オランダ・アムステルダムに本拠を置くサーキュラーエコノミー推進機関Circle Economyはこのほど、サーキュラーエコノミー(CE)の推進と社会環境面でのレジリエンス向上との関係性について構造的に分析した初のレポートを公表した。

新型コロナウイルスの流行で社会、経済システムが世界的に混乱する中、いわゆる「Building back better(より良い復興)」を目指す過程で、CEの推進を通じたシステムのレジリエンス向上の必要性が指摘されている。本レポートは、CEとレジリエンスの関係性について必要な分析的視点を提供している一方で、効果的に運用しなければいくつかのCEに関わる傾向がレジリエンスを弱めることにつながる可能性があると警告する。政府も企業もレジリエンス的思考をCE移行戦略へと慎重に統合すべきとしている。

レジリエンスを高める2つのCEとは?

レジリエンスを構築する上で、特に重要なCEにおける実践が2つある。二次的、再生資源の使用は、原材料の多様化という面で産業界に寄与するものだ。また、CEの展開においてトレンドとなっているバリューチェーンの分散化も、地球規模のショックへの脆弱性を低減し、ローカル化を推進するため、機敏な意思決定を可能にする。

レジリエンスの更なる向上に必要なCEへの転換における要素とは?

CEの成功には、労働市場の変化も欠かせない。とりわけ、新たなサービスへの転換に必要な変換可能なスキルの習得は今度求められるであろう。また、求められるスキルが絶え間なく変化する時代にあっては、生涯にわたって学ぶ姿勢も欠かせない。労働市場におけるこれら2つの要素は、変化に機敏に対応できる流動性の高い人材にとって、ショックに直面しても変化に対応できる可能性を高める。

レジリエンスを弱めるCEのトレンドとは?

一方、CEを適切に実践しなければレジリエンスを弱めてしまいかねない2つの条件があるとレポートは言及している。一つは、今回の新型コロナウイルス感染症の流行のように通常の活動が阻害されるタイミングで資源効率を高める取り組みを行ってしまうことで、逆効果になる可能性があるという点だ。余剰を排するデザインによって、サーキュラー化戦略はサプライチェーンが寸断された時の緩衝となる原料や製品の量を抑制してしまう。もう一つは、いわゆるピアツーピア(P2P)マーケットや修理やメンテナンスなどのBtoCのサービス業、オンデマンド製造業の台頭に伴って増える柔軟な労働契約によって、労働者が脆弱な状態に陥る可能性が高まっている。

企業と政府が取り組むべき8つのこと

こうした考察に基づき、レポートは企業と政府などがサーキュラーエコノミーへの転換を推進すると同時にレジリエンスを高めるために行うべき8つの取り組みを紹介している。

1)余剰と効率の効果的なバランスを探る

資源効率の追求によってレジリエンスを犠牲にしないために、企業は余剰と効率との効果的なバランスを追求することが求められる。これには、不足から余剰へと考え方を変えたり、代替できるものや入手しやすい資源を探したり、部品の標準化を図ることなどが必要だ。

政府はCEのバリューチェーンを支えるために、地域や国同士、さらには産業間のネットワークを構築し、イノベーションや支援策によって必要なインフラ構築を支援することが求められる。企業にも政府にも求められることとしては、単なる効率性だけでなくレジリエンスも考慮に入れた評価軸を開発する必要がある。

2)資源・情報を共有する

企業市民としての共同責任を果たす文化を構築するため、企業はCEの推進に必要なデータや情報、好事例を公開すべきだ。政府は、複数の階層におけるサーキュラーエコノミーの政策フレームワークを、幅広い社会的ゴールや地域主体の自治の強化につながるよう構築することが求められる。

3)資源を再生する

企業は、操業時における再生可能エネルギーの使用を優先すべきだ。また、再生可能な素材についての理解のほか、代替原料供給が必要になった時でも事業の可能性を拡張できるよう、廃棄物ヒエラルキーにおける戦略に基づいた収入構造を追求する必要がある。

政府はCE推進策の一環として、資源再生に向けた支援策を講じるべきだ。また、再生可能エネルギー業界が人材不足に陥ることのないよう、同業界が魅力ある業界となるために人材の流入を促す取り組みも必要だ。

4)分散型ガバナンスを推進する

資源や廃棄物から組織運営に至るまで、一カ所集中型から地域分散型に移行するのが望ましい。企業は、保有する資源管理のための分散型ガバナンスを構築すべきだ。また、あらゆる場所で可能な限り短距離で近接したサプライチェーンの構築に努めるべきで、そのためにはパートナーやネットワークとの信頼関係の維持が欠かせない。政府は、エネルギーや水、廃棄物、製造業、食品流通システムにおいて分散型によるCEを推進すべきだ。

