他社より一足先に定着していた循環型の概念

自動車メーカー大手である仏ルノー・グループは、自動車業界におけるサーキュラーエコノミーの牽引者として知られるが、同社の環境への取り組みには、70年にわたる歴史がある。サーキュラーエコノミーという用語がまだ使用されていなかった時代に、古いギアボックスを解体し、部品交換を行うなど、自動車の機械部分のリマニュファクチャリングを開始。また、同社は、新車への再生材使用の開発にも注力しており、すでに30年前からプラスチックを含む二次原料を使用している。

ルノーは、サーキュラーエコノミーの世界的な推進団体で産業界にも多くのネットワークを持つエレン・マッカーサー財団の設立時からの最も古いパートナーとしても知られる。その背景には、同財団の創設者エレン・マッカーサー氏が、サーキュラーエコノミー推進のコンセプトをルノー・グループへ持ちかけ、同社がその趣旨へ賛同、設立当時からの支援パートナーとなったという経緯がある。

今回Circular Economy Hub編集部では、グループの中でサーキュラーエコノミー事業を担うRenault Environment のJean-Denis CURT氏(冒頭写真)に取材。同社のサーキュラーエコノミー取り組みへの歴史、現在の戦略と、その背景にあるルノー独自の会社理念について話を伺った。なぜルノーがこれまでサーキュラーエコノミーを牽引してきたのか、その理由が見えてくる。

Q:ルノーが、サーキュラーエコノミーへの動きに参加する直接のきっかけとなったのは?

直接のきっかけとなったのは現行のEU規制の施行です。新車基準については、車体のリサイクル可能率85%、原料回収率可能率95%が設置されました。使用済み自動車についても同様で、2015年からは加盟国ごとに平均85%のリサイクル率と95%の原料回収率が義務付けられています。当時、この目標の施行については、多数の自動車メーカーが懸念を示し、「厳しすぎる」との声が挙がりました。しかし、弊社の態度は異なりました。規制強化を一つの事業機会と捉えたのです。

弊社は、規制による新ターゲットの達成を、追加コストなしで実現しようと試みました。そのために立ち上げた意欲的なサーキュラーエコノミープロジェクトがIcarre95です。95は回収率95%の回収率ターゲットを示しています。このプロジェクトのもと、サプライヤーやリサイクラーとのパートナーシップにより、弊社はリサイクルソリューションを開発し、クローズドループのシステム構築に着手しました。加えて、2008年には、循環型事業を担う子会社Renault Environmentを設立。リサイクルにおけるバリューチェーン上の各プレーヤーとの提携により、いわゆる「ツール・ボックス」のようなサーキュラーエコノミーシステムを構築したのです。

現在のサーキュラーエコノミー戦略と取り組み

Q:ルノーの最新のサーキュラーエコノミー戦略について教えてください。

ルノーは、廃棄物ヒエラルキーに基づいたサーキュラエコノミーの概念を、自動車産業へ適用しています。弊社の基本方針は、再利用・リサイクル、自動車寿命の延長、コンポーネントのリマニュファクチャリング、EV 用電池のセカンドライフ活用、中古車の改造・改装への取り組みです。また、自動車利用の最適化も弊社のサーキュラーエコノミー戦略に含まれています。

車のライフサイクルを見ると、その使用過程において決して資源効率が良いとは言えない。たとえ、我々メーカーが資源効率の高い車を生産しても、その利用者が車を効率的に使用しているとは言えないのです。というのも、車の所有者が平均的に車を利用する時間は非常に短く、ほとんどの時間は車庫に置かれている状態です。また車の利用者数も、5人乗りの車に対し、一人か二人が乗車しているケースがほとんどです。モビリティサービスやカーシェアリングなどを導入すれば、車の使用を最適化させ、同様のモビリティを提供しながら使用する車の数を削減し、資源効率を上げることが可能となります。

Refactory(写真提供:Renault Group) 

新車への再生材の使用については、2030年までに全体で33%まで引き上げることを目標にしています。また、今後増加するEVにも対応していく必要が出てきます。EVは、ICE車(ガソリン・ディーゼル車などの内燃機関車)とは異なる新素材が多数使用されており、これまでのリサイクルとは異なる技術が必要です。また電池に関して言えば、将来的には増加しますが、しばらくは十分な量の廃電池がないため、コバルトやニッケルなどのリサイクル材などで高い再生材使用率を達成することは難しい。そのため、EVに関しては、ICE車より多少低い再生材使用率で開始することにはなりますが、EVの数の増加とともに、使用率も確実に上昇するでしょう。

サーキュラーエコノミーを産業規模へ

Q:御社が手がけるサーキュラーエコノミープロジェクトRefactoryについて教えてください。

パリの北にあるフラン(Flins)に位置するRefactoryは、業界初のモビリティに特化したサーキュラーエコノミー工場です。この施設は、弊社の最も古い工場で、これまで多数のモデルを製造してきましたが、現在は、ZOEモデルと日産の MICRAモデルの生産ラインがあります。今後車の生産は、2024年から2025年までに停止され、サーキュラーエコノミーへ特化する施設になることが決まっています。工場を閉鎖するのではなく、別の目的で稼働させるため、工場の雇用者もそのまま維持されます。

Refactory の主要活動は、中古車のリマニュファクチャリングです。リマニュファクチャリングラインはすでに開始しており、自動車の組み立てラインのような仕組みになっています。年間45,000台の中古車を扱い、高基準に適合した改装を行います。仕上がった車は、その場ですぐに写真撮影され、オンライン上に掲載されて販売が可能となります。

