「回収されるプラごみは、ほとんどが燃やされている」
分別を心がけている人にとっては少しショックですが、本当の話です。
プラスチックのリサイクルと聞くと「ペットボトルが服になる」といったイメージを持つかもしれませんが、「モノからモノ」「モノから原料」といった道をたどるのは、回収されたプラスチックごみ(以下「プラごみ」)のうちたった25%です。63%は「サーマルリカバリー」、つまり発電などのための燃料となり、10%超は単純に廃棄されているのが現実です。
プラごみの再利用には、大きな課題をいくつも解決しなければなりません。
「最初の関門は、回収の流れを効率化すること」
そういって取り組むのは、レコテック株式会社の創業者である野崎衛さんです。
同社は2007年の創業以来、資源循環プラットフォームの構築を行ってきました。たった一人で創業し地道に開発を進めてきましたが、現在では東京都や大手企業を巻き込みながら、資源循環の大規模な流れを創り出しつつあります。
本質的なところからごみ問題にアプローチしたい、という野崎さんにお話を伺いました。
(※参照:一般社団法人プラスチック循環利用協会「2022年 プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況 マテリアルフロー図」)
(※参照:環境省「プラスチックを取り巻く国内外の状況」)
話し手:レコテック株式会社 野崎衛さん
スウェーデンの廃棄物処理設備の日本総代理店にて、あらゆる業界の廃棄物処理や資源循環に関するコンサルティングを行う。2007年にレコテックを設立。「ネイチャーポジティブな経済発展ができる社会をつくる」をビジョンに掲げ、資源循環プラットフォーム「pool」をはじめとした仕組みづくりに取り組んでいる。
目次
- レコテック創業の思い
- リサイクルに最もコストがかかる部分は物流
- 物流の課題を解決する「pool」
- 再生素材の価格と需給
- ごみの「見える化」が果たす役割
- 再生素材が活用されるためには規制も必要
- 東京都との協業と今後の展開
- 編集後記
1.レコテック創業の思い
「企業勤め時代に、名前を知っている企業のごみ置き場のほとんどを見てきました。」
何か社会課題を解決する仕事がしたい、と考えていた野崎さんですが、大量のごみを見ているうちに「なんとかしないと」というシンプルな思いが込み上げたそうです。
「自分のなかにアイデアが少しあったので、社会インフラとして形にすることでごみの問題を解決できたら」という志で起業したと、野崎さんは振り返ります。
2.リサイクルに最もコストがかかる部分は物流
リサイクルを阻む大きな要因はコストです。再利用のためにごみを種類ごとに細かく分けて回収し、不純物除去をするプロセスには膨大な手間とコストがかかるため、ほとんどがまとめて回収して燃やされるのが現状です。
野崎さんがまずメスを入れたのは、資源回収における物流の部分です。混ぜればごみ、分ければ資源とよくいわれますが、リサイクルできるレベルまでごみを細かく分けると一種類ごとの量が非常に少なくなります。
分けられた「資源」ごとに回収車を走らせ、少量ずつ集めて回ることはとても非効率です。廃棄物の物流を改善できれば、リサイクルの大きな阻害要因を取り除けると野崎さんは考えました。
3.物流の課題を解決する「pool」
レコテックは、2021年に資源循環プラットフォーム「pool」をローンチしました。活用することで、資源回収の流れを一括管理し、種類ごとにごみを可視化できるシステムです。
大規模事業者は専用の機材セット、小規模事業者ならスマホアプリを使って利用します。
POOLを使うための機材
事業者が、出すごみの種類と量を登録・回収依頼を行うと、収集車が最も効率の良いタイミングとルートで回収に来るという仕組みで、繰り返すことでデータが蓄積されます。どこでどんなごみが、どのくらい排出されているのかを見える化し、物流を組みやすくすることで効率化して、回収のコストを下げることが狙いです。レコテックはごみを出す事業者から「pool」利用料を受け取ります。
出典:レクテック
「ごみのリサイクルは人から評価されにくい部分です。経済的メリットがなければ人は動きません。リサイクルに協力した方が得というくらいコストを抑えたいと考えています。そのためにはまず、物流を徹底的に効率化する必要があります」野崎さんはそう語ります。
今の段階では、状況によっては『pool』を使った方がコストメリットがあるケースも出始めているそうです。焼却のコストが高くなってきていることも追い風です。
現在は、高島屋や大丸などの大手商業施設に「pool」を活用してもらっています。主にアパレルで発生する服を包むプラスチックなどの、比較的汚れが少なく品質が安定したプラごみのリサイクルに取り組んでいます。しかし、金銭的メリットが少ないうえ人から評価されにくい活動について、現場であるお店側の理解を得られたのでしょうか?
