蘭Circle Economyと英デロイトはこのほど公表した報告書「Circularity Gap Report 2024」。によると、世界のサーキュラリティは前年並みの7.2%だった。過去5年間でサーキュラーエコノミーに関わる議論や記事の数は約3倍に増えた一方で、サーキュラリティ自体は調査を開始した2018年の9.1%から低下したままだ。

こうした状況の中で発表された今回のレポートは、世界の排出量と廃棄物の大部分を占める「食料システム」「建設業界」「消費財」「モビリティと輸送」という4つの分野でのサーキュラーエコノミー移行に注目。経済発展の段階に応じた3つの移行ステージ別各国・地域で求められる、各分野におけるアクションを具体的に明示した。

各ステークホルダーがサーキュラーエコノミーへの移行に取り組む国・地域に応じて取るべきアプローチが異なることに留意し、現在事業や活動を展開している国・地域、あるいはこれから進出しようとしている国・地域に当てはめながら読み進めていただきたい。

「食」「建設」「工業製品」「輸送」の4分野で取り組むべき12のソリューション

同報告書は今回、世界の排出量と廃棄物の大部分を占める「食料システム」「建設業界」「工業製品」「モビリティと輸送」という4つの分野の循環型移行に向けて企業・都市・国家が取り組むべきとしてきた16のソリューションのうち、12に焦点を当てた。各分野のソリューションは以下の通り。

食料システム(栄養)

世界の食料システムは世界の労働人口の半分を雇用するとともに、いわゆるプラネタリー・バウンダリーを超過させている主要な要因となっている。具体的には、温室効果ガス(GHG)排出量の4分の1、世界の土地利用量の44%、淡水利用量の61%、リン排出量の90%が食料システムに起因している。このため、生産から消費、廃棄物管理まで循環型の食料システムを構築する必要がある。4つの重要な解決策は以下の通り。

・健康的な食生活への移行

理想的には、肉・魚・酪農品中心から、環境負荷の少ない穀物・野菜・果物・ナッツ中心の食生活へ移行する。

・地産地消、オーガニック、旬の食材を

地産地消やオーガニック、旬の食材を優先する。

・環境再生型農業の拡大
・回避できる食品ロスの削減

建設業界(住環境)

都市は地球上の総面積のわずか3%であるにもかかわらず、 建設資材の生産に使用される鉱物の採掘は、世界の土地利用の4分の1に関わっている。さらに、建築物の使用と解体は、世界の窒素排出量の5分の1以上、大気エアロゾル負荷量の半分以上に関連する。建設業をより循環型にするためには、材料の使用量を大幅に削減することを優先しなければならない。また、原材料利用のループを閉じ、二次的で再生可能な材料の選択を前面に押し出さなければならない。建築業界のための4つの主要なソリューションは以下の通り。

・既存建物を最大限活用する

再利用や新たな目的での使用、リノベーションなどを通じて、既存の建物を最大限に活用する。

・可能な限りのエネルギー効率化を
・二次資源の活用を

可能な限り建物や部品を再利用すべきだ。理想的には、新たな砂や砂利の使用を抑えるため、建設と解体の際に生じる材料を可能な限りリサイクルする必要がある。

・循環型の素材利用を優先する

鉄骨やコンクリートの代わりに、再生可能な木材、クロス・ラミネイティド・ティンバー、あるいは地元で入手可能なセメントや鋼鉄の使用量を削減するため、主流であるモジュラーの軽量化をするとともに、可能であれば屋上緑化も行う。

工業製品

工業製品の生産は、世界の温室効果ガスの排出量の3分の1、約5%の真水と土地の利用に関わっている。バリューチェーン全体で循環型のソリューションに取り組むとともに、材料需要も縮小させなければならない。このため、過剰よりも充足を優先し、消費を持続可能なレベルまで削減する社会への転換が必要となる。4つのソリューションは以下の通り。

・産業間の共生を通じた効率化を

工程の改善、スクラップの転用、歩留まりロスの削減を指す。業界内および業界間の連携の強化を通して、資源利用と廃棄の削減を実現する必要がある。

・機械設備や製品の長寿命化
・電化製品などの購入は必要最小限に
・ファストファッションを避け、サステナブルな繊維

新しい衣類の購入を大幅に減らすとともに、 使用済みの衣服はすべて修理か再利用、必要であれば適切にリサイクルするべきだ。また、自然素材と地元産の繊維を優先するとともに、より耐久性のある衣服を選ぶ必要がある。

