アムステルダムには、本来捨てられるはずの廃棄物を、別の新しい製品にアップグレードして生まれ変わらせるアップサイクルのアイデアを取り入れたショップやビジネスモデルが多く存在する。しかも、そのデザイン性の高さは目を見張るものがある。

今回は、アムステルダムで出会ったアップサイクルのアイデアを8つのエッセンスとしてまとめた。廃棄物をアップサイクルする柔軟な考え方や技術力に注目していただきたい。

思いの詰まった、アップサイクルのプロダクトが集結

01.新しい視点に気づかされる、アップサイクル専門店The Upcycle
The Upcycle
The Upcycle店内

レッドライト・ディストリクト(飾り窓地区)からほど近い場所にある、アップサイクルの製品だけを置いた専門店だ。廃棄物からインスピレーションを受けて価値あるものを作り出すクリエイターが運営するこの店には、自転車輪のゴム部分から作ったベルトや、バックなど、カラフルでユニークな商品が所狭しに置かれていた。

The Upcycle
このベルトは自転車のチューブからできている

「使用済みの素材を機能性とデザイン性の高い商品に生まれ変わらせることで、普段身の回りにある資源に対する見方を変える視点を提供したい」(The Upcycle HPより)

身の回りにあるものにこんな活用法があったかと感心させられるような商品ばかりで、アイデアが溢れていた。

02.自転車のアップサイクル。さらに人は、リサイクル。Recycle

Recycle
アムステルダムと言えば自転車の街というほど、自転車愛好家が多い。自転車屋が多い中で、この自転車屋Recycleは思いのある自転車メーカーを集めて商品を置く自転車のセレクトショップだ。木材をアップサイクルして作られた自転車も販売されていた。

セレクトショップとしての役割だけでなく、自転車の修理屋としての機能も果たし、メンタルヘルスの問題を抱える個人や障碍者に自転車修理の方法を教えて雇用を生み出すこともしている。スタッフは「人がこの職場で再生する。人のリサイクルだ」と嬉しそうに話していた。

扱う商材のアップサイクルだけでなく、雇用する人のサポートにも気遣いを忘れないインクルーシブさがこの店を持続可能にする秘訣なのかもしれない。

03.アップサイクルクリエイターがトライ&エラーを繰り返す場The Makers Store

The makers store
アムステルダムを中心に活躍するクリエイターが作る、サステナビリティをテーマとした製品やアップサイクルの製品が集まったセレクトショップ。羽織など、日本文化から影響を受けている商品や、 QRコードを読み取ると素材として使用した木が何年に伐採されたかがわかるカッティングボード(まな板)もある。

ただ販売するだけでなく、プロダクト開発やマーケティングに関するアドバイスもしている。日曜日には手作り市が開催され、テストマーケティングが行われている。

難民ジャケットをアップサイクルした商品も

トライ&エラーに優しい街であることもアムステルダムがサーキュラーエコノミー先進地域と呼ばれる理由の一つだ。

ヒットの卵を生みだすヒントが、アップサイクル。

04.サステナブルなアイデアの発信地Fashion For Good Experience

https://ideasforgood.jp/2020/01/31/fashion-for-good-museum/
アムステルダム中心地に世界初のサステナブルファッションミュージアムがある。衣服の歴史やストーリーを紐解き、サステナブルな衣服の消費に向けて行動変革を促す施設だ。

館内にはファストファッションの歴史や現在出品されているサステナブルファッションの商品が展示されているが、ここで注目したいのはまだ商業化されていないユニークな繊維素材や衣服の再利用サービスなど、サステナブルファッションに向けたアイデアも閲覧できることだ。キノコの菌糸体で作った衣服の展示をはじめ、アップサイクル関連のアイデアが多数ある。無数に並ぶ製品アイデアを視察しに、大企業の商品開発担当が訪れることもあるという。

2階に展示されたイノベーションの数々
2階に展示されたイノベーションの数々

Fashion For Goodはファッションの消費者を啓蒙する施設である一方、1つのメーカーでは達成できないサステナブルファッションをパートナーシップの力で実現するプラットフォームとしての役割を果たす。多様な人が集まる場所だからこそサステナビリティに向けたアイデアの発信地として機能している。

05.食品のアップサイクル最前線に立つInstockから学ぶ食の価値

https://ideasforgood.jp/2020/02/06/instock/
アムスルダムには、一流シェフによる料理を格安で食べることができるレストランがある。使われている素材は、大手スーパーチェーン「アルバートハイン」などの賞味期限が短い・見た目が良くないといった理由で廃棄される予定だった食品だ。

インストックは2014年にポップアップストアから始まり、現在は100人以上の従業員を雇うまでに成長した。オープン当初は毎朝どんな食材が届くか把握できなかったが、集まる食材が増えてきた2017年10月には大型倉庫を構えている。これまで集まってきた廃棄食材データからどんな食品が届くかを推測し、レシピのデータベースを作成することで効率化を図っているという。