「その点が一番苦労したところです。最初は『それはメリットがあるのですか?』という反応が大半でした。それでも、ビジネスの可能性・社会的意義などいろんな側面から根気強く説明しました。納得して共感を得られた企業様がパートナーとなっています。」
導入が決まった店舗であっても、最初は分別が不十分なことも多く回収後に苦労したそうです。しかし、野崎さんらの啓発活動により、それも改善してきたと言います。
「『回収させていただいたプラごみでこれだけ再生素材を作れました』といったフィードバックを丁寧に行ってきました。分別の意義が理解されはじめると現場のモチベーションも上がり、とてもしっかり分別してくれるようになりました。」
現在、「poolL」を利用するアパレル店舗の洋服保護用ビニールは全て回収し、リサイクル率は100%に近いそうです。
現場の人々を信じて地道に意識を醸成してきた野崎さんは、
「丁寧に分別してもらえると、再生素材の品質も良くなります。自分たちが働きかけることで好循環が生み出せていることにやりがいを感じます」
と話します。
4.再生素材の価格と需給
再生素材のプラスチックは「PCR(post-consumer recycled resin)材」と呼ばれ、石油から作られた「バージン材」よりも高価です。近年では原油価格の高騰で、バージン材との差は1.5倍〜2倍くらいに縮まりました。
一方でPCR材は、需要に対し供給が足りません。政策で積極的に環境課題に取り組む一部の国とは違い、日本ではまだ法律によるPCR材使用の義務化や目標値はありませんが、それにも関わらずPCR材を使いたいという企業も存在します。
PCR材を使う動機の一つは、投資家をはじめとする世間からの評価です。資本市場は社会問題の影響から逃れられない、という考え方が広まり始め、「投資する責任」が問われてきています。消費者も、自身の消費行動が社会に与える影響を考え始めています。これを受けてサステナビリティに力を入れる企業も増えてきており、PCR材を活用するところも出てきています。
海外からの要請も大きな要素です。
輸出先の規制などの事情から、製造物にPCR材の使用が求められる場合があります。たとえば自動車関連の製造業などで調達に乗り出すケースが相次いでいると言います。外資系企業の中には、PCR材使用の数値目標を出す企業も現れています。PCR材の供給は、潜在的に1,000万トン以上足りないとされているそうです。
5.ごみの「見える化」が果たす役割
「pool」によるごみの見える化は、トレーサビリティを確立して一定の供給量を確保することや、品質を安定させることにも役立ちます。
「pool」に登録することで、どんなごみをどの事業者がいつ出したのかが可視化されます。こうしたデータの記録と蓄積により、PCR材の原料調達の確実性が高まります。さらに、どこから出たごみなのか明確なため、PCR材を使う側の安心も担保できると言います。
「安定して調達できない素材は、使ってもらえません。不純物が混じりやすい再生素材は『金属などが混入することはないのか』と警戒もされます。ごみを可視化することはこうした不安を解消し、PCR材を安心して使える素材にするためにも必要なのです」
と野崎さんは説明します。
6.再生素材が活用されるためには規制も必要
2022年に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(通称:プラスチック新法)」が施行され、日本でもプラごみ問題に対して対策が進められています。しかし欧州と比較すると「再生素材が使われる部分の規制が足りないと感じる」と野崎さんは言います。
「リサイクル素材を使わない企業には公共事業の入札をしない」「リサイクル素材の利用率等の目標をクリアしない場合は課税する」などの規制がかかることで、再生素材の需要が高まります。英国で施行された法律は「プラスチック製梱包材における再生プラスチックの割合を30%以上にしない場合課税する」という内容で、日本より踏み込んだ印象です。
一方で日本のプラスチック新法は、罰則規定はあるものの対象は特定プラスチック使用製品の12品目に限られ、「勧告・命令ののち、命令にも違反した場合は50万円以下の罰金」という内容にとどまります。
PCR材が日本で当たり前に使われるためには、まず規制によって利用を促進することが近道ではないかと野崎さんは考えます。