移行を成功させるために留意すべき3つのテーマ

以上のソリューションを駆使しながらサーキュラーエコノミーへの移行を成功させるためには、政府、金融関係者、企業、そして市民からの政策と法律、資本とビジネスモデル、そして人々を結びつけること不可欠だ。その際に留意すべき3つのテーマは以下の通り。

1. 公平な環境づくり

政策と法的枠組みは「ゲームのルールを決める」ものであり、持続可能で循環的な実践にインセンティブを与える一方、有害なものに罰則を科すことによって産業や国家間の経済活動の性質と規模を形成することができる。しかし、多くの場合で法規制の施行は課題となっている。モニタリングと罰則は、個人や企業がルールを守るために十分厳しくなければならない。

2. 経済学を正しく理解する

循環型ソリューションが直線的な手法に取って代わるためには、資金調達が必要である。
さらに、一貫性のある循環型評価指標の導入、ディーセント・ワークの提供など、制度的に取り組むことも大切である。さらに、評価指標の導入、環境財政改革、真のコスト会計、債務負担の軽減、多国間金融機関の変革などは、すべての主体に恩恵を及ぼすものだ。

3. サーキュラーエコノミー人材の育成

人々は変化の主体であり、同時にその受益者でもある。人々のスキルや仕事、意識、選択は、システミックな変化を達成するのに役立ち、実行された行動によって影響を受ける。法律、資本の流れ、そして人々のスキルや機会を循環型経済の原則と整合させることで強力な相乗効果が生まれ、最終的に私たちは 取って・作って・廃棄するという直線型の経済システムから脱却してサーキュラーエコノミーへ移行することができる。

成熟国、新興成長国、開発途上国 サーキュラーエコノミー移行時に取るべきアクションは何か?

今回のレポートでは、先述の12のソリューションに関して、サーキュラーエコノミーへの移行ステージ別の3つの類型にあたる各国・地域によって、どのソリューションを採用すべきかは異なることが強調されている。各類型の国・地域ごとに採用すべきソリューションと、移行時に留意すべき3つのテーマに則して具体的に行うべきアクションは以下の通り。

「食料システム」「建設業界」「工業製品」に「モビリティと輸送」を加えた4つの大きなシステムが、プラネタリー・バウンダリーとして挙げられる7つの自然現象や自然資源にどのような影響を及ぼしているかを示している。さらに、サーキュラーエコノミーへの移行ステージ別3つの類型にあたる各国・地域がプラネタリー・バウンダリーの超過にどのように影響を及ぼしているか、影響を緩和するためにどのようなソリューションを取るべきかが図示されている

成熟国・地域(SHIFT):消費を劇的に減らし、ウェルビーイングを支持せよ

インフラの多くはすでに構築されているものの、 プラネタリー・バウンダリーに関わる要素のうち、気候変動の42%、窒素の27%、リンの18%、淡水利用の16%、土地利用の38%がこのエリアによる経済活動に起因している。これらを緩和しながらサーキュラーエコノミーに移行していくためには、工業製品と建設における以下2つのソリューションと具体的なアクションが有効だ。

