・発展していくと考えられます。
今回は、参考情報として、サーキュラリティ測定の代表的なツールである、Circulytics(エレン・マッカーサー財団)とCircular Transition Indicators(サーキュラー・トランジション・インデックス、WBSCD)の2ツールの特徴が比較されました。
【関連記事】【オピニオン】サーキュラーエコノミーを客観的に評価する。サーキュラリティ測定のねらい
サーキュラリティ測定ツールの特徴比較:Circulytics(エレン・マッカーサー財団)
話題提供パートでの投影資料
Circulyticsの特徴の一つは、エレン・マッカーサー財団が提唱するサーキュラーエコノミーの3原則と整合されている点です。最終スコアはアルファベットで評価され、各業界の平均値も出されるため、業界おける自社の位置を確認することも可能です。評価スコアは「イネーブラー」と「アウトカム」の2種類に分類され、37の指標を基に決定されます。
イネーブラー
サーキュラーエコノミー戦略からシステム、アセットなど、今後サーキュラーエコノミー移行にできるかどうかの潜在性を可視化。
質問例として、「CEOはどの程度サーキュラーエコノミーを中心的施策として位置付けているか」「サーキュラーエコノミーに関する研修があるかどうか」などがある。
企業でのサーキュラーエコノミーの浸透度合いや、それを改善する仕組みがあるかどうかが問われる。言い換えると、企業内でサーキュラーエコノミーのPDCAサイクルを回し改善を図れるシステムや環境があるかが評価される。
アウトカム
定量的な測定。マテリアルフロー、水フロー、エネルギー利用、製品設計や調達など。
サーキュラリティ測定ツールの特徴比較:Circular Transition Indicators(WBSCD、サーキュラー・トランジション・インデックス)
CTIは、Circulyticsに比べてマテリアルフローを重視しているのが特徴です。サーキュラリティと業績の関係も測ることで、経済的に成立しているかについても評価軸としています。
まず、資源調達から排出までのフローのサーキュラリティを測定します。
- インフロー:調達した資源が、再生可能な素材かどうかなど、サーキュラリティを確認
- 資源循環可能性:サーキュラリティ担保のためにどう設計しているか?(例:分解性・修理可能性・易リサイクル性)
- 実際の資源循環性:排出された資源が実際どれくらい循環しているのかを確認
また、もう一つの測定軸として「3つのループ」が用いられます。
- ループ化:アウトフローとインフローのサーキュラリティ
- ループ最適化:クリティカルマテリアルの割合から、レジリエンス性が低くなっていないかなど、ループ自体の健全性を評価
- ループ評価:循環される原材料の生産性など、経済性や利益の観点でサーキュラーエコノミー移行によって業績が上げられているのかを評価。
上記、サーキュラリティ測定における代表的な2つのツールの特徴と比較を示した上で、サーキュラリティに必要な要素についてまとめが共有されました。
サーキュラリティ測定に必要な要素
話題提供パートでの投影資料
1. 環境・経済・社会3つのバランス
SDGsウェディングケーキなども見ても、環境への貢献は最も重要である。しかし、企業にとっては、環境だけ改善しても経済的に成立しない場合には持続可能ではない。さらに、環境と経済だけに目を向けるのではなく、社会的な視点も含めた3つのバランスを取ることが重要。
2. 補完性
3つのバランスが大切な一方で、社会に関する数値など測定しづらいものもある。そのため、サーキュラリティは全てを測定できるものではない可能性がある。
3. ライフサイクル思考
製品ライフサイクル全体での循環性を俯瞰的に捉える、ライフサイクル思考の重要性が高まっている。サーキュラリティ測定はそのライフサイクル思考を持たせるためのツールであるということを認識する必要がある。
4. マネジメントシステム
定量的な数値だけでなく、サーキュラーエコノミー移行実現のための組織内の環境や改善するためのスパイラルアップするシステムが備わっているか、ということを定性的に評価する必要がある。
以上の話題提供を参考にしながら、サーキュラリティ測定について下記のテーマについて意見交換が行われました。
- 「サーキュラリティに必要な要素とは?」
- 「測定の定性・定量のバランスは?」
- 「サーキュラリティ測定が、より活用されやすくなるには?」
以下は出された意見の例です。
意見交換パート
サーキュラリティに必要な要素について
- 企業にとって、何のためにサーキュラリティ測定を行うのか「目的」を明確にすることが大事である。
第三者評価や財務諸表の位置付けか、内部の意識づけのためなのかだけでなく、その会社がどういう立場にいるのか、産業ごとポジションごとに見るべき数値が変わるのでは。 - ファッション業界など、つくり過ぎているものを減らすことが一番必要な業界もある。その場合に、新品を減らせたかどうかを数値として評価することも大切なのでは。
- サーキュラーエコノミーの移行には消費者や利用者の存在がキーとなる。利用者が自ら積極的に循環サイクルに参加できるか、仕組みづくりやコミュニケーションが取れているかも数値化できると良いのでは。
- アメリカやEUでは「修理の権利」の確立が進みつつある。修理できることが大きな付加価値になり得る。
定性的な測定の必要性について
- 企業にとって定量的な数値だけではなく、サーキュラーエコノミーが正確に認知されているかなど定性的な要素を測っていくことは重要だと感じる。一つの担当部署が一生懸命取り組んでいても全社的には認知されないといった課題も出てくるため、会社トップの考えや認識をサーキュラリティ測定の要素に組み込むことは必要。一方で、定性的な数値は客観性が弱くなるなどのデメリットもあるため定量的な数値とのバランスが重要である。
- サーキュラーエコノミーにおける人材育成や文化づくりも重要だ。年に研修を何回実施しているかなど、一定の数値化をすることも可能では。また、退職者数が少ないという事実なども数値化することで、社会的な側面も測ることもできると考える。
より活用されやすくするには
- 現状は、サーキュラーエコノミーの移行はコストと捉える企業が多いように思う。測定によって、コスト効果や利益が上がっているのかということが確認でき、実績が共有されるようになるとより説得力が増し、取り入れやすくなるはずだ。
- 測定を行うかどうかについて、現状は経営陣が関心が高いかどうかに依存している。ある程度の強制力を持つことは必要だと感じる。一方で、移行に向けて急激な変化を求めると、反動が大きくうまくいかないだろう。(一気に石油利用を止めれば問題が解決するわけではないなど)ロードマップを描いて段階的な移行を求めることが大切だ。
- 日本は環境問題に取り組んできた歴史があるからこそ、3Rについては進んでいると言われる。一方で、ビジネスとしては成り立たなかったケースが多いことから、「環境問題に取り組む」=「ビジネスとして成立しない」という意識があるのでは。
- サーキュラリティの測定ツールや基準は増えていく傾向にある。今後測定ツールが増え、色々な企業が取り入れ始めたときに評価指標の乱立や比較のしづらさがより大きな課題になりそう。統一基準のようなものは今後ますます必要とされるだろう。
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【参考】
- Circulytics-measuring circularity
- Circular Transition Indicators v2.0 – Metrics for business, by business
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