前編では、独ニュルンベルク市で2月14~17日に開催されたオーガニック食品の世界有数の見本市「BIOFACH」で印象に残った3つのテーマのうち、「持続可能な農業・アグロフォレストリー」「リユース・生分解性容器」における最先端の取り組みをお伝えした。後編では、もう1つのテーマ「エネルギー抑制・廃棄ゼロの製品設計」と、ニュルンベルク市にあるフェアトレード子供服店「Lysu」でのインタビューについてご紹介する。
エネルギー抑制・廃棄ゼロの製品設計
BIOFACHでは、エネルギーを抑制し廃棄ゼロを目指して設計された製品がいくつか出展されていた。ここでは、そのうちの1社「Lamazuna」の取り組みをご報告する。
仏Lamazuna:フランスの固形化粧品の草分け
製品は何だと思うだろうか。
これは、歯磨き粉だ。1袋で120回分。
仏Lamazunaの創設者Laëtitia Van de Walle 氏によると、同氏が2010年に設立したLamazunaは、フランス初の固形化粧品メーカーだ。同社が提供するシャンプー・歯磨き粉・デオドラントなど20種類以上の固形化粧品の多くがオーガニック、100%天然由来かつ100%ビーガンで、フランスで製造している。シャンプーやコンディショナーなどの容器包装はプラスチックボトルではなく紙製のため、廃棄ゼロを達成。従来のシャンプーに多く含まれている水を含まないため、輸送に必要なエネルギーも削減できる。
環境や倫理に配慮して事業展開するLamazunaは、製品販売のほかに以下のような取り組みも実施している。
同社はフランス国立科学研究センターと提携して、硫酸塩を含まない固形化粧品への使用に適し、オーガニック認証を受けられる界面活性剤の研究に資金を提供した。2010年の設立以来、植林活動にも取り組んでいる。2013年、仏の社会的企業PUR Projetのプロジェクトにおいて植林を開始。PUR Projetは世界の小規模農家と協働し、アグロフォレストリー・土地の再生・持続可能な農業慣行を通じて、社会的・環境的に好影響を与える長期プロジェクトを実施しており、これまでに1100万本以上の木を植林している。
2020年、Lamazunaは自社施設「エコサイト」の建設を開始した。同施設は、オフィス・菜園・パーマカルチャーガーデン・託児所を備える。食品廃棄物のよりよい管理を目指し、社員食堂では従業員に敷地内の菜園で採れた野菜を提供するとしている。
固形化粧品(特に固形シャンプー)は、市場拡大が予測されている。市場調査およびコンサルティング会社の米Grand View Researchは、世界の固形シャンプーの市場規模は2025年までに1700万ドルに達し、2019年から2025年までの年平均成長率(CAGR)は7.6%と予想。成長の理由として、プラスチック廃棄物削減への消費者意識の高まりを挙げている。有害な化学物質などへの衛生および安全性への懸念から、オーガニックや天然成分に由来するシャンプーの需要が促進されると予測している。
粒状洗剤を製造販売している独スタートアップooohneのブース
フェアトレードの子供服店「Lysu」
ニュルンベルクでは見本市のほかに、市内中心部にあるフェアトレードの子供服店「Lysu」を訪問した。
ニュルンベルク市は搾取的な児童労働からの製品を自治体の調達に使用しないよう決定し、2010年からフェアトレードタウンの称号を保持している。2019年には、ヨーロッパ大都市圏ニュルンベルクの持続可能な調達のための協定に調印している。Lysuは、同市が公式サイトで紹介している市内フェアトレード店舗の一つだ。
(出典:Lysu)
Lysuは、2018年にNawrotzki さんとLimbrunner さんが創設した。自身も子育てをする二人は、高品質の製品を提供するブランドは存在するものの、フェアトレード・エコの店がほぼ皆無であると感じていた。子供の肌は敏感で、毎日着る服は子供たちにいいものであってほしいという思いから、Lysuを創設した。
創設者のNawrotzki さん(左)とLimbrunner(右)と家族(出典:Lysu)
