新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に見舞われたイタリア・ミラノ市は、イタリア国内でもっとも深刻な打撃を受けている都市だ。短期的には公共施設の閉鎖や市民サービスのオンライン化をはじめとする緊急対策に取り組む一方で、中長期的には流行終息後を見据えて都市のスマート化、サステナブル化に向けた都市政策をデザインし始めている。現在の異常な状態が続くことが構造的な変化を引き起こし、新しい状態になる「ニューノーマル」に向けて、ミラノ市はグリーンリカバリーも柱に据えながら動き出した。

同市は、ヨーロッパ有数の大気汚染問題の深刻な街として知られる。しかし、ロックダウン(都市封鎖)に伴って市内の渋滞が30-75%減と大幅に緩和されるとともに、大気汚染も大幅に改善した。こうした経緯も踏まえ、ロックダウン解除後にはミラノの中でも多くの人が集まるブエノスアイレス通りを中心に、今夏にも距離にして約35kmにわたって歩道・自転車道が拡張されることになった。

同市は新型コロナウイルスの流行以前から、大気汚染の改善と気候変動への対応として2030年までに300万本を植樹する計画だった。これに関しても、新型コロナまん延を受けて、感染症予防に有効とされる社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)を確保するため、1メートルおきに植樹を行うことにしたという。

さらに、リモートワーク推進のためのデジタルインフラの整備とともに、環境に配慮されたウェイファインディングや再生可能エネルギー・省エネルギーへの投資を増やすことを、流行終息後の経済対策に位置づけようともしている。同市のチーフ・レジリエンス・オフィサーのPiero Pelizzaro氏は、グローバル・レジリエントシティ・ネットワーク(GRCN)と世界銀行が開催したウェビナーの中で「われわれは、移動のあり方や経済のあり方を再考する必要がある」と指摘。その上で、再生可能エネルギーや省エネルギーへの投資を大幅に拡充すべきかつてない機会がやってきているとして、新型コロナウイルス終息後の都市計画や経済対策にグリーンリカバリーを盛り込む姿勢を鮮明にしている。

交通政策関連では同様の動きもある。先日Circular Economy Hubで取り上げた英政府のサイクリングとウォーキング推進を含む交通政策もその一つだ。さらに、欧州の六つのサイクリング関連の協会が、欧州委員会や欧州議会に対して、グリーンリカバリーの施策の一つにサイクリング推進への投資を促す要望書を提出したことも記憶に新しい。これからの都市政策にはパンデミックへの対応を織り込んだ持続可能なまちづくりの推進が求められることを示唆している。

【参考記事】Plan zero: Milan prepares for the post-pandemic ‘new normal’
【参考記事】Milan announces ambitious scheme to reduce car use after lockdown
【参考】Investing in cycling to fast track the EU green recovery and EU Green Deal 
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