コロナ禍で、欧州では中古車の販売が急上昇しました。現在は、半導体の不足で新車の製造に大きな影響が出ており、そのため中古車の販売数が増加をたどっています。このような状況を見ても、自動車のリマニュファクチャリングラインへ投資は、サステナブルなだけでなく、事業上でも非常に有益なのです。

Re-Factory(写真提供:Renault Group) 

全部で4件あるRe-Factoryのクラスターは、まず中古車のリマニュファクチャリングを担うRe-Trofit、主に電池によるエネルギー貯蔵システムや水素燃料の開発を行うRe-Energy、これまでの自動車リサイクル事業に加え、電子部品のリサイクルへの拡大と原料回収を担うRe-Cycle、スタートアップ、研究機関・大学・政府機関などとの提携より、サーキュラーエコノミーに従事する人材育成を担うRe-Startから構成されています。

Q:循環性とコスト効率の問題は、サーキュラーエコノミー推進における障壁の一つとなっています。この点について、ルノーはどのように対応しているのでしょうか?ルノーは、循環型を自動車産業へ持ち込んだ先駆者として、サーキュラーエコノミーをさらに推進する事業インフラが構築されているため、安定した経済効果が期待できるのでしょうか?

弊社は、コスト効率の高い自動車リマニュファクチャリングラインをすでに開発しています。電池についても、同様のシステムを開発する必要があると考えています。現在は、廃電池の量はまだ少ないため高価値となっています。セカンドライフに活用される電池は、現在は需要が高いため、再利用を手動で行うことが可能です。しかし、今後量が増えるに従い価格は下がります。そのため、より効率的なシステムへの改善が必要です。例えば、再利用過程で必要な電池の診断ですが、弊社では、そのシステムを改善、以前より所要時間を短縮し、コストを下げることに成功しています。

Refactoryは、まさにサーキュラーエコノミーに必要な事業インフラの効率化を担うものです。これまでのサーキュラーエコノミーへの取り組みは、手工業がほとんどでした。これを、我々は、文字通り産業規模の「サーキュラーエコノミー工場」に変換するのです。 

すでに一掃された二次原料使用への偏見

Q:クローズド・ループシステムの開発において、ルノーは、車の修理へ中古部品を提供し、また再生材を新車の製造に使用しており、これを今後さらに増やしていくターゲットを設定しています。日本では、再生材や中古部品の使用には抵抗があるメーカーが多く、消費者もそれを好まない傾向があります。ルノーが同様の問題に直面した経験は?

弊社のサプライヤーからは、抵抗があるという声はありました。二次原料では、品質に不安が残ると言うのです。この問題を解決するため、弊社はサプライヤーに選択の余地を与えない系統的な方法で対応しました。再生材を使用できる部分をリスト化し、サプライヤーに対し、「この部分は、再生材を使えるので、バージン材を使わないように」という指示を出したのです。加えて、なぜ再生材を使う必要があるのかその理由づけを行いました。

一方で、サプライヤー自身の考え方も進化する傾向にあります。一年前に、弊社がRefactoryプロジェクトを発表した際、多数のサプライヤーが興味を持ち、プロジェクトへの参加を希望しました。そして、今では再生材の使用を拡大していくことを望んでいます。変化は急速に訪れています。

消費者については、ネガティブな反響はありませんでした。反対に、現在欧州の消費者は、サステナブルな製品を求めており、中古部品や再生材の使用を好む傾向にあります。

ロシアでも同様です。数十年前に私がこの国を訪れた際は、環境への関心は皆無だという印象を受けました。しかし、近年弊社が依頼した調査によると、現在ロシアの人々は、車にサステナブルな原料や再生材が使用されていることに重点を置いていることが判明し、その変化に驚きました。アジアも、このトレンドにすぐに追いつくはずです。

欧州では、再生材や中古品は決してネガティブなイメージではありません。今後は、マーケティング手法次第だと思います。

ルノーの会社理念、あらゆる障壁を事業機会へ

Q:近年欧州の自動車メーカーは、サーキュラーエコノミーを事業戦略に同化させる動きがありますが 欧州グリーンディール/循環型経済行動計画に基づき、強化されているEU規制への対応に迫られた結果のように思われます。現在の傾向以前から、サーキュラーエコノミーへの取り組みを始めているルノーのインセンティブは何だったのでしょうか?

サステナビリティ戦略と事業機会の両方だと言えます。サーキュラーエコノミーの考えはすでに20年前から存在しています。いずれは規制されることも明らかでした。事業機会は、「遅かれ早かれ対応しなければならない」という考えから生まれたものです。規制を懸念し、強制的に対応を迫られる時を待っているよりは、これを一つの事業機会として捉えることを弊社は選択しました。

また、サーキュラーエコノミーへの取り組みは、企業イメージ向上にも貢献します。もちろん、過去10年は弊社の戦略も規制によって牽引されました。規制による障壁に加え、環境問題への対応による障壁、自動車メーカーにとっては非常に重要な原材料の供給量とコストにおける障壁など、外部からのあらゆる障壁を先見の目を持って「機会」に変える。これは、ルノー独自の姿勢だと思います。

今後、ルノーは、サーキュラーエコノミーの規模を産業規模へ拡大していきます。思えば20年前は、環境対策は、まだ事業ではなく「傍で考える問題」でした。これが10年前から、「副業的な事業」に変化しており、今から2030年までには、「主要事業」へ移行すると思います。

取材協力

Mr. Jean-Denis CURT
Group Renault
Responsable du pole économie circulaire
Direction Stratégie Environnement

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