インストックの料理
インストックの料理

届く食材やインストック内で余った食材に応じて柔軟にメニューを考案するインストックのシェフはクリエイティビティ(創造性)が常に要求される。さらに食に関する情報公開も徹底している点にも注目だ。廃棄食材を「価値」に変えるために必要な試行錯誤がインストックから垣間見える。

人が集うきっかけを作るアップサイクル

06.汚染地域を価値ある場所へアップサイクルDe Ceuvel

https://ideasforgood.jp/2020/01/28/de-ceuvel/
もともと造船所だったアムステルダム北部にある地区は、その役割で使われなくなるにつれ、船から流れた油等で汚染されていた。この場所を再開発しようと、政府が民間企業にアイデアを募り、現在は「サーキュラーエコノミーの実験区」として生まれ変わっている。

汚染地域であった当時からあるハウスボートはオフィスにアップサイクルされたり、土地の毒素を抜く植物が植えられたりといった、この場所では地域の循環システムを構築するさまざまなアイデアが実践されている。多くの視察団が世界中からこの地に訪れており、このオフィスに入居するスタートアップは自然と注目を集めるため、このオフィスへの入居が会社にとって価値になっているという。

De Ceuvel
© MARTIJN VAN WIJK02

汚染地域を安全な場所にするだけでなく、「その地域にいることが価値」にさせたDe Ceuvel。急速な経済発展の代償となった地域が世界中に点在する中で、大きな希望になることは間違いない。

07.アップサイクルをコーポレートコミュニケーションに使うCIRCL

https://ideasforgood.jp/2020/01/27/circl/
オランダ三大銀行のうちの一つ、ABN AMROは自社オフィスの目の前に、第二のオフィス兼地域住民の憩いの場「CIRCL(サークル)」を建設した。この複合施設にはABN AMROが掲げる「サステナビリティへの取り組み」「親近感」「透明性」「訪問者と学びあう姿勢」といったコンセプトそれぞれをCIRCLが体現するアイデアの宝庫だ。

例えば、CIRCLで使われている建材はCIRCLが解体されることを見込んで、再利用できるものを使用している。地下一階にあるサステナビリティヘルプデスク(相談室)はガラス張りになっており、気軽に話しやすい雰囲気になっている。

食材は発酵させて保存。昼に提供した茶葉はとっておき、夜にルーフトップバーで酒の味付けに使う
食材は発酵させて保存。昼に提供した茶葉はとっておき、夜にルーフトップバーで酒の味付けに使う

施設を通じた地域住民とのコーポレートコミュニケーションという観点はとても新しく、コーポレートサイトに企業のコンセプトを伝える文言を載せるよりも感覚として伝わりやすい設計だ。

08.自らアップサイクルを生み出す一人になる。Plastic Whale

https://ideasforgood.jp/2018/04/18/amsterdam-plastic-fishing/
※近日レポート記事公開予定

アムステルダムは運河の街として知られるが、プラスチックごみのポイ捨てが絶えなかった。そこでいま、アムステルダムで人気の体験ツアーがある。それが世界初のプラスチック釣り専門会社Plastic Whaleだ。このボートに乗りながらプラスチックごみを網ですくうツアーは、なかなか予約が取れない人気のコンテンツとなっている。

同社はツアーを通して運河からプラスチックごみを除去するだけにとどまらず、回収したプラスチックごみをデザイン性の高いオフィス家具に生まれ変わらせるアップサイクルを実現している。

地元住民や観光客が、楽しくアップサイクルに携わることができ、オフィス家具生産者の一員になることができるという仕組みが興味深い。

編集後記

まとめてみると、アップサイクルとはハードルが高くて抽象的なものではなく、発想の転換だということがわかる。

形や質が均一ではない廃棄予定のものを活かすという点では、アップサイクルとは「実験」であるため、トライアンドエラーを繰り返す生産者やクリエイターに対する消費者の寛容さが印象深い。もともと廃棄予定のものだったことを感じさせない商品のデザイン性が高く、これは廃棄前の素材のストーリーがあるからこそ美しく見えるのかもしれない。

また、サステナブルファッションのミュージアムFashion for Goodやクリエイターが集う店舗The Maker Storeに見られるように、アップサイクルの実現に向けて同業者や異業種問わず手を取り合うようなプラットフォームの発達も感じられた。

消費者、事業者も相互に意見を交換しながら持続可能な社会にむけて同じ方向を向く姿勢には、私たちも見習うところがたくさんある。

【関連ページ】サーキュラーエコノミー

※本記事は、ハーチ株式会社が運営する「IDEAS FOR GOOD」からの転載記事となります。