東北大学大学院生命科学研究科と佐賀県唐津市は7月17日、地域のネイチャーポジティブ実現に向けた連携協定を締結した。東北大学が同22日に発表した。本協定は、水中や土壌に残された生物のDNAの痕跡を分析する「環境DNA(eDNA)」調査などの科学的知見を活用し、豊かな自然資本の価値を可視化することで、人と自然が共生する持続可能な社会モデルの構築を目指すものだ。

本協定は、多様な自然環境と景勝に恵まれた唐津市の里海や、歴史・文化と深く結びついた里山・里地の自然資本を守り活かしながら、自然と調和した地域づくりと持続可能な経済社会のモデルを構築することを目的としている。協力事項として、以下の6項目を掲げた。

  • 里地・里山・里海の価値の再認識と持続的な利活用
  • 地域における生物多様性の保全や増進活動の促進
  • 生物多様性や自然資本の価値に関する情報発信やサービス・ノウハウ等の共有
  • 自然資本を活用した新たな事業化やビジネスマッチング、ビジネスモデルの創出促進
  • 両者が有する知的資源、人的資源及び物的資源の活用
  • その他、本協定の目的に資すると双方が認める事項

今回の連携の背景には、2025年3月に唐津市が主催した「Nature Positive Forum 九州 #1 KARATSU」がある。このフォーラムで同市は、佐賀県内の自治体として初めて「ネイチャーポジティブ宣言」を表明。共催した東北大学ネイチャーポジティブ発展社会実現拠点(NP拠点)との間で、地域と学術機関が協働する重要性が確認され、今回の協定締結に至った。

ネイチャーポジティブとは、2030年までに生物多様性の損失を止め、回復軌道に乗せるという世界的な目標だ。これは、資源を再生・回復させながら経済活動を行うサーキュラーエコノミーの原則、特に農業や林業など生物資源の再生を目指す「生物的サイクル」と深く関連する。唐津市は2024年度から環境省の「地域循環共生圏」の認定も受けており、今回の連携は、自然資本を基盤とした地域内での資源循環を具体化する動きといえる。

今後の展開として、唐津市内で既に始まっているネイチャーポジティブ関連の取り組みに、科学的視点を導入し発展させる。具体例として、市内の漁業者である袈裟丸水産が進める持続可能な水産業を目指した藻場造成の取り組みが挙げられる。この活動に対し、東北大学NP拠点の知見を活かし、環境DNA調査や科学的モニタリングの導入を検討。環境DNA技術は、生物を直接捕獲することなく水や土壌のサンプルから生息する生物種を特定できるため、生物多様性の変化を低コストかつ定量的に「見える化」できる。これにより、保全活動の効果を客観的に評価し、持続可能性を高めるとともに、他地域へ展開可能な先進的モデルケースの創出を目指す。

東北大学NP拠点の拠点長である近藤倫生教授は、「唐津市の豊かな自然と未来を見据えたまちづくりに参画できることを大変嬉しく思う。我々NP拠点は、環境DNAなどの先端技術や人材育成を通じて、地域住民と共に自然と人が調和する社会の実現を目指す。科学的アプローチだけでなく、人々のつながりを重視し、全国に発信できる先進的なネイチャーポジティブのモデルを唐津市と築いていきたい」とコメントした。

唐津市の峰達郎市長は、「今回の連携協定は、科学的根拠に基づくネイチャーポジティブな地域づくりの新たな一歩となる。環境DNAを活用した自然資本の可視化や人材育成を通じて、行政、研究機関、市民の知見を深め、持続可能な共生社会を共に創出する。大学と地域が学術と実践を融合させ、唐津から全国に広がるモデルを構築していく」と述べた。

【プレスリリース】東北大学大学院生命科学研究科と唐津市がネイチャーポジティブの実現に向けて連携協定を締結 ~環境DNA調査等を活用し、人と自然が育み合う社会を実現~
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