1. 購入は必要最小限に。機械や設備、製品の長寿命化、循環的なものづくりの推進
  • 循環のためのデザインを奨励し、耐久性があり、容易に再利用や修理、リサイクルできるようにする。具体的には、▼修理する権利と拡大生産者責任の強化 ▼資源利用量の削減目標や未売品や返品の廃棄禁止、定期的な点検の義務化など、資源効率性と耐久性についての基準を策定する
  • 価格や利便性によって、人々を効率的なライフスタイルに誘導する。具体的には▼すべての製品に環境スコアを記載し、環境負荷の高い製品・サービスの広告を禁じる▼富裕層への増税や革新的な税制の施行▼割引やボーナスなどの金銭的インセンティブ▼原材料の採掘などへの課税を検討する
  • 持続可能であることや「足るを知る」ことが標準的な考え方になるようにする。具体的には▼サーキュラーエコノミー移行への基金を創設し、スキル開発や教育に役立てる▼雇用保障を拡大し、標準労働時間の削減や消費に偏った休暇のあり方を見直す▼サーキュラー志向のライフスタイルについての啓発に努める
2. 既存の建物の再利用と循環型素材の活用
  • 循環型ソリューションやビジネスモデルへ投資するプレーヤーに報いる。具体的には▼改修と再利用を優先する厳格な規制を導入▼効果的な循環性の認証と二次資源の保証のための制度開発▼公共調達や空間計画など、広範な領域への循環性の適用。マテリアルパスポートの導入やリサイクル材の利用目標、生物由来素材の活用など▼土地トラストや海外資本による不動産取引制限など、所有のあり方を革新する
  • 循環型の建築プロジェクトを魅力的な投資オプションにする。具体的には▼グリーン債など循環型の建築プロジェクトにとってインセンティブとなる金融メカニズムの導入▼開示などを通じて金融業界と建設業界との間で共通言語を構築する▼循環型建築に合った会計基準への見直し
  • 少子高齢化などに伴う労働力不足の改善に、循環型建築の推進を活用することによって、業界の魅力を向上させる。職業スキル開発政策を見直し、公共的な職業訓練プログラムの中にサーキュラーエコノミー移行に必要なスキル訓練を取り入れる。

新興成長国・地域(GROW):ウェルビーイング向上のための資源利用を

世界の製造業のハブとして成長を続けるこの地域・国々は、経済システムとしては成熟国・地域(SHIFT)に続く「第二世代」とも言うべき課題に悩まされている。社会的不平等とそれに関連する格差の拡大、競争力への圧力の増大、持続不可能な都市開発力学、高齢化、社会的不満と生活習慣病の増大などだ。こうした課題を克服し、サーキュラーエコノミー型経済システムの恩恵を世界に広げるためにも、食料システムと工業製品において以下のソリューションを推進すべきだ。

1. 気候変動対策とネイチャーポジティブに資する食料システムの構築を
  • 栄養価の高いものを選択し、食品廃棄物を削減することにつながる統合的な政策を展開する。例えば、環境負荷の高い食品への課税などの税制改正、公共調達における地産品や植物性食品の必須化、食品廃棄物量の報告義務化や食品廃棄物削減に向けた目標設定、認証ラベル等を通じた啓発など。また、リジェネラティブ農業や環境再生的な食料システムに資するプロジェクトへの投資を政策面から促進することも必要だ。環境負荷の高い食品への直接的な補助金の廃止などがこれに含まれる。
  • リジェネラティブ農業に移行しようとする農家への支援のための基金を設け、低利融資や気候変動に伴う損害の補填、スキル取得などを行えるようにする。
2. 脱炭素と資源循環を両立させる製造業へ

この地域・国々が目指すべき製造業のあり方は、脱炭素と資源循環を両立させるための包括的な政策体系だ。需要と供給の双方に働きかけるもので、知識や技術の移転にも関わる以下のような施策が求められよう。

  • 循環型製造業としての拡大を阻む障壁を取り除くとともに、インセンティブを設けて業界を支援する。具体的には▼新品に最低限使用されるべき再生材割合を設定する▼国が補助金と直接投資を通じて最新技術に投資するとともに、産業団地のあり方や運営方法を循環型製造業を拡大させる政策とマッチさせる▼循環型の製造業に資する知的財産の開放▼健康・安全に配慮した経営への投資―など。
  • 未来志向の職業訓練プログラムとして、循環型の製造業への移行に直面する労働者に必要なスキル開発を盛り込む。職業訓練機関のアップデートを図るために、製造業との間の対話機会を設けることなども必要だ。

開発途上国・地域(BUILD):ウェルビーイング向上のための資源利用を

これらの経済圏は多くの場合、成熟国・地域(SHIFT)への原材料や低付加価値製品の輸出を余儀なくされている。それによって、バリューチェーンの上流を担える経済発展を阻害し、環境と社会に深刻な悪影響を及ぼしている。人々の生活水準を向上させると同時に、深刻化する環境への悪影響を抑えるため、以下のように食料システムと建設業界を中心に、サーキュラーエコノミー型経済システムによる産業化を進める必要がある。