5)スキル移管を促進する

CEへの移行には、例えば製品のサービス化のように新たに増えるビジネスニーズに対応できるような一連の移管可能なスキル(顧客サービス業務、問題解決、クリティカルシンキング、リスク評価など)が求められる。こうしたスキルを持った労働力の養成は、レジリエンスの向上には欠かせない。企業はスキルに基づいた労働市場の形成を追求すべきで、政府はこうした労働市場に必要とされるスキル証明を開発したり、学習プログラムを開発する教育機関を支援したりすることが求められる。

6)生涯にわたって学び続けられる環境整備

CEへの移行が継続的に進めば、関連するスキルも継続的に求められる。このため、生涯にわたって学び続ける文化をCEへの移行と並行して広げていかなければならない。そうすれば、たとえ現在の教育システムがリニア型を前提にしたものであったとしても、人々は新たなスキルを身につけ、より柔軟な形で違ったキャリアパスを追求できる。企業は、生涯にわたる学びとそれに伴うキャリアパスを価値ある選択肢として提示する文化を醸成すべきだ。政府は、生涯にわたる学びを促進する教育機関等を支援するとともに、卒業見込み者や現在の労働者に対して多様なキャリアパスについて啓発する役割がある。教育機関は、カスタマイズ可能な学習経路や革新的な学習方法の開発に取り組むべきだ。

7)柔軟な労働契約

CEのビジネスモデルとして、いわゆるピアツーピア(P2P)マーケットやギグエコノミーの台頭に伴って柔軟な労働契約が増えていることで、BtoCのサービス業だけでなく、伝統的な製造業においても労働者が脆弱な状態に陥る可能性が高まっている。企業は政府や労働組合とともに、こうした状況を回避するための労働者との合意に基づいた労働契約のあり方を創り出すことが求められる。政府は、新たに生まれている労働契約がCE、とりわけプラットフォーム経済システムや建設、製造業においてどのように作用しているのか調査することに投資すべきだ。

8)社会的影響を考慮する

CEは経済的、環境的影響に注目する傾向がある一方で、社会的影響、とりわけ変化に時間を要する法的システムや行動規範、価値観などへの影響をもっと考慮しなければならない。企業は、CEにおいて変化に時間を要する人材育成や労働慣行、企業文化のような社会的影響をモニタリングすることが求められる。政府は、CEがもたらす社会的影響についての調査に投資すべきだ。

サーキュラーエコノミーがレジリエンスに及ぼす影響ー3つの実例より

本レポートはさらに、サーキュラーエコノミーがレジリエンスに対してどのような影響を及ぼすかについて、3つの実例に基づいて慎重に精査している。

ケース1:農業からファッションまで レジリエンスを高めたインド企業の場合

インドの繊維製造Pratibha Syntex社は、6000人を雇用しながら年間5500万着の衣料品を製造している。オーガニックコットンの使用にも注力しており、35000人の農家とのネットワークを持つ。インドでは農業での過剰な土地利用による土壌消失が深刻であると同時に、貯水池の65%が干上がってしまい、水不足も深刻化している。こうした中、同社は水使用量を半減させたり、再生可能エネルギーによる創エネや省エネ、環境再生型農業への転換支援プログラムなどを実施したりと、同社の事業の多角化のほか、プログラムで支援した農家の所得向上などの効果が見られた。

ケース2:廃棄物管理で不確実性を低減したエクアドル・キトの場合

人口約300万人のエクアドルの首都キトは、Global Resilient Cities Networkの一員として、ネットワークからの支援を得ながらサーキュラーエコノミーを含めたレジリエンス戦略を推進している。住民参加の仕組みを構築しながら、有機廃棄物を収集、肥料化するスポットを設けたり都市農業を推進したほか、事業活動などによる環境負荷のモニタリングなどを行ったりしている。レジリエンス戦略の推進によって、雇用の増加や地産地消システムの構築、廃棄物の埋め立てによる環境悪化の軽減などにつながっている。

ケース3:船舶修繕を地元で実施するオランダ・ロッテルダム港の場合

世界屈指の海運都市・ロッテルダムでは、船舶の修繕に必要な部品を3Dプリンタで製造して港内での素早い修繕を可能にするイニシアティブ「RAMLAB」を行っている。RAMLABでの取り組みは、通常の部品発注に比べて材料の使用量や在庫を抑えられる上、突然のサプライチェーンの寸断にも対応できたり、業界内での協業や二次原材料による部品製造をはじめとした共同研究を促進したりすることにつながる。

今後に向けて

新型コロナウイルスの影響で今後も不透明な状況下でのかじ取りが求められる中、私たちのシステムを現在進行中あるいは未来の衝撃に耐えられるレジリエンスなものに変えることはもはや避けられない。政府と企業は、サーキュラーエコノミーとレジリエンスという2つのコンセプトをEUのサーキュラーエコノミー行動計画のようなロードマップに統合しなければならない。サーキュラーエコノミーへの転換に向けてレジリエントな考え方を適用することは、社会にも地球環境にもポジティブな価値をもたらすことにつながるだろう。

【参照記事】RESILIENCE &THE CIRCULAR ECONOMY