二人がブランドを選ぶ基準は、「認証を受けているもの」「流行に左右されず、長く使用できるもの」「綿・絹・竹製の通気性に優れ、高品質で子供の肌によいもの」「ブランドの規模に関わらず、環境やフェアトレードをマテリアリティに掲げ、高品質の材料を探し努力しているブランド」だ。仕入れる製品は綿100%・絹100%など、モノマテリアルの製品で、ドイツの幼稚園の必需品である雨用ジャンパー・ズボン・長靴のみ100%リサイクルポリエステルを使用した製品を提供している。
Lysuが販売する衣服のブランドおよび製造地は、ドイツを中心とする欧州域内が約80%、欧州域外が約20%だ。欧州域外のブランド製品の透明性は、認証を受けている製品を取り寄せることで確保しているものの、コロナ禍における納入遅延や輸送費用などを考慮すると、ドイツまたは近隣の国から購入する方が望ましいとNawrotzki さんはみている。
子供は成長が早く、同じ大きさの服を着られる期間は短いが、Nawrotzki さんは子供服は寿命が来るまで使うのが理想と考える。Lysuの顧客は、購入した服を子供が着られなくなったら、中古品店やオンラインなどで販売しているとのこと。在庫を最小化するべく、Lysuは年に最大4回のみ注文する。それでも在庫が多くなるとセールを開催し、売れ残り(1年間で段ボール1箱分)は中古品店に寄付している。
Lysuを訪れる顧客は、「店内を見ていて楽しい」「高品質であることがわかる」「製品のにおいや質感が感じられる」などの感想を共有してくれるという。Nawrotzki さんとLimbrunner さんに、子供の肌に合う素材を相談する顧客もいる。2018年に創業したLysuは、これまでの店舗経営期間の半分がコロナ禍であったことから、今後は店舗の基盤を固め、地元の小規模店として展開していきたいとの抱負を語った。
編集後記
リサイクル性を考慮して、Lysuは仕入れる製品をモノマテリアルの製品のみと徹底。透明性が確保された高品質の製品を必要なだけ仕入れて販売し、顧客に長く製品を使ってもらい、わずかな売れ残りは寄付するというサーキュラーエコノミーに沿ったコンセプトを実践している。
Lysuが提供する製品は「かわいく」「素敵」で、店内はとてもあたたかな雰囲気で友人の家に来たような気持ちになった。こうした製品のデザインの素敵さや居心地のよさも、私たちがその店舗のコンセプトについて学び、共感して行動するきっかけとなるだろう。
大きな環境負荷が指摘されているアパレル業界のサーキュラーエコノミー移行に向けては、大量生産・大量廃棄、透明性確保、繊維の水平リサイクルなどの課題の解決が求められている。Lysuの取り組みは、このような現在のアパレル業界が抱える課題解決に向けたヒントになるはずだ。
BIOFACHでは、さまざまな規模の企業が集まり、活発に情報交換していることが印象的だった。1779年創業のリンゴ農家「DR.HÖHL´S」は有機農園の運営について、「化学肥料は使用しないので、害虫には薬草を燃やすなどして対応しています。わたしたちの農園は自然の形に近く、たくさんの動物がやってきます。年ごとにリンゴの大きさや収穫に違いはありますが、それが自然と共存することです」と笑顔で話した。
こうした話を聞くなかで、生物多様性保全や農業従事者の権利に重きを置いた農場運営、環境負荷削減など、多くの課題解決に向けて取り組む企業が、取り組むこと自体を楽しんでいる側面もあるように感じた。
近年、欧州では環境負荷削減・生物多様性保全・人権尊重に向けた規制強化が迅速に進められている。こうした持続可能性向上への取り組みが実施されるなか、多くの組織が自らの生き残りをかけて、消費者をはじめとするステークホルダーを巻き込み、熱意をもって取り組んでいる姿勢とその強みを間近に感じることができた。
【参照サイト】Lamazuna
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*文中の注釈がない写真はすべて筆者撮影