2021年5月13日、エレン・マッカーサー財団の公式サイトにショートドキュメンタリー「サンパウロにおける食の循環型経済」が公開された。

ブラジルのサンパウロは2021年4月、エレン・マッカーサー財団初の戦略パートナー都市として認定されたばかり。今回のショートドキュメンタリーはそれに続く形で、サンパウロにおけるフードシステムの課題に対して、農家やレストランのシェフなどの食の関係者が現在どのようなアクションを起こしているのかを紹介している。

ブラジル最大の都市であるサンパウロは、国のGDPの18%を占める経済の中心地だ。加えて、この都市には23,000ものレストランがあり、美食の地として世界に認められている。

一方で、都市のスプロール現象(※)により、サンパウロは深刻な社会的不平等の課題を抱えている。食の流通経路が都市の中心部に集結していることで、都市の周辺地では典型的なフードデザート(食の砂漠)ができており、400万人もの人々が社会的脆弱性の高い状態で生活していると推定されているのだ。食品廃棄物の量も非常に多く、都市の廃棄物の半分近くを占めている。さらに、サンパウロ最大の食品流通センターに入荷する食品の情報から、サンパウロの食料供給が市街に大きく依存していることが明らかになっている。これは災害やストライキなどの非常時に特に大きな問題を生むと懸念されており、都市全体の30%を占める周辺の農家の貧困の原因にもなっている。

※スプロール現象:都市計画がほとんど実行されなかった結果として、住宅、商業開発、道路などが、都市周縁の広範な地帯に無秩序に拡大すること、加えてそうした現象が社会環境にもたらす影響のこと。

近郊農家に再生農業を指導

このような課題から、サンパウロはフードシステム全体を見直し、より安全で分配的、包括的な循環型の仕組みに転換していく必要に迫られている。

サンパウロではこれらの問題に対し、都市周辺の農村地域へ再生農業の知見を持つアドバイザーを派遣し、これまでの単一的な農業から、「アグロエコロジー農業」への移行を手伝う「Connect the dots project」というプロジェクトを行っている。輪作を行い、人工肥料ではなく有機肥料で作物を育てるこの新しい農業では、CO2排出量や水の汚染を減らすことができるため、農家の人の健康や環境、さらには食べる人にもメリットを生み出せる。

食品廃棄物を堆肥化するメリット

動画では、サンパウロの都市内の堆肥化施設は、循環型フードシステムの基礎の部分であると説明されている。市内の5箇所の堆肥化施設では、市内で出た食品廃棄物を、間伐で出た木くずと混ぜて堆肥化させ、栄養のある土を都市周辺の農家に戻している。これらの堆肥化施設では、サンパウロ市の食品市場の20%から出る食品廃棄物を処理することができ、これにより食品廃棄物が埋め立てられた場合と比べて市内のCO2排出削減量を約8倍にすることができる。また、食品廃棄物の4分の1を堆肥化した場合、4000万ドルを節約できるとしている。

動画の中では他にも、農家でその週に栽培された野菜をベースにメニューを考案するレストランや、家族農家が生産する無農薬野菜を使用した料理を配達するフードデリバリーなどが紹介されている。また、サンパウロでは街の学生に200万食の給食を提供しており、2026年までにそれらを100%オーガニックにすることを目指している。この政策は、サンパウロの農村地域の一つであるパレルヘイロスという農村地域に、再生農業や無農薬野菜の安定的な需要をもたらしているという。

このような都市全体のフードシステムの循環型経済への移行は、現在と比較して、毎年1億4,000万ドル(約152億2640万円)以上の経済的、環境的、健康的な利益を生むと推定されている。

本動画は、食品廃棄物の非常に多く、同時に食への関心の高い人が多い日本にとっても、参考にできる部分の多い内容だと感じる。サンパウロの今後の取り組みにも、引き続き注目していきたい。

【参照サイト】New mini-documentary showcases São Paulo’s circular food system transformation
【参照サイト】CITIES AND CIRCULAR ECONOMY FOR FOOD São Paulo,Brazil
【参照サイト】The Foundation welcomes São Paulo as a Strategic Partner City
【関連記事】サンパウロ市とニューヨーク市、エレン・マッカーサー財団の戦略パートナー都市に加盟