1. 地域コミュニティや自然環境に恩恵を及ぼすリジェネラティブ農業を推進
  • 気候変動の緩和と適応に関わる事業への投資を促す。例えば、信頼性の高い自然保護債務スワップや、グリーンボンドや気候変動基金を通じて、債務救済と資本市場への公正なアクセスを実施する。また、農業部門への資源と投資の流れを改善し、環境と社会的成果を明確に改善できるような効率的、安定的かつ透明性の高い規制や枠組みを導入する。さらに、中小農家への支援を通じたレジリエンスの向上、土壌・水・生物多様性に関する具体的な政策目標の設定も必要だ。
  • 農家がイノベーションに投資して農業生産高と品質を向上できるようにする。信頼できる高品質な炭素クレジットや生物多様性クレジットを活用しながら、農家や土地所有者がリジェネラティブ農業に取り組めるようにする。移行に際してのリスクを軽減することも必要だ。
  • 将来も通用するスキルセットを保証するとともに、これまで公式に扱われていなかった地域固有の再生的な実践の重要性を認識し、職業訓練の正式なカリキュラムとする。家内労働的な農業に関わる人材と組織を、経済システム化する。再生的な農業への人材仲介サービスの構築なども求められる。
2. あらゆる社会階層に対して、質の高い生活を保障し、環境負荷を最少化する都市開発
  • 地域ごとに循環型建築の基準を定め、公共施設に適用したり、建設廃棄物の地域内での再利用を織り込んだ廃棄物処理フローを作成したりする。
  • 地方自治体が都市計画に循環型建築を取り入れられるよう、基金を通じて資金と技術支援を行う。
  • 労働集約型で徒弟的な業界において、新たな職業訓練プログラムでスキルトレーニングを行う。また、循環型建築を計画するプロセスに地元の建設業に携わる人たちの参加を促す。

WhatからHowへ 誰が何を行うべきか?

本レポートは、人間開発指数(HDI)が上昇するにつれて物質消費量が増加し、環境負荷を高めている従来型の経済システムから、人々の利益を最大化し環境負荷に対する圧力を最小化する新しい経済モデル、すなわちサーキュラーエコノミーが求められていると指摘。サーキュラーエコノミー型経済システムへの移行には政府・金融セクター・市民による行動が不可欠だとして、以下4つの方向性を示した。

1. 人のウェルビーイング向上を何よりも優先させる

経済・金融・環境担当省庁やビジネスリーダー、多国間組織、国際金融機関 (IMFや開発銀行など) は、地球環境にとって安全な範囲内で人々のウェルビーイングを向上させることを最優先させるよう政策目標を転換させる必要がある。

2. すべての国に持続可能な投資を

経済・金融・貿易省多国間組織と国際金融機関は、国際的な金融・貿易の構造改革を通じて、すべての国が持続可能な開発に投資できるようにすべきである。循環型かつグリーンなテクノロジーへ公平にアクセスできるようにする。途上国への債務の放棄・軽減なども検討されるべきだ。

3. 経済学を正しく理解する

経済省・財務省・教育機関・多国間組織・国際金融機関は、経済学を正しく理解し、環境財政改革と新たな再分配メカニズムを展開して制度を再設計することによって、サーキュラーエコノミーを推進する主体が資金調達を行えるようにすべきである。

4. 公正な移行に向けた国際的な協力体制の構築

経済・労働・教育関連省庁や教育機関・多国間組織・労働機関・ビジネスリーダーは、環境目標を社会的・経済的目標と整合させながら、サーキュラーエコノミーへの公正な移行に向けたグローバルな協力関係を構築すべきである。

これまでのCircularity Gap Reportは、サーキュラーエコノミーとはどのようなもので、移行に当たって何が重要なのかという、いわゆるWhatの部分を中心に論じてきた。課題がほぼ明白になり、今年のレポートは移行に向けて具体的にどのように取り組むべきかというHowに関わる要素、とりわけ移行段階に応じて誰が何をすべきかが変わるという点が強調、詳述されている。また、各ソリューションに公正な移行への配慮が組み込まれていることも、新たな要素として注目できる。

今年のレポートの一貫したメッセージである各ステークホルダーによる具体的なアクションを通じて、サーキュラーエコノミーはいよいよ目に見える成果が求められるフェーズに入ったと言えるだろう。

【参照レポート】Circularity Gap Report 2024
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