「政府の動きを待っているだけでは手遅れになる」。
2025年3月、ロンドンで開催された建築関係者によるサステナビリティイベントで、このような声が上がった。これは決して政府への非難ではなく、地球環境問題の深刻さに対する現場の切迫感がにじむ発言だ。気候変動や資源消費が深刻化するなかで、業界としていかに行動を加速させるか、という課題意識は、英国の建築業界でも明確になっている。
一方で、「業界として対策を進める」ことの難しさを感じているという声も根強い。持続可能性の重要性には多くが同意する一方で、企業にとって将来的な利益が不透明なこと、循環経済市場もまだ過渡期であることから、先行投資がリスクに感じられることも少なくない。たとえ脱炭素やリユースに向けた技術やノウハウがあっても、1社だけで取り組めばコスト競争力を失いかねない――そんな懸念がある。
「規制があれば業界全体で足並みを揃えられる」。英国でもそうした声が上がるのは、日本と同様だ。
一方、規制を待たずに動き始めている企業や団体も多い。しかも英国でその動きは、個社や数社の連携にとどまらず、数百〜数千を巻き込む横断的な連携として拡大している。
本記事では、英国の建築業界で進行中の民間主導の取り組み、とくに業界全体の変革を促すネットワークとその背景を探る。

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山口 真矢子
山口真矢子(やまぐち まやこ)。英国在住。一級建築士、Project Management Professional(PMP)。鉄道会社とエンジニアリング系コンサルティング会社で、建築工事・改修プロジェクトのマネジメント、建築や都市に関わる調査、事業コンセプトの立案などを経験。専門分野:建築工学、施設管理、プロジェクトマネジメント、建築・都市のサステナビリティ。