経済産業省はこのほど、報告書「ファッションの未来に関する報告書」を発表した。同省は2021年11月、有識者会議「これからのファッションを考える研究会~ファッション未来研究会~」を設置して計5回議論を重ね、その結果を同報告書として取りまとめた。

近年ファッション業界を取り巻く環境において、消費の多様化・気候変動などの社会課題に声を上げる新たな消費者層の台頭・デジタルファッションなど、さまざまな変化が生じていると同省はみている。こうした状況に対し、新しいサービスモデルの出現・リセール市場の活性化・デジタル技術を活用した新たな市場の創造・バイオ技術の活用など、国内外でファッションの「未来」の兆しが出てきているとしている。

このような変化を捉え、日本の芸術文化・伝統工芸・繊維産地の可能性・デジタル技術・バイオ技術を活用して、日本がファッションの「未来」づくりを牽引し、ファッション領域を通じて持続的な価値を創造していくために、経産省は同研究会を設置した。京都工芸繊維大学KYOTO Design Labの水野大二郎特任教授を座長とする同研究会は、ファッションデザイナーのコシノヒロコ氏や株式会社ZOZO NEXT代表取締役の金山裕樹氏など34名の委員で構成される。

同報告書は、ファッション業界が直面する課題とファッションの「未来」の創造の仕方を取りまとめた。望ましい未来のファッションは、「循環的かつ高い透明性を有し、デジタルとリアルを行き来しながら新たな価値を創出する」と同研究会は定義している。「人と自然に調和的なファッション」「テクノロジーで変わるファッション」「新たな価値を生み出すファッション」という3つの視点から、望ましい未来のファッションを描くための重要事項を「10のキーワード」として以下のようにまとめ、推奨する取り組みなどを詳説した。

人と自然に調和的なファッション

1. 需給ギャップを縮小させるビジネスモデル:必要なものを、必要なだけ。その当たり前が未来を創る。

需要予測や受注生産による生産量の調整、カスタマイゼーション、パーソナライゼーション、シェアリングエコノミー、サブスクリプション

2. 良いモノを長く楽しむファッション文化:ゆずる、なおす、つかいつづける。

リセール市場の拡大、タイムレス・シーズンレスなモノの価値、アップサイクルで長く楽しむ

3. 循環システムの構築:服へのリサイクルは、まだ1%。

ケミカルリサイクル、バイオマテリアル、資源循環に向けて

テクノロジーで変わるファッション

4. 質量のないデジタルファッション:性別や年齢から自由になる。私らしさを表現できる新しい手段。

新市場としての仮想空間、SNSでの自己表現、XR等テクノロジーの活用による新しいサービス

5. 創造性の発揮を支援するテクノロジーの台頭:誰もが、デザイナーになれる時代の到来。

デジタル空間における自由な創造活動、創造性の民主化、一層高まる本物の価値

6. 創造社会の新しい市場ルール:もう一度、「ファッションで稼ぐ」を考えよう。

NFTを活用した収益多元化、リセール市場における収益分配、トレーサビリティの確保

新たな価値を生み出すファッション

7. ラグジュアリー概念のアップデート:ローカルから生まれる、新ラグジュアリーとは?

ラグジュアリーの現状、これからのラグジュアリー『地域(ローカル)に伝承される固有の文化等の多様性、個人のクリエイティビティに基づく唯一性(アート)』、人や自然と調和的であるという社会貢献的な利他性、日本発のラグジュアリー創出に向けて

8. これからの海外需要獲得:日本のクリエイティブを、世界に広げていく方法

クリエイター人材(アーティスト、デザイナー等)、日本の有する伝統技術・技法、クリエイター人材と伝統の協業

9. ビジネスで留意すべきファッションロー:グローバル化とデジタル化にむけた新・基礎知識。

海外市場(知的財産、契約交渉・消費者契約法・VAT等、サステナビリティ)、デジタルファッション市場、文明の盗用

10. ファッションの未来に求められる人材論:イノベーションは「人」が生み出す。

求められる人材像、人材教育

ファッション業界が現在抱える問題は、大量生産・大量廃棄のリニア型構造による高い環境負荷、ファストファッション台頭などによる製品価格の低下、サプライチェーンのトレーサビリティ改善の必要性など幅広い。同報告書は、こうした問題を改善し、望ましいファッションの未来創造に向けた提案を示した。業界の多くのステークホルダーと政策立案者が同報告書をはじめとするさまざまな提案を参考にし、日本が世界のサステナブルファッションを牽引していくことが期待される。

【プレスリリース】「ファッションの未来に関する報告書」を取りまとめました
【参照レポート】ファッションの未来に関する報告書
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