(※参照:eーGOV法令検索「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律施行令」)
(※参照:英国政府「Introduction of plastic packaging tax from April2022」)
7.東京都との協業と今後の展開
2021年に、東京都との共同プロジェクト「POOL PROJECT TOKYO」が開始されました。商業施設から発生するプラごみの循環フローを、東京都全域に拡大する内容です。開始から2年が経つ現在、進展したことを教えていただきました。
「プラごみを集め、リサイクルし、PCR材をユーザーに届けることを根気強く繰り返してきました。次第に認知度が上がり、多くの人が『循環の仕組みが本当にできそうだ』という気持ちに変化しつつあることを実感しています」
小さな積み重ねが多くの人に届いている手応えを感じる、と野崎さんは言います。
東京都である程度実績ができた今、他の自治体に取り組みを広げる準備が整いつつあります。2024年1月、全国で廃棄物に関わる活動を展開するための大臣認定が下りました。現在すでに、福岡県と千葉県にプラごみ回収の拠点を建設済みです。岐阜県でも準備をしており、大阪府での活動も考えているそうです。
一方で、課題は多く残ります。物流の次にコストがかかるのがPCR材を作る部分だそうで、野崎さんは次のように説明します。
「一見同じ透明なビニールでも、さまざまな種類があります。PCR材は、混ざる樹脂の種類が多いほど品質は劣化するため、解決する仕組みづくりが必要です。不純物を取り除く方法も試し続けています」
こうした課題に取り組みつつ、新たな素材のリサイクルにも手を広げ始めています。現在は比較的不純物や汚れの少ないプラごみを循環利用する仕組みを整えていますが、汚れのあるものなどの難易度が高い素材にも挑戦しています。
ケミカルリサイクル(プラスチックを化学的に分解し、原料に変えてリサイクルする方法)の技術を持つ石油化学系の企業と協業した施策も進めており、レコテックが集めたプラスチックのサンプルなどを使って必要な品質レベルなどを検討しています。
プラスチック以外にも循環の仕組みを作る
生ごみを循環利用する方法も模索しています。生ごみからプラスチックを作る等の技術は各社で開発が進んでいますが、技術が開発されても、ごみを効率的に集めるインフラがなければ資源の循環はうまくいきません。野崎さんは、将来的にはごみ全体に対して「pool」のようなインフラを作りたいと考えています。
2023年は、八王子市と一緒に家庭の生ごみや廃油の回収に取り組みました。資源の持ち込みに対するインセンティブ設計などを行い、効果的に資源を回収できる方法を考案しています。
poolを社会インフラにしたい
2023年は「pool」のシステムや端末が整い、本格的な展開へ大きく前進しました。足元の目標は、年間2万トンのプラスチックをリサイクルすることです。そして「pool」を社会インフラの一つにすることを、野崎さんは目指しています。
ごみの資源化サイクルは着実に広がってきています。「ごみという概念のない社会をつくる」というレコテックのビジョンは着実に、世の中に浸透してきています。
8.編集後記
「数多く見てきた中で、最も感激したのはトヨタ自動車さんのごみ置き場です」
ごみ処理は地味で光が当たらない、というお話を受け「どうしたら光が当たるようになるか」というテーマで伺っていた際に、野崎さんがおっしゃいました。
「トヨタ自動車では、ごみの担当者から『ここを誰よりもきれいに分別して管理する』という気概と誇りを感じました。そういう企業は社員全体のモチベーションが高く、そのことが製品やサービスの質にも反映されているように感じます。結果として業績も良くなっているように思います」
と続けました。
そこに明確な因果関係はありませんが、見えない部分に気を遣えているかどうかが、その人・その企業の本質を表しているような気がしてなりません。
「モノづくりの背景やそれに伴う社会課題を少し意識してモノを選んでみてほしいです。少しの意識が世の中を大きく変えることを実感しています」
と野崎さんは言います。
できることから意識するだけで、人生が少し豊かになりそうだと思いました。
※本記事は、ハーチ株式会社が運営する金融投資メディア「HEDGE GUIDE」の「都市の「資源分布」の見える化で、循環型社会が加速する。レコテック株式会社 野崎代表にインタビュー」の転載記事です。